4~求む! みそっかす姫の名誉
「王の眼前で優勝するために、ここにやってきた。それは、他の剣士もみな同じだ。誰もが優勝するためにここにやってきているし、俺も――もちろん、そうだ」
「そんなの……詭弁じゃないか」
何を期待していたのだろう。
ウェラディアは肩すかしをくらったような心地に、小さく呻いた。
そんな言葉が聞きたかったんじゃないのに。
思わず唇を尖らせてしまい、慌てて、顔を俯せる。そこに、
「そりゃそうだ……ははは……そりゃそうに違いない! 最初から負けるつもりで参加する奴なんてそもそもいないよな! 確かにおまえの言うとおりだ、ロードナイト」
明るい声が、またしても物思いを破って、ざわついた食事処に響き渡る。
苦い顔で睨みつけたところで、カルセドニーは秀麗な顔を思いっきり歪めて、腹を抱え、涙を流しながら笑っている。
何がそんなにおかしいのよ――。
「おい……笑いすぎなんじゃないか?」
ウェラディアは呆れたようにため息をひとつついたけれど、ちらりと横目で見るロードナイトはもう言うべき言葉はないとばかりに涼しい顔で、スープを口に含んでいる。
何なのよ、このふたり――。
もしかして、ふたりは元からの知り合いで、初めて会うふりをしてウェラディアを担いでいるんじゃないだろうか?
そんな益体ない考えが頭をよぎるけれど、それならば、推薦状のことをいま知ったというのもおかしい。
偶然に、ウェラディアを助けてくれたことさえ――。
ため息を一つ吐き出して、ウェラディアは心を決めた。
「ま、まぁいい……。ちょうどひとり分、枠が空いてるからって誰かいい人はいないかって知り合いから頼まれていたし……その分を、おまえに回してやることにする……べ、別におまえの言葉にほだされたわけじゃなくて、俺を助けてくれた礼なんだからな!」
「それはそれは光栄なことで」
すまし顔で慇懃に答えられると、かちんと頭に血が昇りそうになってしまう。
落ち着け。落ち着くのよ、ウェラディア。
「あーそれと、もう一つ、条件がある」
「どうぞ。俺にできることなら何でも」
しれっと返答され、逆にウェラディアの方がうっと言葉を詰まらせた。
まるで、選考大祭に出られるなら、どんなことでもする――そんな言葉にも聞こえる。
さっきまで、男装したウェラディア――従騎士のデュライのことを子ども扱いして頭ごなしに怒鳴りつけてきたくせに、もし推薦状がもらえるなら、今すぐこの大勢の人前で、自分の足元に跪けと命令したとしても、構わずにしてみせる――そんな覚悟さえ、うっすらと感じられる。
この青年、どういう奴なんだろう?
よくわからないままに、ウェラディアは気を落ち着かせようと、紅茶をひと口含んでから、言葉を続けた。
「俺に空白の推薦状を埋めたいと頼んできた方は……いまここで名前を明かせないが、去る高貴なお方だ。その方のために、すべての戦いを……推薦者の名誉の為に戦うと誓え。それが……推薦状を頼んでやる条件だ」
名誉。
それこそがみそっかす姫などと渾名されているウェラディアにとって、心の底から求めているものだった。
跡継ぎの王女として、誰もが認めるような結果を得られなければ、やはりと嘲笑われ、ウェラディアの名誉は地に落ちてしまうだろう。
ロードナイトは透明な勿忘草色の瞳に、何か探るような光を湛えて、ウェラディアの蒼い瞳を見つめ返してくる。
何か文句を言うつもりなら――。
言葉を重ねようかと考えていたところ、端正な顔が、ふっと破顔した。
期せず月光の精霊のような美貌に艶やかに微笑まれ、胸の鼓動が不規則に跳ねてしまう。
胸覆いのコルセットで押し潰した胸が苦しい。
ちょっとこんなの、反則じゃないの!
心の中で苦情の声を叫んでいると、低い甘やかな声が耳に届いた。
「それはもちろん……十分な条件だ」
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【次回予告】
第二章-1 昼食はどきどきの戯れに彩られ!?