とんち天狗とはったり和尚
-天狗とオカメのルーツは、日本神話でした―-。
-昔―-ある山奥の、持国寺という寺に、一行という和尚が居りました―-。
-いつからか、麓の里に通じる峠道に、天狗が現れ、村人にとんち問答をしかけ、答えられないと荷物や握り飯を奪うという事が起こりました―-。
-村の吾助も、麓の里で売るつもりだった炭を取られてしまったと、一行和尚に泣きついたー-。
-和尚は「こうなったら、天狗をこらしめてやるか―-そうじゃ―-為吉の女房のお竹が丁度よい―-二人を呼んで来てくれんか―-」と言った―-。
-お竹は「おらぁー-天狗なんて、おっかなくてやだよ―-」と、ぐずっていたが、一行和尚が「村のためじゃ―-」と説得し、葬儀用の桶の中に入ってもらい、為吉と吾助がそれを担いで、和尚が先導し峠道に向かった―-。
-和尚らが峠道に差し掛かると、突風で砂塵が舞い上がり、皆は砂を嫌って目を閉じた―-。
-しばらくして風がおさまったので、三人が目を開けると、果たして目の前に大きな天狗が立っておったので、吾助と為吉は尻もちをついて、お竹の入っている桶は、ドスンと落ちた―-。
-しかし、さすがの一行和尚は天狗に怯まず「お前か―-村人に悪さをする天狗とは―-!」と言った―-。
-天狗は「坊主と桶を担いだ者と―-弔いか―-しかし、わしのとんち問答にこたえてもらわねば、ここは通さんぞー-!」と凄んだ。そして「夜は、何者によってもたらされるなりや?」と訊いた―-。
-和尚は、即座に「夜は、日がくれるのじゃ―-」と喝破したので、天狗は「しまった~!」という様な顔をした―-。-和尚は続けて「それでは今度は、わしの番じゃな―-気性の明るい美人とは誰じゃ―-?」と訊いた―-。
-天狗は、座り込んで腕を組んだり首をひねったりして考えておったが、やがて両手を地面について「わからん―-!」と降参した―-。
-和尚は「未熟者め―-!-それは、楊貴妃じゃ―-!」と応えた―-。
-悔しがる天狗に、和尚は追い討ちをかける様に「わしを只の山寺の坊主と思うたか―-わしは、高野山の空海じゃ―-!」と言った―-。
-天狗はポカンとした顔で一瞬沈黙したが「あの―-高野山の空海様と言えば―-弘法大師様ですか―-?」と訊いた―-。
-和尚が「そうじゃ―-弘法大師じゃ―-!」と応えたので、天狗は「あの―-その弘法大師様が、どうしてこんな所にいらっしゃるのですか―-?」と訊いた―-。
-和尚は「わしは、瞬く間に日本中、何処にでも行けるのじゃ―-」と応えたが、天狗は半信半疑であった―-。
-和尚は天狗に「あまり信用しとらん様子じゃな―-それなら、わしの法力を見せてやる―-千年も前に死んだ者を甦らせてやろう―-」と言うと、何やら呪文を唱え始めた―-。
-すると、吾助と為吉が担いできた桶の蓋がガタガタと鳴った―-。-手筈通りに二人が桶を縛った縄を解くと、中からお竹が出てきたが、彼女は見事なオカメ顔で、それを見た天狗はギクリとした―-。
-お竹は桶から出るとゆっくり天狗に近づきながら「猿田彦様―-お会いしとうございました―-!」と言ったので、天狗は真っ青になり「ウズメ~?~わっ~わしは、猿田彦などでは無い―-!」と叫んで、天空に舞い上がり、そのまま一目散に逃げて行ってしまった―-。
-お竹と為吉、そして吾助は、安心して力が抜けたのか、その場にへたり込んだ―-。
-吾助は「和尚さん―-どうして天狗は逃げたんだね―-?」と訊いた。-和尚は「まず、修行中の身である天狗は女人には触れる事は出来ん―-そして天狗とは、元々は大昔の猿田彦の神で、今の天狗はその子孫じゃ―-猿田彦の女房は、天のウズメで、オカメの元祖じゃ―-天のウズメが出てきたら、そりゃぁ驚くじゃろう―-」と言って、カンラカラカラと笑った―-。
-吾助も為吉も、その話を聴いて、大笑いしていたが、お竹だけは「誰がオカメの元祖じゃ―-!」と、しもぶくれの顔を更に膨らませて怒っておった―-。
-名もなき山寺の和尚なんだけど、頼れる一行和尚―-。
-又、別の話に登場してもらおうと思っています―-。