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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
56/62

第59話「最後の時」

 意図しない爆発。そして無差別に攻撃する者。これら脅威によって無数の人々が、各々(おのおの)に悲鳴をあげ、我先にと逃げ惑っている。その人々が織り成す激流


の中、その流れに逆らうように人々の中を肩を切って歩く女性が居た。


「あらあら。困ったものね。非常に厄介な状況だわあ」


 その女性はこんな状況にも関わらず、崩れない笑顔のまま、人々の逃げ惑う方向と真逆の方へ歩いていた。

 そしてその先には、既にボロボロになってしまった校舎から、逃げ遅れた十数名が出てきている。


「んー。ここかしら?」


 女性はそのまま躊躇いも無く、校舎へまっすぐと進んでいった。

 中は以外にも人気は少なく、さっきまでとは違い、割と自由に歩く事ができる。それでも逃げようと必死に走る数人とぶつからない様に気を付けなければならないが


、女性は割と自由の聞くこの空間がさっきまでの状況よりは気分良いらしく、鼻歌交じりに歩いていた。


「ふんふんふ~ん」


 そして女性が丁度、中庭に足を踏み入れた時、すぐ横に大きな物体が落ちてきた。

 あまりに突然な事に、女性は小さな悲鳴あげてしまう。

 そのまま女性は恐る恐る視線をそちらに向けると、それは若い青年だった。

 声にならないうめき声を上げ、細かく痙攣をしているかと思えば、微塵も動かなくなってしまった。

 女性は思わず口に手を当て、そのまま上を確認する。

 何者かが教室から、こちらを見ていた。


「犯人ね」


 女性は小さく呟くと、高く飛び上がる。

 そして、その人物が覗いていた教室の窓に着地すると、すぐにその人物が話し出した。


「アンダンテ先生。こんな所で何をしているのですか? 安全な場所に逃げろと学園からの指示が出ているのでは?」


「うふふ。そうね。確か……ヘルちゃん? あなたにはそう言う情報が届いていると思うわ」


「はぁ。なにやら裏がありそうな言い方ですね? 先生」


「裏? 裏も表も無いわよ。そしてあなたがそれを気にする必要も無いわ。……なぜなら、あなたはここで死ぬのだから」


 そう言ってアンダンテと呼ばれた女性は、まるでタクトの様な心剣をヘルへ向ける。


「……私は生き残るべき存在故、こんな所で死ぬ訳には行きません。先生が私に剣を向けるのであれば、私は全力で抗うまでです!」


 同じくヘルも剣先をアンダンテへ向ける。

 そしてしばらく睨み合った後、ヘルが駆け出し、先制攻撃を仕掛けた。

 アンダンテは勢い良く払われた剣をタクトで逸らし、後ろへ跳ねて距離をとる。


「ところで気になる事があるのだけど、そこの壁にもたれ掛っているのは、確かあなたの妹よね? まさかあなた……」


「それがどうかしました? 何か問題でも? そんな事より、ご自身を案じてはどうですか?」


 アンダンテはタクトにこびり付いている氷に気が付くと、それを払って飛ばし、再びヘルへと向ける。

 そして今度はアンダンテから駆け出した。

 ヘルはそれを待たずして、氷柱を床から出現させ、アンダンテの行く手を阻む。しかしアンダンテは、それをタクトでいとも簡単に粉砕すると、歩みを止める事無く


突き進み、ヘルの額へタクトを突き刺す。が、ヘルはそれを剣で弾くと同時に体を逸らせ、事無く回避した。

 しかしだからと言ってアンダンテの攻撃は止む事は無かった。次に先生は、そのままタクトを横に素振りする。すると、それだけ空気を裂くような衝撃波が発生し、


ヘルの体中、衣服を切り傷だらけにしてしまう。

 ヘルも負けじとその場で剣を振るった。すると、そこから吹雪の様に冷気が発生し、机や床など辺りを凍てつかさせる。次にその凍り付いた場所からアンダンテ目掛


けて複数の氷柱が発生し、アンダンテを襲うが、アンダンテがまたもやタクトを振るうだけで、その氷柱を簡単に粉砕しまたもヘルの切り傷を増やす。


「諦めなさい」


 強くそう言うアンダンテに対して、ヘルは後退りをしてしまう。そして苦し紛れに近くにあった机を投げた飛ばした。

 アンダンテはまたタクトを振るい、机を粉々に切り裂き、そのままヘルをも巻き込む。

 ヘルが気付いた時には、無数に付けられた切り傷から血が溢れ出、白い肌のほとんどは赤く染まっていた。それはヘルの足元に血だまりを作るほどに酷く惨たらしいものだった。

 そしてヘルが衰弱してふら付いたその時、アンダンテは止めと言わんばかりにタクトを振り払った。

 しかし同時に、何者かが教室に勢い良く乱入して来た。


「おい! お前ら何しているんだ!」


 紅葉だった。

 紅葉は血まみれのヘルに思わず走り寄ると、衝撃波の盾になる。

 当然、紅葉は無傷で、アンダンテを強く睨んだ。と同時にヘルの身を案じる。


「大丈夫かお前。おれが時間を稼ぐ。だからお前は逃げろ」


 そしてその時、さっきの衝撃波の巻き添えにあったのか、切り傷だらけのフラウが紅葉の目に入った。


「てめぇ……フラウまで……! どうして、無関係の人間まで簡単に巻き込めるんだ! お前たちは!」


 背後で座り込んでしまったヘルが顔に両手を当てている。

 そんな中、アンダンテが言った。


「いいえ。あなたは勘違いをしているわ。そうやって根拠も無いのに犯人扱いするのは感心しないわねぇ」


「だったら誰がしたってんだ!」


「あなたの背後に居る人よ」


 アンダンテはずっと崩さないままの笑顔で言った。

 

「フラウはこいつの妹なんだ! そんな訳ないだろ! なぁ!?」


 紅葉が背後に視線を向ける。と同時に腹部を剣で貫かれた。紅葉に一瞬で苦痛の表情が現れる。そして、ヘルが言った。


「えぇ。もちろん。でも違うわ。紅葉、あなたは勘違いをしている」


 するとヘルはすっと立ち上がり、剣を抜いて苦しむ紅葉を蹴り飛ばした。

 そして止めと言わんばかりに紅葉の顔目掛けて剣を突き出す。が、タクトが宙を舞い、ヘルの剣を弾き逸らした。そしてそれはまたアンダンテの手元へ帰っていく。


「忌々しい。忌々しい。忌々しい」


 その事実に苛立ちを隠せないヘルはぶつぶつと呟くと、再びアンダンテ目掛けて走り出す。

 そしてもはや闇雲に剣を振り回しアンダンテを攻撃するが、全て回避されるか防がれ、一つも満足に当たらない事にさらなる苛立ちを覚えるヘル。

 そんな中、アンダンテが言った。


「どうして? どうして、なにがあなたをここまで豹変させたの?」


 するとヘルの攻撃がぴたりと止み、静かに言った。


「私は生き残る存在。こんな未練も無い世界で生き残る絶望が、先生、あなたに分かりますか?」


「分かるはずも無いわ」


「もういっそ死にたい」


「お望みならば」


 アンダンテは終始ずっと崩さない笑顔のまま、ヘルの胸部をタクトで貫いた。

 半笑いを浮かべてアンダンテを睨むヘル。


「あなた……ろくな死に方しないわよ」


 胸部を押さえながらそう言い倒れ行くヘルを、アンダンテは少し崩れた笑顔で、心底見下したような目でそう言った。


「えぇ。私もそう思うわ。でもこれが私なりの優しさなの」


 そしてヘルに背を向け、紅葉に語り掛けた。


「立てるかしら? とりあえず、あなたの身柄は保護するわ」


「なんだ……何が……」


「そうね。恐らく状況を把握できていない事に不安でしょう。話はあなたの傷を癒してからするわ」


 そう言って腹部から血を流す紅葉に肩を貸して歩かせるアンダンテ。

 そうして部屋から出ようとした時、紅葉は歩みを止めさせてしまう。


「痛いよ……苦しいよ……」


 紅葉の背後からか細い声が聞こえる。

 紅葉が思わずそちらに視線を向けると、必死に、それも辛うじてなんとか、紅葉へ向けて手を伸ばすヘルが横向きにうずくまっていた。

 

「行くわよ」


 しかしアンダンテは静かにそう言うと、歩みを止めた紅葉を半ば強引に連れ出そうと引っ張る。

 もちろん腹部に過大な傷を負った紅葉がそれに抵抗出来る訳も無く、部屋から引きずり出されていく。


「助けて……紅葉……」


 紅葉は最後にその言葉を聞いて、この校舎を後にした。


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