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あの夏の冒険  作者: 土御門惟愛


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4/4

所持金が尽きた

 四日目の朝が来た。夏なのに寒くて眠れなかった。面接をしてもらった芸能事務所から合否の連絡があるといけないので、携帯電話の電源を入れて連絡を待った。

 しばらくして一件の着信が来た。見てみると心配した友人からだった。もちろん出はしないが、電源が入ったと情報が回ったのか入れ替わり立ち代わり母親からの着信まで入るようになり、着信が入りっぱなしのような状態になった。

 バッテリーの問題もあるのでコンセントを探しに出ねばと充電のアダブターをバッグから出そうとした。

 その時蒼白になった。

 バッグの中をいくら探しても充電のアダブターが見つからない。入れ忘れてきたようだった。

 当時はまだインターネットも発達していなかったから携帯電話はただの電話だった。外で充電しないといけないほどの使用はしていなかった。そんな理由でショップで充電できることを僕は知らなかった。

 ほどなく携帯電話はバッテリーが切れ、面接の合否を聞けるすべはなくなった。直接聞きに出向く事も考えたが、連絡が取れないような人間を雇うはずがないという答えに至った。

 相変わらず夕方から夜にかけてはめぐりあいの泉で協力者探しに励んだが、この日も惨敗だった。

 その夜公園に帰ってきて寝ぐらにしている高台のベンチに座って煙草を吸っているとホームレスのおじさんに声をかけられた。

「お兄ちゃんいつも夜寝てるけど、寒いだろ?夜動いて昼間寝るようにしないと風邪ひいちゃうよ」

 おじさんは少し心配そうに言ってくれた。

「はい……」

 昼間は寝ているわけにはいかないんだ~。と思いながら僕は返事をした。

「お兄ちゃん、それギター?ちょっと弾かせてくれないかなぁ?」

 ギターのハードケースを見ておじさんが言った。

「おじさんギター弾けるんですか?」

 僕は少し怪訝な顔で尋ねた。

「俺さ、昔ギターリストだったんだよ。ボサノバだけどね」

 おじさんが少し遠い目をして言った。

 僕は利害関係抜きで人と話すのも久しぶりだったし、ギターの話ができるというので嬉しくなった。

 ギターのケースを開けておじさんに手渡した。

「やっぱりガットギターじゃんねぇ~か〜」

 おじさんは少し不満そうな顔をしたが、僕のフォークギターを手に取ると嬉しそうな顔をして弾き始めた。

 見た事がない弾き方で、メロディーも伴奏も一緒に弾いていて、でもクラシックのような感じではない。メロディーとルンバのような伴奏が組み合わさっているような、かなり刺激的な奏法だった。

「何か弾いてほしい曲あるかい?」

 弾きながらおじさんが僕に訊いた。

「別れのサンバ!」

 おじさんが弾くギターを聴いて、僕は思わずそう答えた。僕は世代は全然違うけど長谷川きよしさんのこの曲が大好きだった。

「似非サンバみたいな曲だけど、まあいいや」

 おじさんが弾き始めると、ギターが喜んで歌っているように聞こえた。いつも僕が掻き鳴らしているギターと同じギターだとは思えなかった。

 おじさんは僕がリクエストする曲を何曲か弾いて、礼を言って去っていった。

 その後、そのおじさんと会う事はなかった。

 五日目の朝が来た。

 この日から徒歩で行けそうな所をアポなし訪問で即決採用を狙って動き始めた。

 しかし何の収穫もなく夕方を迎え、めぐりあいの泉へ行った。

 もう所持金は煙草を買えば、いつも吸っている赤ラーク250円ならひと箱。あんパンなら2袋を買えば尽きる状態になっていた。

 僕は迷うことなく煙草を買った。

読んでいただき、ありがとうございます。

文章を書くのは初めての初心者ですので、読みづらいところは多々あるかと思いますが、よろしくお願いします。

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