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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
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第51話「闇の始まり」

「はじめまして、紅葉君」


 保健室に若い男の声が響き渡った。

 紅葉とアンノウンは、一斉に声のする方向へ視線を向ける。

 そこには、大きなフードからやや色黒の肌と銀髪を覗かせた長身でスマートな黒いロングコート姿の男性が今まさに保健室の扉から、進入していた。

 紅葉は、あまりに唐突に出現したその男に、して当たり前の質問をする。


「誰だ」


 男はその歩みを止めず、紅葉へと近付きながら回答する。


「我が名はレーテー。お前を迎えに来た」


「俺を迎えに来た?」


「ああ」


 紅葉のオウム返しの様な質問に、レーテーと名乗った男は頷きながら返事をすると、そのまま片手で紅葉の左手首を掴み上げ宙に浮かせる。

 赤い染みが出来るほどの怪我をした左腕に全体重が加わり、思わず声を上げてしまう紅葉。


「この世界に拒絶されたままのお前にこそ、価値がある」


 レーテーはそう言いながら、傷が再び開いてしまい流血する紅葉の腕を凝視し、もう片方の手に握られた心剣を紅葉の傷へ差し込む。

 紅葉はその新たな痛みに、またしても声を上げながらも、蹴りで反撃するがレーテーはまったくの無反応で、ひたすら紅葉の手首を掴み宙にぶら下げているだけだった。


「こ、紅葉君!」


 さすがにその様子を見るに見兼ねたアンノウンが、分厚い本を手元に出現させる。彼女の心剣だ。アンノウンはそれを両手で握り、本の角をレーテー目掛けて力一杯振り下ろした。

 しかしこちらの攻撃にもレーテーはまったくの無反応な上、それどころかアンノウンはレーテーの蹴りで振り払れてしまい、その勢いでアンノウンは部屋の隅まで吹き飛ばされてしまう。


「この野郎!」


 だが、紅葉もその隙にレーテーの拘束から逃げ出し、アンノウンの盾になるようにレーテーとアンノウンの間に割って入る。

 レーテーはその様子に、静かにほくそ笑み、静かに言った。


「なにをそんなに敵対視している? 自分の腕を見てみるがいい」


 レーテーの言葉に、紅葉は怪訝そうに自分の腕に視線を送る。

 不思議な事に傷が完治していた。まるで始めから怪我などしていなかったかのように、綺麗に直っている。包帯もいつの間にか腕から消えており、なぜか血の付いた服までも綺麗になっていた。


「どういう事だ……」


 紅葉は抱いてあたり前の疑問を思わず呟いてしまう。

 するとレーテーは当然のように答えた。


「同じ事を言わせるな。お前を迎えに来た」


「違う! この腕の傷の事だ!」


 レーテーの的外れな回答に、紅葉は一瞬戸惑ったが改めて質問する。

 しかし、その問いに答えたのはレーテーでは無く、アンノウンだった。


「ジェネラルリターン/通常再起。過去に数十人ほどしか確認されていない珍しい能力だよ。その人の実力にもよるけど、可能な限り元に戻す能力だね。今の場合、紅葉君の傷を元に戻した。けれど、それ以外にも戻した事があるよね?」


 アンノウンはそれを言い切ってからゆっくりと立ち上がり、レーテーの顔をじっと見つめた。


「ほぅ。詳しいな。お前の能力は……そうだな、さしずめエンバディカタログブック/皆無目録と言ったところか?」


「あーうー。そんな事はいいから、私の質問に答えてよぉ~。けど、大体予想はついてるつもりだけどね」


「ふん。お前の憶測通りだろう。私は、そいつの寿命、即ち時間を戻してやったのだ。感謝するが良い」


 レーテーは紅葉を指差して言った。そして、続けて話す。


「これでお前はまた、能力を無効化することが出来るのだからな。……お前の質問には答えてやった。お前も私の質問に答えたらどうだ?」


「むー……。御名答。っとだけ言っておくよ。私はまだこの能力を具体的に明かしたくないんだよぉ」


「まぁ、お前の事はどうでもいい。さぁ、紅葉とやらよ。行くぞ、私について来い」


 レーテーは目の前の紅葉に手を差し出す。

 しかし紅葉はしばらくレーテーと睨み合った後、アンノウンの手を握り、すばやく保健室から逃げ出した。

 そうして、一人になった保健室に、若い男の声が響きわたる。


「無駄な足掻きを」


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