二人の日常
初めて書いた作品です。どうかお手柔らかにお願いします
秘妹
民法第七百三十四条 近親者間の婚姻の禁止
第一項 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
第二項 第八百十七条の九の規定(実方との親族関係の終了)により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。
もとから結果は見えていた。
「お兄ちゃん!」
そう叫び、俺にすがる妹を、ただ見つめていた。そこから先の言葉は、風の音に掻き消され、聞き取れなかった。妹は見えなくなるまで、俺のことを見ていた。
俺は、最低だ。
今、俺の目の前には、妹が生まれたままの、一糸まとわぬ姿で床に座り込んでいる。顔は赤みを帯びていて、艶やかな肌はほんのりと上気している。繊細で今にも壊れてしまいそうな裸体をまじまじと見つめる。我が妹ながら、なんて愛しいんだと、思わずため息がでる。
「お兄ちゃん…私、恥ずかしいよぅ…」
そう言う妹の顔はさっきよりも赤くなり、まるでゆであがったタコのようだ。
「恥ずかしがることはないんだよ、妹よ。さあ、身も心もお兄ちゃんにまかせてきなさい。」
妹は少しためらいつつも、やがて顔をうつむけて、
「うん…わたし、がんばるっ。大好きなお兄ちゃんのためだもん。」
と消え入るような声で言った。
そして俺は妹に寄り添い、二人で愛を確かめ合う。妹は始めは少し抵抗していたが、ついには自分から身を預けてきた。そして、一体どれほどの時間が経っただろうか。俺と妹は体を重ね、ひとつになった。
そして二人は禁断の夜を、
「なによこれぇぇ!」
とあるマンションの一室、夜も更け、明日も学校、仕事がある人達はもう布団の中で、夢の世界へと逃避している時間だ。隣の家にまで、彼女の甲高い声が届いたのではないだろうか。
ふと、目線の先の時計に目をやる。現在の時刻は午前一時三十六分。いつの間にか、日をまたいでいた。そんな中、つい数分ほど前まで静かに、とある紙を読んでいた妹が、今では読む手を止めて、震えている。俯いているため、その顔色を窺い知るとこはできない。
「お兄ちゃん… ちょっと聞くけど、これはなに?」
頭を上げた妹の顔は、明らかに引きつっていた。
「なんだ、さっきも言っただろう。お前への誕生日プレゼントだよ。」
そう、今日(正確には昨日なのだが)は妹の誕生日なのだ。この日のために去年の誕生日が終わった時から、準備を進めてきたのだ。去年、プレゼントとして自分が箱の中に入って、「愛する妹に僕をプレゼント!」と言ったら、無表情、かつ無言で階段から箱ごと突き落とされた。そのため、今年は一年かけて、リサーチにリサーチを重ねたのだ。時には妹の学校に侵入して、私物をあさったり、またある時は、妹のパソコンに入り込んで、データをすべてコピーしたりもした。
はたまた、妹の交友関係を洗いざらい調べたりもした。まあ、青い服を着たおじさんにつかまったりもしたが、データは死守できた。うん。
そんなこんなで、最終的に俺が出した結論が、妹をヒロインにした小説だ。これでも俺は国語は得意で、昨日のテストも、自己採点をしたら満点だった。それにしても、解答欄が一つ余ったのはなぜだろうか。きっと先生のミスだろう。全くしっかりしてほしいものだ。
そして、約三月ほどかけて、小説を書き上げ、今日(しつこいようだが正確には昨日)ついに妹に渡した。自分としては、良い出来に仕上がったと思う。
だがしかし、妹の反応は、予想とは少しばかり違っていた。
「だよねえ… で、聞きたいことは色々あるけど、まず、何で私は裸で座ってるの?」
「決まっているだろう。裸は人間の美の象徴だからだ。」
ボッティチェリのヴィーナスの誕生にはじまり、特にヨーロッパでは、人間の裸体は理想の美とされ、芸術作品にも人間の裸がモチーフとなっているものが多い。さらに、女性の裸体は高い芸術的価値があるのだ。まだまだ人間の裸の素晴らしさを挙げれば、きりがないのでここでやめておく。
「ふーん… そう。じゃあ、何でこんなものを私にプレゼントしたのかなあ?」
妹の顔は、まだにこわばったままだ。固く微笑んでいる表情と相まって、非常に怖い。
「妹のかわいさを最大限表現するには、文字にするのがいちばんぶほぁっ!」
右の頬を思いっきりなぐられた。しかもグーだ。俺はとっさに顔をおさえた。
「それに、この"体を重ねてひとつになった"ってなんなのよ!」
「ああ、それはもちろん二人が合体した、という意味でだな…」
「…それは深い意味はないのよね…?」
妹は俺に詰め寄り、なおも顔を強ばらせ問うてくる。
「いや、二人で性こ」
言い終わる寸前、妹の張り手が飛んできて、既に殴られた右頬をビンタされた。俺は後ろに倒れ込んだ。
「もう我慢できないっ!… …最近妙に大人しいと思ったら、こんなもの書いてたのね…」
妹は腰に手をあてて、頬を膨らませている。そんな顔もかわいいと言ったら、今度は左の頬を殴られた。今度はパーだ。人さえ殴らなければ良い妹なんだが、どうも手が早くて困る。
「全く…これは私が責任を持って、処分しておくから。お兄ちゃんはしばらく反省しててねっ!」
「ま、待ってくれ! 俺の妹への愛の手紙が!…」
「これ、ラブレターだったの?…」
俺の懇願もむなしく、妹へのプレゼントは、シュレッダーへ直行し、幻の作品となった。しかも妹が読んでくれたのが、全三部作の中の第一部第一節第一章序章「愛の生成」だけだったのは、俺の心をへし折るには十分だった。この後、第一部では「愛幸」をテーマに二人の愛の発展が、第二部では「悲愛」をテーマに愛の切なさ、儚さを通じて二人の行き違いを、そして最後の第三部で二人の愛は真実となるのだが… せめて第一部第四節第十三章終章「愛情と快楽」までは読んで欲しかった。その章で二人は改めて愛について考え、"愛"とは何かを導き出すのだ。いつかその時が来たら、もう一度書き直して妹に渡したいと思う。
妹が出て行った後、ふと部屋の鏡を見ると、右の頬は腫れあがり、左の頬は手の跡が赤く残っているという、どう見ても人に見られたら、言い訳できない顔をした男が映っていた。
「学校でなんて説明すっかな…」
そんなことを考えつつも頭の中では、来年の誕生日プレゼントのことしかなかった。アイデアがあふれ出し、眠れそうにないと思ったが、わずか五分後には、風呂にも入っていない、少しばかり汚れた体にどっと疲れが押し上げ、容赦なく眠気が襲ってきた。
プレゼントのことに加え、妹の機嫌をどうやって直そうか、あのことをいつ伝えようか、やるべきことは尽きないが、体は正直だった。
その後、俺は久しぶりに、深い眠りにつくことができた。
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