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安全圏では何も起きない俺が、最悪の状況でだけ最強になる  作者: 能力者管理委員会


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第1章13 【 発動していないはずの力 】

 模擬訓練室は、やけに広かった。


 白い床、白い壁。

 何が起きてもいいように、すべてが補強されているらしい。


 「今日は、状況判断の訓練」


 監視員が、淡々と説明する。


 「実戦を想定した空間で、

  能力を使わずにどう動くかを見る」


 俺は、思わず七瀬の方を見る。


 「……能力、使わないんだ」


 「うん。

  今日は”使っちゃダメ”な日なんだ」


 七瀬は軽く肩をすくめた。


 「条件型の君には、ありがたいでしょ」


 ……そうだね、と言いたかった。


 訓練開始の合図。


 床の一部が動き、簡易的な障害物が現れる。

 通路、遮蔽物、疑似人質。


 「制限時間は、五分」


 監視員の声が響く。


 俺は、深呼吸をした。


 大丈夫だ。

 発動条件は揃っていない。


 命の危険も、選択の強制もない。


 「行こ」


 七瀬が、俺の袖を引っ張る。


 その瞬間、


 視界に、線が走った。


 「……っ」


 反射的に、足を止める。


 線は、障害物と床の境目。

 空間の”繋ぎ目”みたいな場所に、淡く浮かんでいる。


 「どうしたの?」


 「……今、見えた」


 七瀬が、眉をひそめる。


 「またぁ?」


 頷く。

 

 前より、はっきりしている。


 「これ、やばいかも」


 ヤバい


 進むほど、線が増えていく。

 

 壁。

 床。

 通路の角。


 まるで、世界が

 最初から”切り分け可能”として設計されているみたいだ。


 疑似人質の前に、たどり着く。


 プラスチック製の人形。

 それなのに、胸がざわつく。


 「助ける?

  それとも、迂回する?」


 七瀬が聞く。


 選択。


 その言葉だけで、

 心拍数が上がる。


 「……助けよう」


 言った瞬間、

 

 線が、一斉に濃くなった。


 空間が、呼吸するみたいに、うねる。


 「ねぇ、これ」


 七瀬の声が、少し震えている。


 「発動……してないよね?」


 「ああ」


 俺は、自分の手を見る。


 何も起きてない。

 

 壊してない。


 切っていない。


 なのに。


 世界の方から、反応している。


 「訓練中止!」


 監視員の叫び声。


 床の一部が、わずかに”ズレた”。


 ほんの数ミリ。

 でも、確かに。


 「……今の、見た?」


 七瀬が、目を見開く。


 「ああ、見た」


 俺は、喉が渇くのを感じながら答えた。


 触っていない。

 決断しただけ。


 それだけで、

 世界が、切れかけた。


 訓練室は、すぐに封鎖された。


 白い空間に、一人残される。


 俺は、天井を見上げた。


 「……条件、緩んでる」


 これは、異常だ。


 断絶者(スキル・ブレイカー)は、

 発動するか、しないかのはずだった。


 なのに、今は。


 発動前に、

 ”影”が、現実に滲み出ている。


 ドアの向こうで、誰かが言い争う声が聞こえた。


 「観測レベルが上がり過ぎてる……!」


 「まだ発動してないのに、これだぞ!」


 俺は、静かに目を閉じる。


 思い出してしまう。


 倉庫で見た、最後の景色。


 線だらけの世界。


 「……まずいな」


 呟いた声は、

 やけに落ち着いていた。


 まるで、

 その世界に慣れ始めているみたいに。

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