記憶喪失な少年と初めての街探索
朝目覚めると部屋の中に人気が無かった。備え付けの小さな机の上にメモが残されていた。そこには依頼で出かけることと夕方には帰ってくるということが書き記されていた。この部屋には2人だけしかしないのだがご丁寧にザンと名前まで書き記してある。
窓の外から時計台を見る。もう10時だ。少し起きるのが遅かったが昨日は大変だったので疲れていたのだろうと納得する。今更慌てても仕方がないのでゆっくりと着替える。昨日着ていた服にだ。植物で織られた少し硬い服も僕の少ない私物である。
現在住んでいる宿は寝床のみ提供する店なのでご飯は基本的に外で食べなければならない。なので着替え終わり食事できるところを探す。朝ごはんと昼ごはんが一緒になってしまうが仕方ない。酒飲み場や食事処もたくさんあったけどどれも1人で入るのには勇気が足りなかったので断念し、食べながら街を見れるように屋台で軽く購入した。購入したのはタックルうさぎの肉の串焼きだ。特に味付けはされていなかったがジューシーでとても美味しかった。しばらく街の中でブラブラしながら串焼きを食べていると他の建物と少し違う建物を見つけた。看板はなく外から中の様子を見ると図書館のようだった。中に入るため急いで串焼きを胃の中に入れた。
この街は国の王都ではないが大きい方に分類されるらしく書数は少ないが図書館があるらしい。これは、図書館の受付の人に聞いた話だ。入場するのにお金が必要みたいなのでザンからもらったお金を払い入る。中は昼間の割には人がいてそれぞれ調べ物をしている。とくに調べるものを決めていなかったのでとりあえずこの国のことが書かれている本を探し読み漁る。
この国の名前はルデウス。そしてこの街の名前はアルスということがわかった。住民は主に人間のみ。たまに冒険者の獣人を見かけるぐらいだ。獣人の国の名前はフェスト。魔族の国はデルテ。国は主にこの3つ。その他にもエルフやドワーフ、精霊などもいるがエルフやドワーフは集落。精霊は消息不明で滅多にお目にかかれない。
んー、知らなかった。これも記憶喪失の所為なのか?エルフは主に風魔法を使う。風魔法。魔法があるのか!魔法という存在は知っているが存在するとは… よし、魔法について調べてみよう。魔法について書かれた本はたくさんあったが1番簡単そうな「初めての魔法」という本を選び取った。
まず最初に魔力はすべての生き物が用いるものである。しかし、種族や個人差により量が異なると書き始めている。1番多い種族はエルフで2番目が人間、3番にドワーフで最後に獣人。魔族は個人差が激しすぎるので順位には入ってないみたいだ。
魔法使うための準備その1、神経を集中し魔力を発見する。魔力は心臓に貯蓄されそこから全身を巡っている。暖かいものが魔力である。
これぐらいなら安全そうだしここでしても大丈夫だろう。目をつむり心臓付近に神経を集中させる。しばらくしても感じない。外を見ると少し暗くなってきているので続きは宿に戻ってからにしよう。本を棚に戻し図書館を出る。冒険者が依頼を終えて外から戻ってきたのか街が賑わっている。そんなことお構いなしとまっすぐ宿へと戻りザンが戻ってくるまで集中し魔力を探す。
それから何分経ったのかわからないがドアの開く音で集中が途切れそちらを見る。
「今日は何してだんだ?」
こっちに向かいにこやかに笑うザン。
「街の探索と図書館に行ってきた」
「そうか。記憶は戻りそうか?」
「今はまだ無理そう。思い出そうとすると頭痛いし。でも軽い常識は覚えてる。種族とか。でも国の名前とかはわからない」
「そうか。ゆっくりでいいからな」
そう言いながら僕の頭を撫ぜる。
「ん」
恥ずかしかったので俯きながらそっけない返事をした。
「そうだ。明日は用事があるから開けとけよ」
「わかった」
「それじゃ、夕食にしようか」
そう言いドアを開け僕に出るように促す。それに従い部屋から出る。ザンと一緒に昼間見た1人で入るには勇気が足りなかった食事処に入った。
「明日はレインの服を買うか」
「いいの?」
「おう、俺に任しとけ」
「ありがと。それが用事?」
「違うぞ」
「そっか」
自分から話すのは少し苦手。沈黙の中注文したものが届きそれをもくもくと食べた。食べ終わった後に突然睡魔が襲ってきたので宿に戻る。濡れたタオルで体を拭きすぐに意識を保てず眠った。