いやこれは良くない傾向だ。
「お待たせした」
白いヒゲが腹まである老人と中年男性が向かいに座り話し出す。
「こちらが魔法師長ヒュッテ。俺は近衛団長ウォークだ。これから、
「待て。先ず幾つか確認したい。この国の大陸はどの位置だ。世界地図を見せろ」
「……地図をここへ」
ここは言われるまま大人しくしていたら相手の思う壷とばかりに口を挟む。警護兵が近くの机から取って手渡した物を、テーブルの上に広げたウォークは説明し始めた。
「ここが現在地だ。この国の下、魔王軍は中型以上の魔物を率いて魔国から北上。今この山麓までが防衛戦で、この大河まで侵攻中。この大陸全土を魔国にしたいがための完全侵犯だ。前線まで移動に時間がかかるが、勇者殿に先ずこの集落に向かって欲しい。四日はかかるだろう」
俺は適当に聞き流して地図を食い入るように見ていた。それはやはり国土中心の端と端が繋がる形のもので全大陸を描き出している。他の大陸や小島を覚えた住処の島の形を隈なく探していく。
あった。俺の住む島が地図にあった!
自分の住む島を成田空港と重ねてピンを置き、地球の世界地図として考えてみた。多分成田十二時間フライト。渡航先はドバイやワシントンとかだ。正確な距離は書いてないから位置確認に過ぎないが、それ位離れているのはわかった。そして現在地の大陸はクロウ達が住む大陸の方が近い事もだ。それでも帰るべき場所がある事を良とし安堵して向き直る。
「それで、何故俺が喚ばれた」
「イシュー様の啓示ですな。勇者がここにいるという位置を示されたのじゃ」
「イシュー?」
「おぉ、ご存知でない?神の御言葉ですぞ。勇者殿はやはり他国から来られたようじゃな。ワシらは魔方陣の導きのまま勇者殿を受け入れておってな」
ウォークに変わり魔法師長ヒュッテはニコニコとヒゲを摩りながら言い切った。
神?いよいよ胡散臭いぞ。クロウから実在すると云われる古種魔獣や建国の祖を信仰対象にする場合があるとは聞いた。これもその類なのか取り敢えず聞くことにした。
「神とは何だ」
「地岩竜様じゃ。この大陸は魔国侵略と抵抗の歴史と共に在りでな。大昔、勇者様はイシュー様と協力して魔王を制圧したのじゃ。守護古竜様は平和をもたらす崇めるべき神じゃよ」
「この国はその神とやらと意思疎通ができると?」
訊き返しつつ炎竜のリリーちゃんが浮かんだ。基本騒々しいのを避ける竜が人に協力するなんて余程だ。
「いえ、新魔王に代替わりすると何故かイシュー様の身から剥がれた魔輝岩が光り、その石の欠片を代々伝わる召喚陣に組み込むと、不思議な事に力有る勇者様になり得る者が召喚できるのじゃ。多くの血が流れ魔王の力が不活化するまでそれは光続けてな」
代々伝わる陣もどこダレ発祥なのか怪しいのに光の数で設定したら召喚出来るだと?どこのガチャ設定なの。勇者は七つ星レジェンドか。超不運な大当たりを引き当てたようにしか聞こえなかった。
「ではその経験あるイシューに頼めばいいじゃないか。古竜は何よりも強いだろう」
ウォークは頭をガリガリと掻きながら魔狼の目をしっかり見据えた。
「あー無理なんだ。勇者候補や子孫はいるが力は普通だし。イシュー様に助けてもらいたいが竜は人を選ぶと伝わる。しかも頼もうにも姿を見た者がいないし、どう助力してくれるのかも不明だ」
「子孫?力は普通?待て。全然わからんぞ」
「そうでしょうなあ。古竜は体に纏う属性で大陸の守護や恩恵をもたらす神。イシュー様は多分地岩同化が個体特性で、地中や岩場に棲むとも言われておる。鉱石発掘にも困らないから生きてるとは思うんじゃが」
ヒュッテは苦笑しウォークへ目配せした。
そう聞くと炎竜のリリーちゃんも普段は好んで住処のマグマ沸き立つ火口に入り浸り、滅多に出てこないと思い出す。島は地下熱で温泉も湧くし噴火した過去でも人災は無い。
常人には近付けない場所を住処とする故に人は古竜になかなか逢えない。伝説の生き物と云われる由縁だ。
「実に三百年振りの侵攻だ。魔王の世代交代の戦は力試しのつもりだろう。新魔王次第で和平条約が破棄され大陸は戦禍に包まれるんだ」
「何とも迷惑な話だな」
「そうだろう?だから魔法師の少ないこの大陸に勇者様の力が必要なんだ」
これは魔王についても知っておいた方がいいが、三歳魔王を思い出す。アレと関係があるだろうか。知れば知る程げんなりした気分になって来る。これ以上聞かなくていいんじゃないか。
だって俺は勇者する気ゼロ。プーが頭に乗ってるし、早く帰ってのんびりしたいだけ。
「俺の他に今も候補がいるならその勇者に頼め。そしてイシューに協力して貰えばいい。よし解決だ」
ウォークとヒュッテは顔を見合わせ眉を八の字に困った顔をして、ウォークが我先にと口を開く。
「正直に言おう。召喚した勇者様は十代の子供が続いた。魔力も剣技も駄目で特別な力も無く泣くわ逃亡を図るわで元の世界に帰した。貴方の様な大人を待ち望んだのだ」
「異世界から来て名を残すのはニポ人という黒髪の者が多いのに残念な話じゃ。あなたは黒髪なのに目も肌も違うし、この世界の服も着ておる。他国から何か力があり選ばれたのは事実。だからこそ勇者様ですな」
「に、にぽ人?異世界?」
あっそっちの展開なんだ?と少し声高に聞き返した。
「左様じゃ。なんじゃ聞いたことがあるか?」
「いや、知らん」
この世界に召喚なんて知るわけない。ニポ人黒髪ってどう考えてもアレだ。日本だろ!
まさかの異世界連鎖。これは現実。異世界憧れて来れてもチートが必須。無いと無理。絶対死ぬ。逃げて正解。俺も逃げたい。帰りたいぞ!
表情は乏しい俺だが、日本が懐かしくなり拳を作り唇を少し噛んでいた。俺はもう魔物だ。地球の生活は無理がある。チクショー!
「勇者候補を喚べても力が伴わなず、ココは過去過ぎると文句ばかりでな、いやはや残念な事だ」
「俺も無理だから元に返せ」
ヒュッテはほっほっほと満足気にヒゲを整え、ウォークはやれやれと溜息を吐く。
スルーかよ!
ここまで聞いてソファの縁に頭を乗せ天井を仰ぐ。天井は白く草木葉模様で落ち着く色合いだった。これ以上詳細を聴き巻かれるのは終了だ。先ずはどうやってここから逃げるか考えるべきか。
俺は大事な一言を聞き逃していた事に暫く気がつかなかった。




