記憶喪失な少年とザンの仲間
次の日僕はザンに連れられ一軒の少し大きめの建物に連れて行かれた。ザンがドアをコンコンとリズムよく叩く。
「はーい」
ドアの中から聞こえてきた声は落ち着いた柔らかい声だった。ガチャリとドアが開き1人の男性が顔を覗かせている。
「どうぞ」
そう笑顔で出迎えてくれた男性は緑色のすこし長い髪を後ろで結び、モノクルいわゆる片目だけの眼鏡をかけている。ザンとは違う知的なかっこよさだ。
促されるままザンと共に部屋の中に入り、ソファーに座る。ここは客間かな。
「君がレイン君だね。僕はザンと同じパーティを組んでいる冒険者のラナスだよ。よろしくね」
そう言い向かいのソファーからこちらに手を出すラナスさん。
「よろしく、ラナスさん」
そう言いながらすこしソファーから身を乗り出しその手を掴む。いわゆる握手だ。
「なあ、レイン。俺の時は最初から『さん』なんか付けなかったよな」
「ザンはいいかなと思って」
「なんだそりゃ」
「確かにザンはそんな雰囲気ありますもんね。僕のことも呼び捨てで良いですよ」
「そうだね。わかったよラナス」
「雰囲気ってのはどういうことだ!」
「褒めてるんですよ」
「そりゃ良かった」
ザンって何というかチョロい?それよりも何しに来たんだろう。ジーッとザンを見つめるとザンもこちらに気がついたようだ。
「あ、そうそうラナス。レインのことどう思う?」
「うーん、そうですね。確かに感じませんね。とりあえずレインにこのことを説明してみてみましょうか」
「そうだな」
そう2人で話が進みゆっくりとこちらを見やる。僕の頭の中は?だ。
「なあレイン、魔法って知ってるか?」
ザンのその問いに素直に頷く。
「そうかそれなら話は早い。魔法を使うには魔力が必要だ。魔力は全ての生き物が生まれつき携えている。これは知ってるか?」
「うん。昨日図書館で見た」
「そうか。それでな、何といったらいいかー」
ザンが困ったように頭を荒々しく掻く。
「あーもう!単刀直入に言うぞ。お前からは魔力が感じられないんだ」
「どういうこと」
「生き物の全てが携えている魔力をお前は携えていない。だからと言って悪い気配も感じない。だからここに連れてきた。ラナスなら何かわかるかと思ってな」
ザンはそう言いながらゆっくりとラナスの方に視線をやる。ラナスはその視線に気がつくとうーん、と考え「とりあえず見てみましょうか」と言い服を脱いでソファーで横になるように言う。
言われた通り服を脱ぎ上向きで横になる。とても不安だ。そんな僕の心情を察したのか大丈夫と2人が微笑みかけてくれる。ラナスの大きな手が僕の心臓の上に乗り、ラナスは目を瞑り集中し始めた。僕も同じように目を閉じた。
しばらくして僕の胸から手が去っていった。
「何かが引っかかっているというか邪魔をしていますね。酔わない程度に魔力を流してみたのですがダメでした。もしかしたら大量の魔力を流すといけるかもしれませんが魔血石をこれから準備するのは時間がかかりますしね。どうします?」
「そうだな。できるだけ早く対処したいな。変な奴らに見つかると最悪連れて行かれちまう。それだけは避けたいしな。仕方ない、魔血石なしでやろう」
「そうですね。レイン、気持ちが悪くなると思いますが少しの間我慢してください」
ラナスはそう言うと再び胸の上に手のひらを置いた。