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神の鬱  作者: 紅きtuki
絶望編
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第50話「最後の光」

「小娘! 遅れを取るなよ! あのふざけた野郎に一泡吹かせてやるのだ! ハ~ッハッハーッ!」


 エグセントは高笑いをしながら、秋葉の手を掴み全力で科学の街を走り抜ける。


「ちょっ、ちょっと待ってください! エグセント様! その敵の居場所は分かるのですか!」 


「このエグセント様をなめるでない! あいつの甚だしい匂いが鼻から離れんのでな。居場所など知りたくなくとも分かってしまうわ!」


 公共物や建物などの障害物など、跳ね除けて一方の方向へ走り抜けるエグセントと秋葉。周囲の人々が、驚き入った表情でその様子を眺め、護衛のアンドロイドが主人を避難させようと誘導している。

 そんな中、二人はとある建物の前で静止した。

 その、全体がガラス張りの高層建築物の前でエグセントがもらす様に言う。


「上か」


 そして秋葉を抱きかかえ、空高く飛んだ。

 ビルの内部の様子が、高速で次々と視界から流れてゆく。仕事をしている人。食事をしている人。雑貨屋やアミューズメント施設。様々な景色が秋葉の目にも映る。地に目をやれば既に、落ちたらただではすまないような高さまで来ていた。しかし目的地はもっと上だと、語るように一向に速度は落ちない。

 そんな中、不可解な景色が二人の視界に写った。そしてそれと同時に、上昇が止まり、高層建築物から放されるように吹き飛ばさていく。

 何が起きたか理解できず、必死にエグセントにしがみ付く秋葉。しかし、エグセントだけは今起きた事をはっきりと捕らえていた。


「あいつは……?」 


 エグセントがぼやく中、裾がボロボロで淡い青が基調のワンピースを着た一人の少女が高層建築物の中から、ガラスの破片と共に落ちていく二人を虚ろな瞳で眺めていた。

 それも、煙を上げ、放ち終わりましたと言わんばかりの銃口を二人に向けながら。

 そしてその時、その少女は何かに気付いたのだが、それが直ちに解消できない疑問なのか不意に首を傾げる。


「あれ? 鬼? 確かめないとね」


 少女は手に持っている銃を捨て、エグセント目掛けてその場から勢い良く飛び降りる。そしてエグセントに急接近し、怯える秋葉には目もくれず、エグセントの顔を覗き込む。


「あなた。吸血鬼?」

「貴様、酒呑童子か?!」


 同時だった。また、その一瞬にお互いに蹴り合っていたのも同時だった。

 酒呑童子と呼ばれた少女は高層建築物に激突し、ガラスをぶち破り再び中へ戻され、床を転がる。エグセントは勢いの強すぎる敵の蹴りに空中で抑制が取れず、思わず巨大な翼を背から出現させ、優雅に羽ばたいていた。

 しかし次の瞬間、あれほどの攻撃を食らったにも関わらず、苦しみの表情一つ浮かべない酒呑童子は、むくっと上半身だけを起き上がらせ、両太ももに潜ませていたホルスターから2丁の銃を両手に構え、エグセントの翼目掛けて何度も発砲する。

 銃弾は黒い翼膜を何発も貫いたが、エグセントは酒呑童子の一つ下の階へ突入することにより、被害を抑えることに成功した。しかし安心する間も与えまいと、酒呑童子は床を貫いて下の階へと降りてくる。


「ハ~ハッハッハーッ! 我ながら厄介な奴に絡まれたものだな!」


 丁度ここは、どこかの会社の事務所だろう。無数のデスクと書類、そして様々な機器が、先程からの衝撃で黒曜石で出来たの広いカウンターにまで散乱している。さらに、既に複数の警備用アンドロイドが主人等を避難させ、暴れる二人を取り囲んでいた。

 そして次の瞬間、警備用アンドロイドが襲い掛かる。それもどう言う訳か、エグセントと秋葉のみに向かってだった。


『不法な侵入者を排除します』


 そんな警告音を複数の警備用アンドロイドがしつこく繰り返しながら、白い煙をエグセントと秋葉に放出しながら二人に群がる。

 エグセントこそ元吸血鬼としての力、そして能力により体力が無限に保たれている為、アンドロイド如きに揉まれる事はないが、秋葉はまだ小さな少女。たった一体のアンドロイドも押し返す事が出来ず、人間とは比べものにならないほどの重量のアンドロイドに、それも複数に押しつぶされてしまう。

 それ故に、エグセントは秋葉を体全体を使って覆う事くらいしか出来なかった。


「くそっ! この俺様がこんなガラクタ共に! 小娘! 一度この場から離れるぞ!」


 しかし、アンドロイドの攻撃はそれだけで終わってはいなかった。あろう事か、先程の白い煙は大量に吸った者に催眠効果を及ぼすのだった。


「おい! 誰が寝ろと言った! 起きろ小娘!」


 エグセントは能力故に睡眠効果など通じないが、秋葉はまるでエグセントの指示を無視するかのようにその場から動かなくなる。

 エグセント自身、白い煙にそんな効果があることに気付いてないらしく、秋葉が気を失ってしまった原因をすばやく考察し、すぐに原因は白い煙だという結論をだした。そうしてエグセントが次に移した行動は、秋葉を抱えこの場から逃走することだった。


「仕方ない! 酒呑童子よ! ここはこのガラクタ共に免じて見逃してやろう! はーっはっはっ!」


 しかしエグセントは、逃走の第一歩を踏み出してすぐに踏み止まってしまう。


「鬼らしくない……。この子がそんなに大切なのかしら」


 なぜならばその時、既に秋葉が酒呑童子の腕に抱えられていたからだ。


「貴様! その小娘をどうするつもりだ! そしてこの俺様を鬼などと一緒にするでないわ!」


「はあ……ならどう呼べばいいの? 人間? 吸血鬼?」


「黙れい!」


 エグセントは酒呑童子が話し終えると同時に、心剣で斬りかかった。

 それに対して酒呑童子は、秋葉を盾にする事によって、エグセントの動きを静止させ、その隙に強烈な回し蹴りを繰り広げる。

 その攻撃により、未だ群がることをやめないアンドロイドたちに衝突し、アンドロイドを周囲に散乱させてもなお、吹き飛び続けるエグセント。

 そうして壁を何枚も突き破って、勢いが弱まったところでやっと床に心剣を突き刺し、しばらく床を切り裂きながらも踏み止まる事に成功する。

 次にエグセントが視線を酒呑童子の居た方角へ向けると、すぐ目の前で酒呑童子がエグセントを見下していた。


「あの人間に思い入れしてる振りをして不意打ちを仕掛けてくる作戦かと思って試したけれど、呆れた」


「ふん! 知ったことか。貴様の価値観など、どうでもいいわ」


「ナンバー1とやらの実力、見抜いてやろうと思ったのだけれど、どっちも大したことないわね……」


「どっちも……? どう言う事だ?」


「どっちでも良いですよ」


 そう言ったのは重そうに瞼を開ける秋葉だった。酒呑童子は、今も抱きかかえている秋葉に視線を送る。そして、そのまま秋葉は続けた。


「君の好奇心で、こんなに物が破壊されて、人が傷ついて。ほんっとにくだらないです。馬鹿馬鹿しいです」


「私は鬼」


「そんなの関係ないです!」


「けど、あなた達も同じ事をしたわよね。たくさんの物を破壊して、ここに来る様子を見ていたわ」


「それでも……」


 秋葉は思わず言葉を失って沈黙してしまう。

 それに対して酒呑童子は、秋葉をエグセントの前に降ろすと、しぶしぶ口を開き始める。


「まあ……確かにそうね。私としたことが軽率な判断だった。言い訳はしない。ごめんなさい。大人しく退散するわ」


 酒呑童子の意外な反応に、秋葉はまたしても言葉を失ってしまう。しかし、エグセントだけは警戒を緩めはしなかった。そして、そんな様子のエグセントに酒呑童子は続けて言う。


「大丈夫よ。鬼は吸血鬼と違って、嘘はつかないから。今は本当に反省してる。あなたが大切に守ってたこの子が分からせてくれた」


「ふん。興が冷めたわ」


「せいぜい大切にしてあげなさい。さようなら」


 そう言って酒呑童子は光に溶けるようにこの場から姿を消した。

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