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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
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第54話「気まぐれの誘い」

 強い日差しを遮るように、無数に生える木々。その下では、僅かにこぼれる光を狂い求めるかのように、小さな雑草や色鮮やかな花が我も我もと覆い茂っていた。

 そんな大自然の中で、秋葉が大の字になって仰向けになっている。秋葉の表情からはこの状況が好ましくないように見えるが、早々に立ち上がらないのには理由があった。


「あの、服が汚れてしまいます」


「もう汚れているわ」


 秋葉の言葉に答えた声が丁度、真上から聞こえる。秋葉が立ち上がらない理由は、秋葉の上に四つん這いになって覆いかぶさる酒呑童子がいたからだった。


「む、虫が居るかも……それだけは嫌です」


 必要以上に顔が近い事に、秋葉は少し顔を赤らめ、視線を逸らしながら言った。


「……確かにそうね。それだけは嫌だわ」


 酒呑童子が起き上がろうと動くと同時に、さっきまで酒呑童子に遮られていた強めの日差しが秋葉に降り掛かり目を細めさせる。

 そうして目を眩ませてる間にも酒呑童子は立ち上がりきり、秋葉に手を差し伸べた。


「あなた何者?」


 しかし手を差し伸べてくれていた事に気付かなかった秋葉は、自力で中腰の姿勢まで起き上がり、その時になってやっと相手の手に気付いたのか、少し同様しながら手を掴んだ。


「わ、私は高杉秋葉です」


 引っ張られながら自己紹介する秋葉。それに対して的外れな回答が帰ってきた酒呑童子は、視線を秋葉から逸らし、腕組をしながら溜息をついた。


「そうじゃなくって……。私に似た力が扱えるのはなぜなのか聞いているの」


 それは……と秋葉が答えを詰まらせていると、風を切る音を鳴らす斬撃が酒呑童子目掛けて放たれた。

 そうして水平に振るわれたその斬撃により、周囲の草木は一直線に切り揃えられ、遅れて酒呑童子の傍にあった大きな樹木が断層のように滑りながら倒れていく。


「危ないわ」


 それを屈む事により回避した酒呑童子は、次の攻撃の態勢を取っているエグセントを睨みながらも、脇の下で抱える秋葉を撫でながら続けた。


「この子がね」


 そして放たれる第二の斬撃。今度は地面と垂直に切られ、その線上の草木は愚か、地面までも強引に切り裂いていく。それにより行き場の失った土は舞い上がり、他の草木を押し上げ散乱させ、汚れた波のようになりて、斬撃を回避し終えたばかりの酒呑童子にさらなる追い討ちをかけた。

  

「いい加減にして」


 酒呑童子はその波を己の心剣で一刀両断にして防ぐ。だけでなく、その先に居るエグセントにも斬撃の衝撃を与え、奥の木まで吹き飛ばし退けた。


「元吸血鬼如きに、太刀打ちできる相手だと思っているの?」


「そいつを放せ」


 そう言ったエグセントが背の木にもたれ掛かったまましばらく俯いていると、少し呆れた様子の酒呑童子が抱えている秋葉をそっと下ろし、そのまま優しく背を叩いてエグセントの元へ行くように合図を出した。

 そして半分困惑したままの秋葉が恐る恐るエグセントに近づいて行くと、エグセントは素早く秋葉を背にやり酒呑童子を睨んだ。


「貴様の目的はなんだ。なぜ俺様達に絡んでくる……?」


「目的なんてない。ただの気まぐれ。それにしても、あなたまで付いてくるなんて予想外だったわ」


「ふん。ところでここはどこだ。俺様達をどこに連れてきた」


「安全な場所」


 酒呑童子はそう言い終えると、ふらふらと歩き出した。エグセントがそれに突っ込もうと一歩踏み出すと同時に、酒呑童子はエグセント達に振り向き、手を差し伸べた。


「これも何かの縁。付いてきて」


 エグセントがその手を取る事は無いと、初めから判断していた酒呑童子は、エグセントが次の行動を取る前に素早く手を引っ込め、またふらふらと歩き出しだ。


「ちっ」


 エグセントはしばらく警戒していたが、酒呑童子を見失う前にしぶしぶ歩き出した。

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