第1章11 【 保護という名の檻 】
静かな車内で、エンジン音だけが、一定のリズムを続けている。
未だに能力が解けない少年は、後部座席から窓の外を眺めていた。
「……あの、どこに向かっているんですか?」
前の席に座る女性――
さっきまで現場にいた女性が、バックミラー越しに少年を見る。
「仮施設です」
「施設……ですか?
僕、何かしたんですか?」
少年は、困惑した顔で女性を見る。
が、無視された。
車は、人気のないエリアに入っていく。
街灯も少なく、景色が急に無機質になる。
「……逃げようとか、考えてないよな」
運転席の男が、強い口調で言う。
「……考えて、ないです」
少年は、少し怯えた表情をして言った。
数分後。
車は、コンクリートの建物の前で止まった。
外見は、ただの古い倉庫。
でも、近づくと分かる。
――ここは、普通の場所じゃない。
「能力者対策局・第七管理区」
彼女が、淡々と言った。
「あなたは、今日からここで管理される」
「……管理」
その言葉が、胸に落ちる。
「もう、お家に帰れないってことですか?」
彼女は、少しだけ黙った。
「……ええ。帰れないと思った方がいいでしょう」
――――――
建物の中は、やけに清潔だった。
白い廊下。
無機質な証明。
「能力者は、三種類に分類される」
歩きながら、彼女が説明する。
「制御型。暴走型。条件型。
あなたは、その中でも――最も扱いづらいタイプ”条件型”なの」
「……条件型」
「そう」
彼女は、振り返らない。
「条件が揃わない限り、能力は発動しない。
でも、揃った瞬間――制御不能となる」
廊下の先に、部屋が見えた。
「そして、発動中の記憶は欠落する」
ドアが、開く。
簡素な部屋だった。
ベッドと、机と、椅子。
「ここが、あなたの部屋よ」
「……本当にお家に帰れないんですね」
彼女は、初めてこちらを見た。
とても悲しそうな表情をしていた。
「……ええ、そうよ」
正直な答えだった。
「ただ、あなたの能力が”安全”だと判断されたら、帰れるかもしれない」
「安全……ですか」
「ええ、そうよ。安全が認められれば、あなたはお家に帰れるの。
ただ一つ、約束してほしいことがあるの」
彼女は、人差し指を立てる。
「約束……?」
「そう、約束。
自ら、条件を作らないでほしいの」
「条件……を作らない」
「そう、自分から危険な状況を作らないでほしい。
それだけ守ってほしいの」
「……もし、わざと危険なことをしたら?」
「それこそ、お家に帰れなくなるわ」
つまり。
もう、自由はない。
「……分かった」
少年は、頷いた。
反抗する素振りも見せず、素直に承諾した。
彼女が、部屋を出るとき。
「それともう一つ」
少年に声をかけた。
「――――――」
少年の顔は、さっきよりも柔らかい表情になった。
静かにドアが閉まる。
一人になった部屋で、少年は天井を見上げた。
安全って認められたら、帰れる。
危険なことをしなければ。
でも。
胸の奥に、
小さな違和感が、まだ残っている。
あの線。
割れる世界。
忘れろ、と言われた記憶。
「……本当に、忘れていいのかな」
誰にでもなく、呟いた。
この時、誰もが知る由も無かった。
条件は、作らなくても――
”向こうから、やってくる”ということを




