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ウワサ話のこぼれ話  作者: 紺堂


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1/1

気になる呼び方

こちらは私の連載作品『ウワサ話のウラ話』の番外編になります。

本編はコチラ


『ウワサ話のウラ話』

https://ncode.syosetu.com/n3571kg/


面白いと思ったら本編もご覧頂けると嬉しいです。

「…秋本先輩、私のことを呼ぶ時は『須崎さん』って呼びますよね」

「? ええ、そうね」


 職場の後輩である須崎彩花(すざきあやか)さんからの唐突な問いかけに、私・秋本菜瑞(あきもとなつみ)は疑問符を浮かべながら返答する。


 私たちは今、勤務地である百代(ももしろ)印刷敷地内の印刷工場へ、私たちが所属する総務部のある事務棟から備品等の配達に向かっている最中だ。私はコピー紙の束などを始めとした事務用品を載せた台車を押し、須崎さんは印刷部宛ての書類や郵便が入った複数の分厚い封筒を両手で抱えている。

 事務棟から工場まではそう距離はないが、それでも徒歩で10分弱くらいの時間はかかる。そのため移動中はこうして雑談をすることも多い。


 そんな他愛のない話をする時間のはずなのだが、須崎さんは先程からどこか落ち着かない様子だ。さっきの質問といい、一体どうしたのだろうか…と思っていると、彼女から続けて質問が投げかけられる。


「でも、染谷先輩を呼ぶ時は『染谷』って呼び捨てにしてますよね?」

「え? そ、そうね…」


 今度は少々不満げな目で訪ねてこられたので、少々困惑しながらもそう返答する。

 須崎さん同様に総務部の後輩である染谷涼花(そめやすずか)とは、新卒の彼女が総務部に来て以来の仲になるのでもう3年以上の付き合いになる。私も最初は「染谷さん」と呼び掛けていたが、それなりに親しくなってからは彼女が私をからかうような言動が多くなり、その反抗から私も雑に「染谷」と呼ぶようになった。

 という経緯があったのだが、当然そんなことを須崎さんにわざわざ話したことはない。染谷とのエピソードトークを聞きたいのか…?と私が考えていると、再度須崎さんから質問が。


「でもって、麗華のことは『麗華さん』って下の名前で呼びますよね?」

「そ、そうね…?」


 一段と語調が強くなると共に、より不満さを増す須崎さんの視線に困惑を越えて狼狽えてしまう。

 麗華というのは須崎さんの双子の姉である北原麗華(きたはられいか)さんのことだ。私と彼女との出会いは紆余曲折あって話すと長くなるのだが、今では一緒に食事に行ったりする友人同士だ。

 麗華さんに対しては当初私も「北原さん」と呼んでいたが、彼女の方から「私たちもう友達同士なんだし、私のことは麗華って呼んでよ。私も菜瑞さんって呼ぶから」と言われ、以降は下の名前で呼び合う仲になった。

 まぁそういう経緯があったのだが、この話も須崎さんに話したことはない。


(…というかこの流れはもしかして…)


 なんとなくこの先の展開が読めたような気がしたが、ひとまず次の須崎さんの言葉を待つ。すると彼女は少々いじけたような様子で


「なんか、私だけ呼び方に距離を感じるんですけど…」

(…あー、やっぱりかー…)


 流れ的になんとなく予想はしていたが、どうやら彼女は自分の呼称に不満があるらしい。言いたいことは分かるのだが、しかしだ。


「…須崎さんだって私のこと『秋本先輩』って呼ぶでしょう? ならお互い様じゃない?」

「そ、それは…」


 私のぐうの音も出ない正論に、須崎さんは言葉に詰まる…と思いきや


「あ、あの…なので…その…」

「?」


 緊張した様子でこちらをチラチラと伺いながらもごもごと口ごもっている。さっきから一体なんなんだろう?と思っていたら


「わ、私も! 染谷先輩みたいに、秋本先輩のこと『菜瑞先輩』って呼んでもいいですかっ!?」

「…あー…」


 なるほど、それでさっきからソワソワしていたのか。

 下の名前で呼んでいい?なんて付き合い立てのカップルのようなやり取りだが、仲良くなってから呼称を変えたいという気持ちも、それを言い出し難いという気持ちも分かる。大人になろうとそれを自分の口で言い出すのは気恥ずかしいものだ。須崎さんも切り出すタイミングを窺っていて落ち着かなかったのだろう。

 とは言え、私は自分の呼称には特段こだわりはない。だから素直に


「…まぁ、私の呼び方は好きにしてくれていいわよ」

「ほ、本当ですかっ!?」

「ええ、ご自由に」

「え、えへへ…ありがとうございます…じゃあこれからは、菜瑞先輩って…えへへ…」


 そう言うと須崎さんは可愛らしい笑顔を浮かべた。

 付き合いたてのカップルのようなやり取りに、女同士ながら無性に恥ずかしくなってしまう。


「……………」

「……………」


 気恥しさからか会話が途切れてしまい、2人で静かにとことこと歩く。

 良く晴れた空にガラガラという台車のタイヤ音が響き、遠くでは鳥の啼く声が聞こえた。

 そんな静寂を破り、遠慮がちに話しかけてくる声。


「…あの、それで」

「ん?」


 須崎さんが何か言いたげな顔でこちらを横目に見てくる。頬も上気して少し赤くなっているようだ。私は彼女が言いたいことを何となく察しつつも、それに気づいていないフリをしながら歩を進める。


「先輩、私のことは…」

「……………」

「あ、あの、私のことも、『彩花』って…」


 意を決して彼女が何かを言い出そうとした、その瞬間


「さあ、工場に着いたわね!! さっさと荷物置いて戻るわよ、()()()()!!」


 そう大声で言うと、私は勢いよく台車を押しながらいつの間にか眼前まで近づいていた工場の入り口へと走り出す。

 そんな私の行動に呆気にとられていた須崎さんだったが、数秒経って我に返ると


「な、なつみ先輩~~~!?!?!?」


 と泣きそうな顔で叫び声を上げていた。


(いやだって職場の後輩を下の名前で呼ぶとか恥ずかしいじゃん染谷ですら名字呼びなのにそりゃ染谷にも「下の名前でいいですよー」とか言われたことはあったけどその時ですら緊張してぶっきらぼうに「染谷でいいわよ」とか言っちゃったのに今更どの面下げてもっと年下の子を下の名前で呼ぶなんてことが出来ようかいいや出来ないね麗華さんだって呼ぶのにかなり抵抗あったんだぞああもう染谷のやつタイミング良くタバコ休憩なんて行くから配達担当が私と須崎さんの2人になっちゃってそのせいでこんなことにチクショー染谷のバカヤロー!!)


 心の中で言い訳と八つ当たりをかましながら逃げるように工場内へ突入する私だったが、当然事務室で物品の引き渡しをする頃には須崎さんに追いつかれているワケで…。事務のおばちゃんと書類のやり取りをしている間、非難めいた彼女の視線が私の背中に突き刺さり続けていた。




 結局帰り道で須崎さんから猛抗議を受けた私は、彼女に対する呼称を『彩花さん』に改めることを半ば強制的に受け入れさせられた。須崎…もとい彩花さんはそのことを大層嬉しそうに染谷に報告していたのだが、それを聞いた染谷は何が面白いのか腹を抱えながら大爆笑していた。

タイミング的には本編5話後のイメージで書いています。

こんなやり取りがあったらいいなー、なんて考えながら書きました。

知り合ってから呼び方を変えるって、なんだかソワソワしますよね…。


こんな感じの作品をちょくちょく投稿していければと思っていますので、本編ともどもよろしくお願いします!

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