記憶喪失の少年
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「んっ…」
少し寒い。体がぐちゃぐちゃに濡れている感覚がある。それに何だか体が揺れていて人の声が聞こえる。誰だよ、僕の体揺らしているのは。
「んー」
やかましい声と刺激から逃げるように寝返りを打つ。それでも逃げることができず少しずつ意識がクリアになっていく。
「ふぁー、何の用ですか」
仕方なく体を起こし自然に出たあくびにしながら僕に声をかけ続けていた人を睨みつける。男性のようだ。髪の色が赤くサッパリとした短髪。こちらを見る男性の表情は起きてくれたことにホッと安堵しているようだ。年齢は20代半ばかな?身長は高く細長いイメージ。だが、ひょろいという感じではなく、なかなか鍛えられていてしっかりとしている。
「大丈夫か?」
地面に座っている僕に手を差し伸べ、僕の返事を待っている。ここで初めて顔を見た。整っている顔立ちに少し苦労人の香りがする。爽やか系というやつだろうか。
「大丈夫」
少し無愛想だったが返事をし、差し出されている手につかまる。
よっと、そんな掛け声とともに体を引き上げられ立ち上がる。
「道端に倒れていたが怪我はないか?あ、俺はザン。冒険者をやってるんだ」
「怪我はない。僕は…」
ズキン
「痛っ」
突然の頭痛に頭を抱えしゃがみこむ。
あれ?僕の名前は?家族は?出身地は?な、何も、何も思い出せない。
思い出そうとしても激しい頭痛が襲い思い出すのを妨害しているようだ。
ドウシヨウ。ボクハダレダッケ。
「おいっ!大丈夫か!」
「ぁっ」
ザンの手が僕の肩に触れ、ビクンと体が反応し飛び跳ねる。見上げると心配そうなザン。ポタ、ポタポタ。僕の顔に雫が落ちる。
あ。雨だ。ザンの顔から色の悪い空へと視線を変える。だから体が濡れていて少し冷えているのか。
「レイン」
気がつくとそう呟いていた。
「え?」
「僕の名前、レイン」
呟いた瞬間これが僕の名前だと直感で思った。
「レインか。いい名前だな。それより頭痛は大丈夫か?」
「うん」
「そうか。それじゃあ日が暮れそうだから急いで街に戻ろう。歩けるか?」
「うん、歩けるよ」
そういい、寒さで強張った体を持ち上げた。町までの距離はそう遠くなかった。徒歩15分くらいだ。歩けない距離ではなかったけど少し疲れた。街に入るには身分証明書が必要とか何とか。門番さんに記憶がないことを伝え幾つかの質問に答えた。といっても初めの質問の名前しかわからなかった。あまりに答えられないので手荷物検査も受けたがびっくりするぐらい何も持ってなかった。本当はこういう場合は街の中に入れないかお金を取られるんだけど子供だということで許された。僕子供なんだ。自分の容姿をまだ見ていないのでわからないが容姿は子供のようだ。子供だっけ?思い出せない。少し腑に落ちないがお金を払うのも門前払いも嫌なので何も言わないで行こう。門番さんが身分証明書がないなら作ったほうがいいということなのでただいま冒険者ギルドというところに来ている。冒険者登録をすると冒険者カードが貰えそれが身分証明書となるそうだ。もちろんザン同伴だ。
「はい、登録完了です。半年間依頼を受けずにいると停滞状態になり使用できません。再使用には1000円かかるので気をつけてくださいね」
渡された用紙に色々と書き込み冒険者ギルドの説明や依頼の受け方を聞き登録完了。
記憶がなくても読み書きができるってことは身につけたことは忘れないってことかな?
これからは宿を取るんだとか。ザンのご好意である程度までは面倒を見てもらうことになった。1人部屋だとお金がかかるので同室だ。明日からは別行動でザンは依頼に出かけるらしい。僕は街探索を予定している。お金は少しだけ貰った。明日が楽しみだ。これからは少しずつ独り立ちできるように頑張っていかなくては。