第10話「天真爛漫之天邪鬼神」
「次は私の番だね」
鬼が楽しそうにそう言って右手を上に振り上げる。
その反動で鉄球も上に振りあがり、今度は重力で落ちてくる。
その際、鉄球は急激に大きくなりヘルの元へ落ちてくる。
ヘルはそれを凍らせる事により一瞬操作できるようになるが、
再び温度が上がり操作不能になる。
しかし、その一瞬操作できるようになったわずかな時間で鉄球の下から逃れる事は出来た。
ヘルは物の温度を一瞬で0度以下にする力を持つが0度以下の物を操作する力も持つ。
そのおかげで鉄球の落下速度を遅くし逃れる事が出来たのだ。
しかし、鬼はそれを見て特にうろたえる事も無く笑顔でいる。
すると今度はヘルの剣が急に小さくなり出した。
握る場所を失い剣はものすごく重い針のようになる。
ヘルはその針のようになった剣先で手を切ってしまった、
しかしまだ、剣は小さくなり続ける。その結果掴むのも難しくなった剣は
傷口を通し体内に入ってしまう。
小さいからか、特に痛みは無い。手を切ってしまった痛み以外何も感じられないのだ。
しかし、右手が異様に重い。そんな中、鬼は言う。
「今痛くはないけど、それを膨張させたらどうなるか分かるよね?」
それを聞きヘルはハッとし、剣をしまう。心の中に……
心にしまってしまえば能力の効果は無いのか、右手からも心からも重みが無くなる。
しかし、もしあれが己の剣ではなかったら状況は絶望的だっただろう。
今でも、絶望的だが……
なんせ自分の能力の利かない相手と対峙しているのだ。
そんな状況に見るに見かねたのか、紅葉がヘルと鬼の間に割って入る。
「ちょ、待てよ! もういいだろう!」
しかしたまたま鬼が手を振りかざした時に出てきたので
大きくなった鉄球が紅葉に直撃する。
しかし紅葉に当たった瞬間、鉄球は元の大きさになってしまう。
鬼はその事に驚きが隠せないのか目を丸くして紅葉を見る。
鉄球の勢いに倒れて行く紅葉を……
大きさが元に戻ったとはいえ元が鉄球
当たった所が腹だったのと棘のない所が当たったのでそこまで大きな怪我はないが、
頭にでも当たっていれば大惨事となっただろう。
それにしても鬼がそこまで強く手を振っていなかったのか、
思っていたよりダメージは低く腹を抱え地面を転がる程度で済んだ。
「あ~あ……なんかやる気が無くなってきちゃったよ。少年に感謝するんだね。」
鬼はそう言ったが心では本当に謝罪している。
無実の少年に暴力を振るった事と、ナンバー5の名を奪った事を……
しかし、彼女は偉そうな態度を取らなければいけない。鬼なのだから……
今もこうして心を痛めながらこの場を去ろうとする。本当は仲良くしたいのに、
自分が鬼と言う理由だけで孤独に走る。人とは仲良くしてはいけないと言う偏見で。
鬼と人は永遠仲良くなる事は出来ないだろうと言う思い込みで。
しかし彼女がこんな事を思うのも訳がある。
彼女は過去に人と問題を起こしたのだ。問題とは言ったが実は彼女には罪は無い。
心汚き人間によって無実の罪を着せられ、それから人間とはあまり関わらない様にしてきたのだ。
もし彼女が人間ならば無実だっただろう、しかしただ鬼と言うだけで悪者扱い。
彼女はそんな人間にうんざりしていた。しかし本当はやり直せたらやり直したいはずだ。
けど、やり直せない。彼女は鬼のだから……
もう人間の心には鬼=悪、そんな考えが普通になってしまっているのだから。
しかしこんな彼女が学園に来たのも訳がある。
彼女からしたらさっさとその訳とやらを解決して鬼の住処に帰りたいだろう。
彼女はそんな事を考えながらこの場を去る。少年はそんな鬼を呼び止める。
「どこへ行くんだ?」
それは何の変哲もない言葉、しかし鬼にはその言葉が救いの言葉に聞こえたかもしれない。
『どこへ行くんだ?』これだけならこの後に自分の事を悪く言うかもしれない。
逃げるのか? など。しかしそれを思わせないほど優しい声
深淵の闇から救い出すために差し出された光の手。そう感じ取れる。
そして鬼が振り返る時に少年は続けて話す。
「逃げるのか?」
鬼はこれ聞き一瞬、怒りに震える。
自分の事を救ってくれるかのように呼び止めてくれた優しい声。
しかし、その声の優しさは嘘だった。罠だった。
自分に期待させるだけさせて陥れる罠。
だけども、鬼は怒りに震えるだけで少年に何もしなかった。
少年にこんな事を言われても仕方がない理由があったからだ。
一度振り返ろうと首を軽く横に振った顔を元に戻し再び去ろうとする。
そして少年がまた呼び止める。
過去の自分の本気。
心境を詳しく描いてて、私的には良いと思います。
ナルシストじゃないですよ?^^;
今はめんどくさいので、ここまで詳しく書かない。と言うだけの話です……