*オープニング「変わり果てた街」*
〝おっはよーごぜぇます、みなのしゅー!〟
…その声で俺は、目を覚ました。
〝いやぁ〜、この日が来やがるのをずぅ…っと心待ちにしていましたよ、私は〟
何が起こったのか、わからない。気付くと、こんなザマだ。眠る前の記憶が曖昧で、「いつもの四人」で東京に遊びに来ていたこと以外、よく思い出せない。ただ今わかることは、顔の見えない何者かが、虚空に出現している映像(と言っていいのかわからないがとりあえずそう呼ぶことにした)の中で話していることと、どうやらここは東京の姿かたちと全く変わらないどこか、ということだ。
「どこか」と言ったのは、この《東京》の中にも、おかしいことが2つほどあるからだ。
ひとつは、街中のあらゆる店が閉め切っている。まだ昼間なのにも関わらず、だ。
いや、「昼間」というのは少し間違っているかもしれない。そのワケが、もうひとつだ。
──空の様子が、おかしいのだ。まず、俺達の知っている「夜」ではないことは明らかだ。暗くないし、むしろ明るさだけで判断すれば昼だ、というくらいに明るい。
様子がおかしい、というのは、時々スノーノイズのように、プツリ──と白い斑点が現れたり、電波受信の悪いテレビのように、突然三原色の光が点滅することがあるのだ。まるで──映像のようだ。リアリティが、ない。
そんなことを考えていると、モニターに映る『何か』が突然、
〝おい!まーだ寝てるやついんのか、やる気あんのかよ!…あと10秒だけ待ってやるから、早く起きやがれくだせぇ〟
と言った。どこかで見ているのだろうか。
確かに周りを見ると、ほとんどの人間がモニターに注目しているのだが、その中にもまだ横たわる者がいる。しかし今の怒号で、起きた者も多いようだ。
「…んー、うるせぇなぁ」
と、一緒に来ていた三人──俺を含めると四人──のうちのひとりが言い目を覚ました。こいつはいつも、マイペースだ。
呆れていると、
〝にーい、いーち…〟
──律儀に数えていた『何か』が、顔が見えないはずの『何か』が、笑った。俺ははっきりと見た。奴の口元(?)が不気味に、両端を吊り上げているのを、確かに見た。その直後のことだ。
〝…ぜろ。時間切れでぇす〟
──瞬間、地に横たわっていたままの人間の胸が裂け、血が噴出した。
声が出なかった。…死んだ?人が、目の前で?
あちこちで、悲鳴や哀咽が聞こえる。そりゃそうだ。誰だってパニックになるし、死んだのが家族や友人なら…耐えられないだろう。
すると、
〝安心しやがれくだせぇ、「鐘」が鳴れば、その死体は消滅しやがるんで〟
慰めているのか傷を抉っているのかわからない言い方だ。ところどころから、怒鳴り声や叫び声が聞こえる。
「ふざけんじゃねえ!」「戻せ!」「どうしてこんなことに…」「どういうことか説明してくれ!」
と。すると奴は、
〝あぁ〜、うるせぇなあ、さっきのでわかりやがると思ったんだけどなぁ…私は、てめぇらをいつでも殺せるんだよ。それ以上叫びやがったら殺すぞ〟
と言う。すると、ぴたりと声は止む。やはり奴はどこかで見ているのだろうか。
〝はーはっはっ、やっぱてめぇら単純だなぁ、命を握られるとここまで従順になりやがるか〟
ここまでコケにされると、さすがに悔しい。だんだん腹が立ってくる。しかし奴の気まぐれで殺されることもあると知った以上、迂闊に行動できない。
…しかし言いたいことは、言わせてもらう。危険を冒してでも、この意味不明な状況下にいることが気持ち悪くて仕方がない。俺はどこかで見ているだろう奴に聞こえるように、
「いいから早く教えろよ、どうして俺達はこんなことに巻き込まれてんだ?これから何が始まるんだ?いい加減教えてくれよ!」
と言った。すると奴は、
〝ふぅん…こんなヤツもいやがるのか、面白ぇ。まあいい、もう少し楽しみたかったが、そろそろ《ちゅーとりある》始めてやるか〟
なんてことを言った。とりあえず殺されなかったことはよかったが、チュートリアル?まるでゲームでも始めるかのようだな。
その言葉を脳内で反芻させながら、俺たち四人は顔を見合わせた。
〝──では始めやしょう。極大プロジェクト、《東京RPC》を──〟