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あの夏の冒険  作者: 土御門惟愛


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6/12

何かがゆっくりと動き始めそうな期待

 七日目の朝、僕は目を覚ました。いつもと同じ硬いベンチで相変わらず肩と背中がこわばっている。

 しかし、まだ残る満腹感が昨夜の出来事が夢ではなかったことを思い出させた。

 腹は空いていない。煙草もある。それだけで、少し違う朝だった。

 それから、僕はお腹もふくれた事で気持ちも幾分前向きになり、公園の中をうろつきながら先の事を考えた。

 めぐりあいの泉には行かなかった。昨日の寛太郎さんの言葉が本当だったとしたら、夕方にまた寛太郎さんが来るからだった。

 夕陽が傾き始めた頃、僕はいつものベンチに戻った。

 池の水面が橙色に染まり、風が木の葉をざわめかせた。

 そして、約束通り寛太郎さんは現れた。

「本当にいてくれたんだね」

 寛太郎さんは軽く手を上げて近づいてきた。

 手にはコンビニの袋を提げ、中から缶コーヒーとサンドイッチが出てきた。

「お腹減ってないかと思って」

 そう言って僕にくれた。

「……ありがとうございます」

 僕は素直に受け取って、缶コーヒーのプルタブを開けた。冷たい液体が喉を通る感触がたまらなかった。

 寛太郎さんは隣に腰を下ろし、煙草に火をつけた。

 しばらく無言で煙を吐きながら、公園の景色を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「実はね、知り合いの床屋さんで、ちょっと人手が足りなくなってるんだよ。三人の従業員で回してたんだけど、一人急に辞めてしまってさ。店主がもう猫の手でも借りたいってぼやいてたんだ。三人とも寮住まいだったから一部屋空いてるはずだし、話してみてあげようか?」

 僕は缶コーヒーを飲む手を止めた。

「……床屋さん、ですか」

「うん、その気があるなら床掃除くらいしかできませんが……ってお願いしてみたら、住み込みで雇ってくれるかもしれないよ。給料らしい給料は期待できないだろうけど、寝る場所もお風呂もあるし、とりあえず生活はできると思うよ」

 何かがゆっくりと動き始めそうな期待を感じた。

 昨日までの堂々巡りが、初めて出口を見せたような気がした。

 僕は煙草の煙を深く吸って、ゆっくり吐き出した。

 吐き出した煙はすぐに夕陽に溶けていった。

「……お願いします」

 寛太郎さんは頷いて、携帯電話で電話し始めた。

「じゃあ、明日連れていってあげるよ。開店前の朝8時半に来てほしいそうだから、今日はその床屋さんの近くのジョナサンに泊まるといい。もうここには帰ってこないかもしれないから、荷物も持って行こう」

 電話を終えた寛太郎さんが立ち上がって言った。

「わかりました。ありがとうございます」

 荷物をまとめた僕は寛太郎さんについて日比谷公園を出た。

読んでいただき、ありがとうございます。

文章を書くのは初心者ですので、読みづらいところは多々あるかと思いますが、よろしくお願いします。

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