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みそっかす王女と二人の紋章騎士~男装の姫は麗しの騎士に口づける  作者: 藍杜雫
第七章 カルセドニーの疑惑、ロードナイトの戸惑い
23/42

6~昼食と慰めと明日のために-1

  †    †    †


「なんだ、おまえ負けちゃったのか!? まぁ、仕方ないな……もうさすがによほど運が強くても、腕に覚えがある剣士しか残ってないからなぁ。でも二回も勝ち抜けたんだから、よくやったよ。おまえの推薦をした人も、褒めてくれるんじゃないか?」


「う……うん、まぁ……うん……そうかな」

「そうそう。褒めてくれないなら、代わりに俺が褒めてやるから、いつでも言え」

「うん……ありがとう、カルセドニー」

仕方ない――あっけらかんと言われてしまうと、抗う気持ちが沸き起こる以前に、それもそうかという気がしてくるから不思議だ。

心に沁みるとかそういうのではないけれど、満面の笑顔でいわれるせいなのか、カルセドニーの言葉は、変な説得力がある。


三人して、昼食を食べようという話になり、城の中の食堂にやってきた。

外城の一角にある食堂は、普段は城勤めの文官や衛士のために作られたものだったけれど、いまは大祭参加者や見学者にも開放され、所狭しと人が集まり、ずいぶんと賑やかだ。


城と街が離れてることもあり、食堂はもともと一般の見学者たちも有料で利用することができるようになっていた。けれども、参加の証となる木札を見せれば無料で昼食がとれるとあって、大祭の参加者たちはみな、自分の組み合わせの合間を縫って、思い思いに食事を取っているようだった。


メニューはその日の肉料理、その日の魚料理、その日の特別料理と三種類しかないけれど、城で出されている賄いとあって、味は悪くない。

ウェラディアは今日の特別料理になっている東方の味噌風味の豚汁をスプーンで掬い上げて、一口、口元に運ぶ。


ちなみにカルセドニーは今日の肉料理で、鳥肉の香草焼き。ロードナイトは今日の魚料理で、カジキマグロの煮込み胡椒仕立てを頬張っている。

カジキマグロは大レイン川を遡って南方から届けられる海の幸で、ここ最近王都では人気があるから、城でもたびたびメニューに上がるらしい。


「そんなこと言って、余裕だな。人のことばかり気にしていたら、おまえの方こそ足下を掬われるぞ。肝心の明日になって負けたら、どんな顔しているか楽しみに見に行ってやる」


「あ、そういうこと言うかなぁ? おまえの方こそ、デュライの面倒を見ている場合じゃないだろ。試合数が少なくて、まだ試合勘が湧いてないんじゃないか?」


「冗談言うな。いつだって、急な襲撃にも対応できる――それが漆黒の騎士を目指すものに求められる資質だろう?」


「うん……ロードナイトはちゃんとその資質があるよな」

ウェラディアは強く確信するように言い切った。

だって、そうでなかったら――。

ウェラディアは初めて自分を守るように立ってくれた背中を思い出す。


『それに、本当に腕が立つ剣士なら、こんな弱い者虐めのようなことは、絶対にしない』


あのとき。

灰水色長上着の裾がはためく様に、紋章旗が翻る姿が重なって見えた。


いくら木刀での打ち合いとはいえ、とっさの判断で割り込むのに、危険がないわけでもなかったろうし、キディンの腕が立つことは見てわかっていたはず。素早い判断と俊敏な動きがなかったら、あるいはロードナイトだってこれからの大祭に差し支える怪我をした可能性だってあったのだ。


――それでも、ロードナイトは私を助けてくれた。

ウェラディアのそんな心の内を見透かしたように、カルセドニーが言葉を引き取る。


「そうだよなぁ……だからこそ、おまえは最初にキディンに打ち込まれ弄ばれていたこいつを助けに入れたんだもんなぁ……あれは本当に絶妙な動きだった。――ずっと手合わせするのを楽しみにしていたんだが、中々当たりそうになくてなぁ……」


「なるほど……それであのとき、大剣に執着してたあの貴族と仲裁してくれたってわけか? 残念だったな。今のところ、決勝戦まで行かないと当たりそうにないぞ」


あれ? なんだか突然、空気が変わったような――。

ウェラディアがわけがわからないまま、円卓の向こうに座るふたりの顔を代わる代わる見ていると、カルセドニーもロードナイトも、顔だけは微笑んでいるのに、目が違う。どう見ても笑っていない。


どことなく、剣呑な空気が流れているように感じるのは、気のせいだろうか。

それとも、いままでウェラディアが気づかなかっただけで、ふたりは初めからお互いを好敵手として意識していたのだろうか。


カルセドニーとロードナイトの戦いかぁ……。

頭の中で想像してみると、それはそれで悪くない。というか、見ている分には、非常に目に楽しい――ような気がしてくる。


「うん、それもいいな……非常に目の保養――じゃなくて、いい対戦カードじゃないか。楽しみだ。もっとも明日の夜も同じことを言っていられるかによると思うけど?」

どうかしら。

蒼い瞳に挑戦的な光を宿して問いかけると、ふたりして、きょとんと意味がわからないような顔になり、碧玉の瞳と勿忘草色の瞳を交わし合っている。


そこからいち早く、ウェラディアが言う意味を察したのはカルセドニーの方だった。

切れ長の秀麗な相貌に、いつもの、どこかおどけたような表情を取り戻して、「あ、そうか」と手を打つ。その顔には、もう鋭さの欠片もない。


「そういえば、明日勝ち残れば、ベスト十六になるもんな」

「そのとおり」

ウェラディアはよくできましたとばかりに満面の笑みを返す。


「ベスト十六――そうか。明日勝つと……いわれてみれば、そうだな……全然気づかなかった」

どこか呆気にとられたような表情をしているロードナイトは、この選考大祭ではどうやら常に後手後手に回っているらしい。推薦状しかり、王都での宿の取り方しかり。


もっとも、それでも勝ち上がってきているのだから、それで充分なのかもしれない。

とりすました顔が、呆気にとられた表情になると、どこかしら可愛くさえ見える。

ぷぷっと笑いを堪え切れなくなったところで、慌てて手で口元を覆い隠したけれど、間に合わなかった。


「デュライ、おまえ何笑ってるんだ」

長い腕が伸びてきて、大きな手のひらでぐわし、と髪を掻き混ぜられてしまう。

う。


いや、なんかその……なんだろう。髪を掻き混ぜられるのもそうなんだけど――整った顔が少し照れくさそうに睨みつけてくるとか、勘弁して! とか叫びたくなってしまう。

ロードナイトってば、一見近寄り固いくせに、こういうの反則だと思う。

本当は、もう終わりにしようと……自分が王女だって告白しようとしてたのに――。

親しくなったら、そんな無防備な顔を見せるなんて……。

この場所を手放せなくなってしまうじゃないの!

カルセドニーはカルセドニーで、ニヤニヤ笑って見ているし……どうなのよ、この状況。


「おまえまたそんな事していると、どこかで誤解されても知らないぞ?」

「あのな……おまえだって兄弟がいるんだから、わかるだろ? うちは妹しかいなかったから、弟がいたらこんな感じかな~と思って」


弟。弟か、この扱い。

妹と弟の違いなんて、兄弟姉妹がいないとウェラディアには、いまいちよくわからない。


「う~ん……うちは性格が正反対すぎて、どちらかというと本の方が好きな弟だからなぁ……面倒を見ることがあっても、こいつみたいに無茶したのをフォローするって感じじゃないんだよな」


「無茶ってなんだよ。別にあんなの普通だろ? それより、ロードナイトはカルセドニーの屋敷に泊まってるなら、弟さんと会ったことがあるんじゃないのか?」


「いやいや、うちの弟はいまちょっと離れた学院の寮に行ってて、家にいないんだ。まぁ確かに……デュライみたいな弟がいたら、それはそれで楽しそうだけどな」


「面倒見るのが大変そうで――という意味か?」

何故そこで、あえて悪い解釈を付け加えるのかな……。

 

終わらなかったというか、

むやみに長かったから分けた。

なんだこの長さ…(遠い目)

三回分だった(;゜ロ゜)

かんこれしてばーいじゃない!!

金曜日は21時更新予定


【次回予告】

6~昼食と慰めと明日のために-2

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