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みそっかす王女と二人の紋章騎士~男装の姫は麗しの騎士に口づける  作者: 藍杜雫
第七章 カルセドニーの疑惑、ロードナイトの戸惑い
24/42

6~昼食と慰めと明日のために-2

じろりと睨みつけてみるけれど、澄ました顔は鉄壁の微笑みを浮かべたまま、カジキマグロの煮込みを口に運んでいる。


街の食事処と違い、天井の高い部屋は、音がこもったようにくぐもり、人の話す声がただ意味をなさない雑音となって反響していた。

ともすれば、辺りに漂う音に掻き消されて、互いの言葉がうまく聞き取れないくらい。

カルセドニーがふと、外の光と目を向けて、碧玉の瞳を眇め、遠い目をしたときもそう。


「ベスト十六か……遠いようで、あっという間のようにも思えるな」

唐突に吐き出された言葉は、いつだったか王都の食事処で漆黒の騎士の歌はもう歌わないと話していた時と同じ響きを帯びていて、ウェラディアは思わずまるく大きな瞳を瞠ってしまった。


ベスト十六。

それはただ、千人を超える参加者たちの中からたった十六人だけが勝ち残ったというだけでなく、マナハルト国王に直接会えることを意味している。

のも 文試。武術実技。王の面接。

その三つの試験によって漆黒の騎士を選ぶ――触れ状にはそう書かれていたものの、前哨戦によるふるい落しと、文試上位者による優遇措置が勝ち抜き戦に反映されたことを考えれば、武術実技が判断基準の一番の軸となっているように見える。


今回の面接は、どのように反映するのか。

あるいは人となりに問題がないかどうか、確認するのが目的なのか。

考えることはたくさんあったけれど、ただ選考に有利になるという以上に王と直接会える――単純なその事実が、漆黒の騎士を目指す者にとって、どれだけの意味を持っているのだろう。


王女であるウェラディアにはまるで実感がわかないけれど、士官の可能性を広げるかどうかいったことも含めて、ベスト十六まで残ることは参加者のひとつの目標となっていた。

カルセドニーは、ふ、と自嘲気味に喉の奥だけで笑うと、一転して、いつもの人を食ったような顔に戻り、にやりと笑う。


「王と会うまでは、勝ち残らないとな。だいたい王都にいても陛下に直接拝謁する機会なんてそうそうあるもんじゃない」


「あ、やっぱりカルセドニーだってそうなのか」


「当たり前だろ。うちは王都の貴族といったって大した家柄じゃないからな。間近で拝謁なんてしたら、緊張のあまり、妙な事を口走ってしまいそうだ」


「漆黒の騎士になろうというものが、そんなこと言っててどうする……。ああ、そうだな。案外陛下の前で緊張してちゃんと話せなかったら落とされるとか、そういう理由でやるのかもな、面接」


「ロード……おまえな、そういうこと言うなよ」


「あくまで推測だ。まだ事実じゃない」

ふたりのやりとりを聞きながら、思わずウェラディアは目を見張っていた。


仮にも貴族だからだろうか。カルセドニーは切れ長の瞳に秀麗な容貌をしている。けれども、やさしげな顔立ちをして淡々としているロードナイトと比べると、表情豊かで、その顔立ちの鋭さをあまり感じさせない愛嬌があって、とても親しみやすい。親しみやすいのに、どこか捉えところがなくて、なんだか気になってしまうところがある。

なのに、いつも飄々と捉えどころがない黒髪の青年が、珍しく苦りきったような顔をするから、ウェラディアは思わず目が離せなかった。


「頭ではわかっているんだよ、俺だって――」

頭を抱えて、テーブルに顎を突く姿は、どこか可愛い。

思わず、よしよしとばかりに撫でてあげたくなってしまう。

さらりと流れる黒髪にウェラディアが誘惑されていると、ロードナイトは、澄ました顔でカルセドニーの迷いを断ち切るように問いかけた。


「漆黒の騎士の歌は、もう歌わないと決めたんだろう?」

憧れで終わらせるのではなく、現実にするために。

雲の上の存在を、ちゃんと存在するただ一人の人間にするために。


「……そうだったな」

ロードナイトとカルセドニーはこの大祭に参加する原点となった想いを再確認するように、視線を交わし合っている。

ウェラディアが、真白と漆黒の剣が交わる紋章旗が、翻る瞬間を思うときのような――懐かしさと憧れと――恋心にも似た強い感情が、碧玉の瞳と勿忘草色の瞳に垣間見える。

憧れで終わらせたくない――ウェラディアだって、強くそう願っている。


自分だけの騎士を見つけるために、王位を継ぎたいのか。

王位を継ぐために、自分だけの騎士が必要なのか。


正直まだ、よくわからないけれど。

気付かれないように小さくため息を吐き、意識して明るい声を出す。


「人数が少なくなれば、きっとさくさく試合は進むんじゃないか? 思い悩んでいるうちにあっという間に、面接の日がやってくると思うぞ。もちろんちゃんと勝ちあがれば、だけど」


「違いない。今日で四回戦までが全部終わることになって、残り人数は……」

「六十四名」


「さっすが、文試一位!」

「……あのなぁ、このくらいの暗算、誰だってすぐにできるだろ」

ウェラディアの冷やかしに、ロードナイトはいやそうに顔を歪める。けれども、こればっかりは、できるものとできないものの間に、深くて暗い溝があった。


「聞きました、奥様? 誰だってすぐにできるですって!?」

「聞きましたわよ。やはり文試一位ともなりますと、いうことが違いますわねぇ!?」

嫌味たらしくひそひそとあげつらねると、清冽な顔がまたぴくりとこめかみをひくつかせた。

 

明日土曜日は21時更新予定

【次回予告】

6~昼食と慰めと明日のために-3

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