面接官
素っ気ない長机の向こうに3人並んで座った面接官は、まるで三つ子のようにそっくりだった。
もちろん、よく見ればそれぞれ顔立ちの異なった赤の他人である。しかし、7・3にきっちり分けた髪型といい、度のきつそうな黒縁の眼鏡といい、白シャツにグレーのスラックスという無難すぎる出で立ちといい、構成要素がみな同じなのだった。年齢もたぶん、全員40代後半。
没個性的、平凡、凡庸、といった単語が次々と脳裏に浮かび、俺は内心溜息をついた。
人事課の採用担当者がこんな感じなのだから、実際の職場の雰囲気は推して知るべしだ。どう考えたって余所者の中途採用がバリバリと能力を発揮できる会社ではなさそうだ。
案内された会議室らしき部屋は、何だか薄暗い。そして蒸し暑い。
梅雨の晴れ間の午後だから、外も死ぬほど暑かった。ここへ来る途中、駅のホームでもムッとする熱気が凄くて、倒れそうになったほどだ。
節電の風潮に倣って、ここも冷房がうんと控えめになっているようだ。面接官たちは3人ともノーネクタイのクールビズスタイルだが、面接を受ける立場の俺はきっちりとスーツに身を包んでいる。背中にも、椅子に触れる太腿の下側にも汗を掻いて不快だった。
上着を脱いでもいいですよ、の一言くらいないものか……。
「あー、では、檜山さん……でしたね。ご存じの通り、今回は若干名の臨時募集です。相応しい方がいなければ無理に採用するつもりはありませんので、条件は相当に厳しいですよ」
面接官のうち『真ん中』がそう切り出した。『右側』と『左側』は手元の資料に目を落としている。事前に送った俺の履歴書と職務経歴書だろう。
俺は気を取り直し、元気よくはいと答えた。もちろん分かっている。自分が今まで希望してきた業界や職種とかけ離れているものであることも。俺にはもうそんなことに拘っている余裕はないのだ。
『真ん中』は机に肘をつき、さっそく最初の質問を始めた。
「まず、志望動機から聞かせて下さい」
覚悟はあるが、緊張はなかった。面接も30社を超えると、自分でもさすがに慣れてきたものだと思う。
俺が10年勤めた会社を退職したのは、半年前のことだ。
国立の4年制大学を卒業し、不景気の波を掻い潜って就職した、一流といわれるハウスメーカー。販売部、資材調達部、営業部と数年ごとに異動してキャリアを積み、昨年配属になった企画部営業戦略室で、俺はプロジェクトリーダーに選ばれた。
ここまでは順調だった。そしてここから先は、まあ、世間的にはよくある話だ。
上司にあたる室長と、俺は折り合いが悪かった。若い奴らで好きなようにやってみろ、という企画部長の推しを真に受けた俺は、旧来のやり方をわざと無視した企画を次々に出し、それが室長の目には生意気に映ったらしい。室長は俺の提案にことごとく難癖をつけて、何度も何度も差し戻した。
「室長の頭は古すぎるんスよね」
飲み会で、同じチームの後輩は愚痴を零した。
「役員の遠縁か何かのコネでうちにいるらしいですけど、あのオジサンまったく使えませんよ。檜山さんの足引っ張るばっかで、自分じゃ何も動かないじゃないですか」
「責任取りたくないだけでしょ、どうせ」
「部長はこんな現状知ってるですかねえ?」
管理職抜きの、気心の知れた同僚ばかりの飲み会だったからか、他の後輩たちの口も軽くなって、日頃の鬱憤をどんどん吐き出した。
そうか俺だけじゃなかったのかと勢いづいた俺は、さっそく次の日、室長のやり方に対する不満を企画部長へ申し入れた。
そして――効果はさっそく表れた。1週間後、俺に異動辞令が下ったのである。行き先は、地方の支店だった。
もちろん俺は納得できないと企画部長に抗議したが、
「会社の決定には従ってもらうよ。行きたくないと言うのなら、君にしてもらう仕事はない。それが組織というものだ」
言葉は厳しかったが、小学生にでも説いて聞かせるような口調でそう言い渡された。
同僚たちからの弁護はいっさいなかった。俺の後任には、飲み会で室長に対する不満の口火を切った後輩が選ばれたという。
俺はそいつにも部長にも室長にも会社にも腹が立って、その場で辞めると宣言し、翌日には退職届を提出してやった。もうこんな気持ちの悪いしがらみに縛られた会社には愛想が尽きたし、自分ほどのキャリアと能力があればどこででもやっていけると思ったのだ。
だが、俺はそのうち自分の甘さにも腹を立てることになる。
『一身上の都合』で退職してしまったため、失業手当が3ヶ月間ももらえないということにまず驚いた。
また、毎月給与から天引きされていた年金や保険や住民税を自分で払うとなると、結構な負担になることも意外だった。
それでも退職金もあったから、最初は俺も心配していなかった。
まず前職で付き合いのあった取引先の担当者に連絡を取り、中途採用の機会がないか聞いてみた。だが彼らは皆一様に、困惑したように首を振るばかりだった。気の毒そうに、でも明らかに迷惑そうに。
在職中にはあれほど親身になって対応してくれて、時にはプライベートの話でも盛り上がったというのに――俺は正直ショックを受けた。そして、彼らが付き合っていたのはあくまでも一流企業の看板を背負った俺だったのだという、当たり前すぎる事実にようやく気づいた。
同じ理由で、俺のキャリアもやはり社内でしか通用しないものであったらしい。転職のエージェントサイトなどにも登録してみたが、希望の年収、職種では紹介がほとんどなく、あっても年齢制限で撥ねられたりした。世は俺の新卒就活時代よりも不況だったのだ。
いろいろ妥協して、大企業は諦め、人手不足に喘ぐ中小企業に狙いを絞ることにした。会社の規模は小さくても、そのぶん自分の能力を買ってくれればと思ったのだ。急成長する有望株の中小で働くのも面白そうだった。
しかし、またしても俺の考えは甘かった。ある会社では経歴が立派すぎてやってもらう仕事がないと言われ、ある会社では大企業で駄目だった人がうちで務まるはずがないと言われ、またある会社では正直に言った希望年収の額でドン引きされた。
俺はすっかり自信をなくし、もうこれはしばらく腰を据えて頑張るしかないと長期戦を覚悟した。それで、専業主婦の妻にもパートに出てくれないかと頼んだ。
「実は私、妊娠したの。今3ヶ月だって。なので、しばらく実家に帰ります」
妻はあっさりそう言って、ローンの30年残ったマンションを後に、地方の実家へ帰って行ってしまった。
お決まりの志望動機、これまでの経歴、前職を辞めた理由などを、熱心な口調で俺は話した。
もう会社の規模とか業種とか年収に拘りはなかった。とにかくどんな形であれ正社員として再就職しないと、ローンも返せないし妻も帰ってこない。生まれてくる子供にも会えない。
こんな崖っぷちまで追い詰められて、俺の中にようやく危機感が湧いてきたのだ。つまらなさそうな会社であれ、拾ってくれれば絶対に一生懸命働くと決心していた。
3人の面接官は、興味があるのかないのか分からない同じような表情で聞いていたが、俺の説明がひと通り終わると、何やら書類に書き込みをした。一応脈ありと取っていいのだろうか。
「うん、よく分かりました」
『真ん中』が眼鏡の縁を押し上げながら言う。
「ええと、檜山さん、うちは結構業務の幅が広くて、もしご縁があってあなたが採用になったら、あなたにも雑用から何からいろいろやってもらうことになると思うけど、それは大丈夫ですか?」
「はい! もちろんです。前職での経験が生かせれば嬉しいですが、未経験の分野についても勉強させて頂きます」
ここぞとばかりに俺は意気込んで答えた。大企業でのキャリアに胡坐をかいた嫌な奴だと思われては大変だ。
『真ん中』は曖昧な笑顔になって、また眼鏡を直した。
「それじゃあね、次の質問、あなたの特技は何ですか?」
「はい、英会話です。前職で資材購買部在籍していた時、海外出張も多かったので、一般的なビジネス英語には不自由しません。昨年のTOEICの点数は……」
「ああ、そういうのはうち、必要ないんだよねえ」
前のめりになってアピールする俺に向かって、『右側』が初めて口を開いた。
「語学よりさ、そうだなあ……あなた、歌は得意?」
「う、歌?」
「そう、歌」
あまりにも意表を突いた質問に、俺は言葉を失った。ていうかこれは冗談なのか? オヤジ流の。
「……普通だと思います」
「ちょっと歌ってみてよ」
冗談にしては度が過ぎているし、『右側』の表情は真面目だ。残りの2人もうんうんと肯いている。
試されているのか? 俺の本気度が試されているのか?
躊躇はわずかの間だった。俺は失礼しますと言って椅子から立ち上がり、両手を後ろで組んで大声で歌い始めた。数年前に流行った男性ボーカルのバラードだ。
実は俺は音痴だった。付き合いでカラオケには行くが、マイクが回ってくると必ず失笑を買う。だが今はそんなことに構っていられなかった。度胸試しのようなものだろうと腹を括って、俺は調子っ外れのバラードを絶唱してやった。
面接官たちは、まるでアイドルのオーディションをするプロデューサーのように神妙な顔で、俺の下手な歌を聴いていた。そして俺が曲の1番のサビまで歌い終えると、はいはいと言って止めた。
「もういいよ、ありがとう。座って下さい」
「はい……」
俺は再び椅子に腰掛けて、額にどっと噴き出した汗をハンカチで拭う。正解だったのか……今ので?
困惑する俺に、今度は『左側』が話しかけた。
「うちの部署は、結構力仕事もあるんだけどね、何かスポーツとか経験ある?」
「陸上を……高校時代までは陸上をやっていました」
「へえ、種目は?」
「中距離です」
「中距離か……投擲種目ならよかったのになあ。腕力が必要だから」
またおかしなことを言い始めたぞ、と思いながら、俺は力強く肯いた。
「腕力にも自信があります!」
「そう、じゃ、腕立て50回、やってみる?」
『左側』は挑戦的に俺を眺めてそう訊く。受けて立ってやろうじゃないか。
俺は立ち上がって上着を脱ぎ、ネクタイを緩めると、床に俯せになった。自分の汗でワイシャツに汚れがついたが、気にもならなかった。
「じゃあいくよ。いーち、にーい……」
『左側』の号令に合せて腕立て伏せを始める。
陸上部でいた頃は中距離選手といえども筋トレは必須で、50回くらいはチョロかった。だが社会人になってからは、ジムに通っていた時もあったが仕事が忙しくてやめてしまい、ここ数年は本格的な運動不足だった。
思った通り、20回を過ぎたあたりから腕が震え、腹筋が情けなくプルプルし始めた。肩の骨も痛い。明らかに肘の曲げ方が浅くなってきている。
「にーじゅごー……大丈夫?」
「大丈夫……です……」
『左側』の声が不安そうに気遣ったが、俺は根性で頑張った。大量の汗が頭や襟元から滴り落ちて、床にぼたぼたと垂れた。
最後の方はかなりいい加減な姿勢になってしまって、これが陸上部の練習なら先輩の怒号が飛んで来ただろうけれど、何とか50回までやり遂げた。俺は床に這いつくばり、ゼーゼーと瀕死の老人のような呼吸を繰り返した。両腕にもう感覚はなく、肩から腿にかけても石みたいに強張っている。明日はひどい筋肉痛に苛まれることだろう。
「ご苦労様」
『左側』がかなりの間を取ったのは、俺を休ませてくれるためだったのかもしれない。俺はさらに数秒おいて、ようやく、本当にようやく身を起こした。
背凭れに縋りつくようにして椅子に戻った俺に、面接官たちは生真面目な視線を向けていた。感心した様子も失望した様子もない。ましてや自分たちの悪ふざけを真に受けた若造を嘲笑う様子もなかった。
「あなたの熱意は伝わりました。ではこれが最後ね」
『真ん中』がゆっくりと言った。
「うちはたいへん大勢の顧客を抱えていて、一度にたくさんの方がおみえになることもあります。そんなお客様を瞬時に見分けて選別しなければいけないので、動体視力、これがどうしても必要になります」
「は……はあ……」
「ちょっとこれ、やってみてもらえますか?」
彼は長机の下から何やら取り出して、俺に差し出した。
それはどう見ても『モグラたたきゲーム』だった。畑を模した緑色の円盤に、6つの穴が開いたあのゲーム。直径40センチほどの家庭用サイズだ。
「こ……これって……?」
「我々の業界では『ヤギたたき』と呼んでるんだけどね、ヒツジとヤギが出てきて、ヤギだけを叩くの。ヒツジを叩いたらゲームオーバー。スイッチはそこ、ハンマーはこれね。はい、やってみて」
俺はもう訳が分からず、言われるままに小さなピコピコハンマーを手に取り、膝に乗せた本体のスイッチを入れた。
本当に何でこんなこと……この会社の採用基準ってどこにあるんだ? 歌の上手さや腕力や動体視力が、この業種に本当に必要なのか?
あれ……そもそもこの会社、何をしている会社だっけ……?
ジジジ……と歯車の回る音がして、数瞬の後、円盤の右端の穴からいきなり白い物体が飛び出してきた。俺は反射的に、そいつに向かってハンマーを振り下ろした。
めええええ、と情けない声がする。ハンマーの下では白いもふもふした塊が悶えていた。
面接官たちがいっせいに溜息をついた。
「それヒツジだよ、檜山さん」
分かるかっ、そんなの!
非常に気まずい沈黙が続いた後、3人の面接官は示し合わせたように手元の資料を手に取り、いそいそと揃え始めた。面接が終了した合図だ。
「うちはいつもそうしてますので、この場でもう結果をお伝えしますね」
『真ん中』が眼鏡の位置を直して、穏やかに告げる。『右側』と『左側』も肯いた。
俺は慌てて居住まいを正し、手にしたままのゲームの扱いに迷ったが、とりあえず足元に置いた。
『真ん中』はわずかな苦笑を口元に刻んで、
「残念ながら、あなたは不合格です。何だかいろいろ残念だったんですがね……うちに来て頂いてもお願いできる仕事はありません」
「そっ、そんな……」
自分でも意外なほどショックだった。意味の分からないことをさんざんやらされたが、これほど一生懸命、恥も何もかもかなぐり捨てて頑張った面接は初めてだったのに。
こういうことだけはやるまいと心に誓っていた振る舞いを、俺はやってしまった。
「お……お願いします、もう一度! もう一度だけチャンスを下さい! 絶対に御社のお役に立てますから」
と懇願しながら、すでに立ち上がりかけた面接官たちに取り縋ってしまったのだ。ふた昔前の人情ドラマじゃあるまいし、と呆れる冷静な自分がいる。それでも、俺は引けなかった。
「子供が生まれるんです! だから俺はちゃんと働く責任があるんです。四の五の言わずに、家族のために一生懸命……お願いします! チャンスを下さい!」
しろと言われたら土下座でもするつもりだった。無様なことこの上ない。30社も不採用を食らっておいて、今さら何をここまで食い下がっているのかと我ながら不思議だったが。
面接官たちは困ったようにお互い顔を見合わせたが、しつこい俺を迷惑がったり蔑んだりする素振りは見せなかった。むしろ優しい仕草で俺の肩を叩く。
「そうですか、それはおめでとう。だったらなおさらあなたを採用するわけにはいかないね」
「どうして……」
「さ、どうぞお引き取り下さい。今度はお客様としておみえになるのをお待ちしてますよ」
噛んで含めるようなその口調は、部長が俺に引導を渡した時のそれに似ていた。
軽く肩を押されただけなのに、俺は物凄い衝撃を感じて、そのまま仰向けにひっくり返った。
轟音が頭の中で鳴り響いた。
世界が揺れるほどの強烈な音――土砂降りの雨音に似ている。そしてサウナのような熱気と湿度、鉄の焼ける異臭。身体を揺さぶる地響き。
俺は目を見開いた。それで、今まで目を閉じていたことに気づく。
視界は青かった。一面真っ青な、梅雨の晴れ間の空だ。
背中が痛かった。どうやら俺はひどくゴツゴツしたものの上に寝転んでいるようだった。
訳が分からず、そのままぼうっとしていると、やがて人のざわめきが近付いてきて、視界に2人の男の顔が入って来た。
「無事だ! この人無事だよ!」
「大丈夫ですか!? 怪我はありませんか? お客さん!」
男たちは寄ってたかって俺の身体を起こした。訳が分からず、俺がきょろきょろすると、辺りから歓声が上がった。
俺は、線路の上に座っていた。正確には2本の線路の間、敷き詰められた砂利とコンクリートの枕木の上に。
見上げた先には駅のホームがあって、大勢の乗客が身を乗り出してこちらを見物している。俺を助け起こしたのは、そこから飛び降りてきた駅員らしい。
「ええと、俺、どうしてここに……」
呆然とする俺に向かって、駅員は興奮した様子で言った。
「ホームから転げ落ちたんですよ。覚えてないんですか? すぐに電車が入ってきてもう間に合わないと思ったけど、いやー、奇跡だ!」
「あんたの上を電車が走っていったんですよ! ちょうど線路の隙間に身体が嵌って無傷ですんだんだなあ。運がいいよ、あんた!」
その言葉の通り、線路の先には緊急停止したらしい電車の最後尾が見えた。車掌が慌てて駆け下りてきている。
だんだん記憶が戻ってきた。
そうだ……採用面接に向かっていた俺は、最前列で電車を待っていて……あまりの暑さに立ち眩みがして……。妻が実家に帰ってから、外食ばかりでろくな食事を摂っていなかったから、貧血を起こしたのかもしれない。
俺はいそいそと全身を触って確かめた。確かにどこにも傷ひとつない。少しでも身動きしていたら、頭も腕も持って行かれていたはずだ――ようやく実感できて、背筋が冷たくなった。
とりあえず病院行きましょうと言う駅員に支えられて、俺は立ち上がった。足が震えた。
俺のせいで電車が1時間も止まってしまい、俺自身も検査のために病院へ運ばれたので、その日受けるはずだった面接はドタキャンせざるを得なかった。病院から電話して平謝りした俺を、先方は意外にも鷹揚に許してくれて、その上別の日に面接の機会を設けてくれた。
それがご縁というものだったのかどうか、結局俺は今その会社で働いている。
前職のハウスメーカーとは比べ物にならないほど小さな工務店の営業職。給料も下がったし残業も多いが、中途採用の俺にもいろいろ任せてくれるので、まあ、やり甲斐のある仕事と言えるだろう。
妻はあのまま実家で出産したが、その後、息子を連れてちゃんと帰ってきた。
今でも時々考える――ホームから転落して九死に一生を得たあの時、一瞬のうちに見ていた夢は、本当に夢だったのだろうか。
あの三つ子のような面接官、あれはもしかしたら、あの世で働くスタッフを採用する担当者だったのではないか。
次々と訪れる死者たちの罪状を瞬時に見分ける目を持ち、天国においては美しい声を響かせ、地獄においては罪人たちをその腕力で追い立てる、優秀なスタッフの臨時募集――あれはそういう面接だったのではないか。
幸いにも不採用になった俺は、無事この世に帰還できた。
今度はお客様としておみえになるのをお待ちしていますよ――そう俺に告げた面接官たちは、だとしたら、天使だったということになるのか。ずいぶんパッとしない天使だ。
もう臨時募集があっても呼び出してくれるなよ、と、俺は空を見上げて呟いた。
電車を待っていて思いついた話です。
自分の行動範囲の狭さが嫌になりますね。
就活中の皆さん、会社はよく見極めて下さいね!