第1章7 【 《断絶者/スキル・ブレイカー》 】
指定された場所は、湾岸エリアの倉庫街だった。
夜の海は暗く、街灯の光がやけに頼りない。
「……これから、沈められるんですか?」
助手席の一ノ瀬に言うと、彼女は短く答えた。
「どうでしょうね」
え……
マジで沈められるの?
俺、何もしてなくない!?
「冗談です。今回の案件は、能力者関係です」
まぁ、そうだろうけど。
本当に心臓に悪い。
危うくここで能力発動しちゃうところだったよ?
……発動するかわかんないけど。
目的地に着き、車から降りる。
周囲には黒い装甲車が数台止まっている。
銃を構えている隊員もいる。
「状況を説明します」
一ノ瀬は、倉庫の方を見ながら言った。
「内部に、意図的に能力を暴走させた人物がいます」
「……例の、”条件を作る側”ですか」
「可能性は高いかと」
倉庫の屋根が、わずかに歪む。
「中には人質が三名」
「……え? 軽い要請じゃ……」
「あなたにとっては軽いモノでしょう?」
こいつ……
一ノ瀬は淡々と続ける。
「犯人は、能力を使って空間を固定しています。
通常の部隊が突入すれば、人質は死ぬ」
つまり。
「俺に行け、と」
「あなたが”能力を発動しなければ”何も起きません」
「発動したら?」
「人質の助かる可能性が高くなります」
可能性……か。絶対は無いってことか。
「―――!」
倉庫から悲鳴が聞こえる。
胸の奥が、嫌な音を立てる。
「ほら」
一ノ瀬は静かに言う。
「もう条件が近い」
逃げ道はいくらでもある。
でも……
「……終わったら、飯奢ってくださいね」
「私たち、そんな仲ではないと思いますが」
なんてことを言うんだ。確かに出会って数日しかたってないけども!
俺は、倉庫の方へ歩き出した。
一ノ瀬が後ろから声をかける。
「そういえば、あなたのその能力、名前が付きましたよ」
「名前……ですか。なんて言うんです?」
「断絶者。そう付けられました」
……断絶者。
「能力者の力そのものを、
”成立する前に壊す”」
俺の、能力。
「名前がつくと、急に物騒ですね」
「実態に即しています」
倉庫の扉が、ゆっくりと開く。
中は、歪んだ空間。
固定された床。
泣いている、人影。
そして。
「来たか」
奥に、笑う男がいた。
「俺と対を成す存在――断絶者」
心臓が、嫌なほど強く打つ。
ああ、そうか。
俺は、もう。
”試される側”から、”使われる側”になってしまったらしい。




