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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
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第60話「哀れみの指摘」

「……おはよう、秋葉ちゃん」


 秋葉の耳に酒呑童子の声が聞こえる。

 重たい瞼を開けて周囲を確認すると、そこは小さな部屋の中だった。辛うじて人一人が横たわられる程のスペースに正しく秋葉が横たわっている。

 そして窓があった。その窓に大粒の雨が打つかっては今も流れている。

 そこまで理解して秋葉は、ここが車内だという事に気が付いた。


「ここは……」


「安心して。安全な場所よ」


 秋葉はゆっくりと体を起こし、車の外をぼんやりと眺める。

 やはり当然のように雨が激しく降っており、地面をぐしゃぐしゃに汚していた。


「あ……え?」


 しかし、それ以外の光景があまりにも異様過ぎて、秋葉の声を濁らせてしまう。


「なに……これ……」


 人が倒れていた。それも数え切れない程に。

 そして建物の大半が破壊されており、壁に穴が開いているなんて事はもちろん、ひどい物は転倒してしまい、原形を留めていなかった。

 そんなゴーストタウンの様に廃れてしまった街中を、歩いている人影もいくつかは見える。


「気を付けて。奴らは敵よ。私たちを見つければ襲い掛かって来るかも知れない。だからその肩の傷を癒すためにも今はここで安静にしてて」


 その時、秋葉はこの車が酒呑童子の物では無く、その辺で朽ちていた物だと察した。そしてそれを裏付ける様に、車の外装もお世辞にも褒められたものではなく、雨風を凌ぐのがやっとと言う所だった。


「ところであの髪の長い方はどうしたのですか? それとエグセント様は?」


「あの子は分からないわ。……同時にエグセントの行方も分からないの」


 酒呑童子は言葉を濁らせながら答えた。

 そして以外にも、秋葉は割としれっと返事をする。


「そう……なのですか……」


「でもきっと大丈夫よ」


 酒呑童子が元気付ける様に少し明るく言った。

 なのに対して秋葉は、またしれっと返事をする。


「何が大丈夫なのですか?」


「エグセントもあの女の子もどこかへ避難してると思うわ。大丈夫」


「そんな事、良く言えますね?」


 秋葉は酒呑童子に睨み、今までの様子とは打って変わって強く低く言った。


「……え」


 思わず言葉を失ってしまう酒呑童子。

 そんな中、秋葉が唇を噛み締め、体を震えさせながら続けて言った。


「仕方が無いとは言え、エグセント様を殺したのはあなたでしょう。未熟ながらそれぐらいの事は察しています。けど、本当に本当に仕方が無いのは私も重々理解してます。なので、そこへ私情は挟みませんが、あなたはもっと哀れみを持ってください」


「あなた……なぜそこまで……。いや、確かにそうね。ごめんなさい」


 酒呑童子がしゅんとしていると、突如地面が激しく揺れだす。

 二人が慌てて外を確認すると、半壊しているビルが今まさに崩れ倒れているところだった。

 そして目を凝らして良く見ると、同時に一人の少年が崩れ行くビルから落ちている。

 しかしその少年はそんな状況だと言うのに、余裕の表情が滲み出ていた。

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