表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安全圏では何も起きない俺が、最悪の状況でだけ最強になる  作者: 能力者管理委員会


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

第1章3 【 静かに壊れる安全圏 】

 白い部屋。


 広く、無機質。

 病院と研究所の悪いところを足して、感情を引いたような空間。


 「ここが”安全圏”です」


 一ノ瀬はそう言って、部屋の中央を指した。


 床には円形のライン。

 壁にはガラス越しの別室。

 天井には……見なかったことにしよう。


 「……実験室、ですよね」


 「安全な場所です」


 そんなこと言ったところで、安心感は増えない。むしろ心配が増えた。


 「まず確認します」


 一ノ瀬は、淡々と説明を始める。


 「この部屋では、外部からの能力干渉は完全に遮断されています。

  あなたが何をしても、何も起きません」


 「……それ、普通じゃないですか?」


 「能力者(アノマリー)の場合は違います」


 俺は円の中に立たされる。


 「心拍、正常。

  脳波、安定。

  異常反応なし」


 ガラス越しに誰かが読み上げている。


 ……ほら見ろ。

 やっぱり俺は普通だ。能力者じゃない。


 「次、簡易刺激を与えます」


 「簡易って、どのくらいですか?」


 「日常生活で起きうる範囲です」


 「……日常生活の範囲、ね」


 嫌な言い方だ。


 照明が少し暗くなる。

 スピーカーから、低い音が流れ始める。

 

 地鳴りみたいな振動。

 どこかで聞いたことがある。


 「……あー、はいはい」


 交差点のときの音だ。

 これを日常生活の範囲と言い張るのもどうかと思うが。


 まあ、今は何も怖くないし、足も動く。

 心臓もうるさいままだ。


 「……何も起きませんね」


 「ええ」


 一ノ瀬は頷く。


 「想定通りです」


 次は映像。

 壁一面に、街の映像が映し出される。


 逃げ惑う人。

 歪む空間。

 悲鳴。


 ――再現映像らしい。


 「……趣味悪い映像ですね」


 「記憶刺激用ですので」


 「そういえば許されると思ってません?」


 軽口を叩ける余裕はある。


 「心拍、上昇。

  反応は……無しです」


 「そうですか」


 ほらな。


 「つまり」


 俺は、少しだけ肩の力を抜いた。


 「勘違いだったってことで」


 「いいえ」


 一ノ瀬は即答した。


 「刺激が”足りません”」


 足りない?まだこれ以上の刺激を与えると?


 「あなた、まだ余裕そうですからね」


 そう言って、にやりと笑う。


 ……この女、サディストだろ。


 「安全だと理解している。逃げられるのも分かっている。失うものが、何もない」


 淡々と、でも確実に。


 「だから、発動しない」


 ガラス越しのスタッフが、何か確認する。


 「……次の階段へ移行します」


 一ノ瀬は、俺を見る。


 「え、ちょっと待って」


 「大丈夫です。安全性は確認済みです」


 「その言葉、昨日も聞いた気がするんですけど」


 返事は無し。


 ――カチリ。


 小さな音がした。


 それと同時に、円の外側がゆっくりと沈んだ。


 「……あれ?」


 床が下がっている。


 段差ができる。

 円の内側だけが、取り残される。


 「隔離解除」


 スピーカーから、無機質な声。


 「ちょっ、一ノ瀬さん?」


 彼女はこちらを見ている。


 「安全圏は、あなたが立っている”そこ”だけです」


 嫌な予感が、急に現実味を帯びる。


 「周囲は?」

 

 「非安全圏です」


 ……冗談だろ?


 「……何をするんですか?」


 「何も」


 何もないわけないだろ。俺は心の中でそう叫んだ。

 

 その瞬間。


 円の外側で、空気が揺れた。


 交差点で見たのと、同じ歪み。


 いや――少しだけ小さい。

 不完全。

 でも、確実に。


 「これは確認ですので」


 一ノ瀬の声色は変わらない。


 「あなたが”逃げられる”と思っている間は、何も起きません」


 歪みが少しずつ、確実に近づいてくる。

 距離は数メートル。


 足は動く。

 円の中なら逃げられる。


 ――まだ、大丈夫。


 でも。


 もしこれが近づいたら?


 もし、逃げ場がなくなったら?


 もし――


 一ノ瀬が微笑む。


 「さあ、どうします?」


 心臓が強く脈打つ。

 

 ああ、そうか。


 「能力を発動しないと、あなたは」


 俺は――


 「「確実に死ぬ」」


 


 


 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ