二人の日常4
第四話です
午前中の授業も終わり、周りのクラスメイト達はそれぞれが、昼休みを過ごす場所へと散らばってゆく。俺はもっぱら、食堂で友達と昼飯をのんびり食べているので、教室から人が出て行き、数人程度の女子グループが、机を囲んで弁当を食べているだけとなった教室から出て行き、食堂へ向かう。やはり廊下を歩いていると、まだ生徒から奇異の目で見られている。仲の良い奴には、会う度に、
「妹にやられたのか。」
「兄貴も大変だな。」
などと言われ、妹以外が原因だと考えている奴は一人としていなかったのは、非常に悲しかった。このままの調子が続けば、今日の夜は枕を濡らすことになりそうなくらい、俺の心はえぐられ続けている。今までも似たようなことはあったが、両方の頬を殴られて学校へ行ったのは、初めてかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、案外すぐに食堂に着いた。うちの学校の学食はかなり充実しているため、昼飯をここで済ます生徒は結構多い。特に多い時には、食事を受け取るために、食堂の外にまで長い行列がのびる。普段の時でさえ、食堂内の席の大半が埋まっていることはざらにある。
今日は比較的生徒は少なめで、席もある程度余裕があった。食堂の中を見渡すと、隅の席に座ってラーメンの汁をすすっている、一人の男子生徒を見つける。俺はいつも彼と昼飯を食べているため、自分の食事を受け取って彼の元へ向かう。
「よう、元気か?」
俺の声に気づいたらしく、ラーメンを食べる手を止め、俺の方へ視線をやる。外見は可もなく不可もなく、といった感じなのだが、中性的な顔立ちをしていて、運動、勉強共に秀でた才能を持つ、いわゆる文武両道という奴だ。普通なら、異性からも好意を持たれる人間なのだが、この学校ではそのような浮いた話は全く聞かない。というのも、こいつは少々性格に難ありで、
「おう、お前か。その顔はまた妹にやられたな? それにしても、かわいい妹に殴られるなら、俺は金を払ってもいいと思うがな。かっかっか… おっ、あの女子のおっぱいめちゃくちゃでけえぞぐふふ! おい、お前も見て見ろよ。」
…今日も、下衆全開だった。こいつは人前でも構わずに、このような話をしているため、女子からの好感度は最悪。これではモテるはずもない。高校に入って初めて会った時から、今と同じような性格で、二年経ってもほとんど、というか全く変わっていない。悪いやつではないのだが、一緒にいると非常に面倒くさい。本人もそのことは分かっているらしいが、一向に性格を直す気配はない。
「とりあえず落ち着けよ。隣の女子が、汚物でも見るような目でこっちを睨んでんだよ。俺まで同類扱いされたくはないからな。」
すると彼は、鳩が豆鉄砲をくらったような目で俺の方を見ている。数秒間そのままの状態で固まって、元に戻ったかと思ったら、ため息をするなり、
「お前… 本気で言ってるのか? はあ… 今までも何回か言ってきたが、この学校にお前以上の変わり者はいないと…」
「そのセリフは聞き飽きたんだよ。まあ、俺は認めないがな。お前の方こそ変わってると俺は思うがな。いい加減、なりふり構わずそういう話をするのはやめろよ。」
「俺が言ってる〝変わってる〟っていうのはそういうことじゃないんだよ。お前も本当は分かってるんだろ?」
彼はいつになく真剣な顔で、俺の顔を見つめている。
「さあ、なんのことだかさっぱりだ。それより早く食っちまおうぜ。昼休みが終わっちまう。」
「…まあ、お前がそれを望むんなら、俺はそれでもいいと思うけどな。…だが、そんなものがいつまで続くかは分かんねえぞ。」
それ以上彼は言ってこなかった。もしかしたら、俺に気を遣ってくれたのかもしれない。いや、きっとそうだろう。それから俺たち二人は、今までの会話はなかったかのように談笑しながら昼飯を食べた。彼はさっきの俺の言葉など忘れ、口を開けば女の子の話ばかりしていた。
「おい、あの子、お前好みの顔じゃないか?」
「俺は妹以外の女子には興味がないんだよ。わかってるだろ?」
「堂々とそんなこと言える奴、なかなかいねえぞ… それにしても、いいよなあ、可愛い妹がいて。俺も自分に似た可愛い妹が欲しいぜ、全く。」
「お前に似て可愛いってのはないだろう。」
「真顔で辛辣だな... まあ、妹以外興味ないってのは、ある意味尊敬するよ、全く。」
「だが、今の俺は妹に嫌われ、生きる意味を失いそうなんだよ…」
このまま妹の機嫌が直らなかったら、俺はどうなってしまうのか想像もできない。
「そういえば、その顔は妹のせいなんだろ? それで一体妹に何したんだよ?」
別に嘘をつくようなことではないし、彼なら人に言いふらすような奴ではないので、正直に話す。
「誕生日に俺の自作小説をプレゼントしたんだが、内容が妹の逆鱗に触れてしまってな… 今朝は俺が起きた時には、もう家を出ていたからまだ機嫌を損ねたままなんだよ…」
「両方の頬を殴られるとは、よっぽどだったんだな… でもお前とあの妹ならすぐ仲直りできるだろ。ああ、喧嘩したわけではないんだったな。」
一時限目の休み時間に、彼女に言われたのと同じことを言われた。少し奇妙な感覚だったが、気の置けない友達(片方は友達かは微妙だが)二人から同じことを言われ、俺は心の底で妹の機嫌は直ると、小さな確信を抱いていた。
ありがとうございました
※登場人物の名前を考えているのですが、なかなかいい名前が思い付かないので、どなたかいい名前があったらコメントで教えて下さい