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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
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第63話「運命の時」

 優々とそびえ立ち、荒れ狂う大地。

 轟々と音をたてる風。

 深々とそれ以外語らない景色。

 そんな場所で、小さな少女、アンノウンは剣を振るっていた。

 対する老人、イシュタルは、その剣を禍禍しい心剣で弾き、その攻撃を凌ぐ。


「あーうー。イシュタル。前々から危険な人物だと思っていたけれど、この騒動の黒幕はあなただったんだね」


 アンノウンは攻撃を続けながらも言った。


「あぁ、そうだ。だがこんなもの、我が計画の序章に過ぎんがな」


 対してイシュタルはそれを防ぎながら答える。

 その言葉を聞き、アンノウンは攻撃の手を一度休め、改めて言った。


「だったら、私はあなたと戦い、そして殺さなければならない」


「もちろんだ。お前と私は戦うべくしてここに居る。そして貴様も、レーテーと同じく、我が過ちを正してくれる人間だと信じているぞ」


 イシュタルはそれだけを答えると、反撃へ移るべく剣を振る。

 アンノウンはイシュタルの連撃を剣で受けるが、その一撃一撃が重く、攻撃を防ぐたびにバランスが崩されていく。

 そして、とうとう完全に体制を崩されてしまい、禍禍しい剣を首元に添えられてしまう。

 そんな状況でアンノウンは言った。


「今まさに殺そうとしている人間に言うべき台詞じゃないよぉ」


 アンノウンはそう言うと、後ろへ飛び退き、心剣である本を出現させ、イシュタルへ向けた指先から電流を発生させる。

 それは空気中を走り、イシュタルの元へ瞬時に迸るが、イシュタルはそれを剣で後ろへ弾き流すと、背後のあった岩を粉砕した。

 あまりにも人間離れし過ぎたその回避方法に、思わずアンノウンは嫌な汗を流し苦笑いを浮かべる。

 それに対してイシュタルは、指先をアンノウンに向けると、真似するように電流を走らせた。

 しかしそれは普通の電流などではなく、黒く発光し、さらには宙を無駄に円を描いて走るなど、普通ではありえない軌道でアンノウンに迸る。

 そしてそのあまりにも予測しずらい攻撃を、アンノウンは光の壁を自分の周囲全体に張る事で攻撃を凌ぐが、気が付いた時にはイシュタルが急接近しており、光の壁を心剣で粉々に砕き散らし、アンノウンの首元を掴み上げる。

 

「貴様には少し先だが、未来が見えているのであろう? ではわしのこの後の行動も貴様にはお見通しなのだろう」


 イシュタルはそう言うと、力一杯にアンノウンを投げ捨てる。

 とても老人の力とは思えないほどに吹き飛ばされ、地面を転がるアンノウン。

 そこでアンノウンは受け身を取って投げ捨てると、喉元を押さえながら言った。


「……。あなたにだけは渡してはいけないね。この未来を見る力」


 アンノウンは、自らの心剣である本を地面に捨てると、剣で本を突き刺した。

 すると激しい風が吹き荒れ、本はびりびりに裂かれていく。そして千切れたページが風に飛ばされ散った。

 そして以前に我が力にしたであろう心剣使いの心剣が破れたページから現れ、地に刺さる。


「これで私の力はあなたに奪えないし、私も自分の力も含め、能力を行使する事も出来ない。煮るなり焼くなり好きにしてどーぞ」


 イシュタルはアンノウンの顔を凝視する。

 そして不気味な笑みを浮かべて言った。


「ではそうさせて貰おう」


 イシュタルは心剣を出現させ、アンノウンに歩み寄る。

 アンノウンは両腕を広げ、瞼を閉じた。

 そんな状況でイシュタルは悠然と言った。


「わしが欲しいのは、未来を見る力なんぞではない。……貴様の心を奪う力だ」


 アンノウンの表情に焦り、そして怒りと憎しみが現れる。そして最後は涙を流し、歯を食いしばり悔しみが現れた。


「やっぱり……そうだよね……」


「能力捨てるなどと……嘘が見抜けんと思うたか? 剣は器。所詮器に過ぎん。力を宿すのは、お前の心なのだ」


 アンノウンは半ば諦め混じりながらも、イシュタルの胸部目掛けて剣を突き刺す。

 そして意外にもそれは直撃した。手応えもあった。驚くほどにあっさりとその攻撃は成功し、逆にイシュタルの力を奪える所まで来た。あと奪うだけ。


「油断……大敵だよ……」


 そして能力を発動させると、アンノウンを強烈な違和感が襲う。

 あまりにも異常なその違和感に、思わず剣先に視線を向ける。

 すると、そこには柄があった。

 それをイシュタルは当たり前の様に握ると、それをアンノウンの胸部へ突き刺す。


「なんで……?」


「わしの力の一つにこんなものがある。教えてやろう。相手の能力をそのまま相手に返す力……だ」


 アンノウンの体が半透明になっていく。

 しかし、どう言う訳か完全に消える事は無かった。


「ほう、力の持ち主は消えんのか。まぁよい。実体はもはやなく、心も奪われ、記憶が具現しただけの存在が漂うだけだ。しかし、それも時期に消えるだろう。残された時間を絶望の中で過ごすが良い」


 イシュタルは高笑いを浮かべると、そのまま闇へと姿を消していく。

 残された記憶の具現は無表情のまま、もたつかない足取りでイシュタルの後を追いかけるとその場に倒れこんだ。

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