プロローグ 【 生きるのを諦める 】
人生が詰んでいると自覚したのは、3度目のため息をついたときだった。
朝でも夜でもない中途半端な時間。
帰り道のコンビニ前で、俺はスマホを眺めながら立ち尽くしていた。
『ーー都内で発生した能力者による事故について、警察は……』
画面の中では、見慣れた街角が立入禁止の黄色いテープで囲まれている。
血痕はぼかされているが、空気の重さまでは隠しきれていない。
「またか」
能力者。
最近やたらと耳にする単語だ。
突然、ありえない力に目覚める人間。
英雄になるやつもいれば、ニュースの見出しで終わるやつもいる。
まあ、俺には関係ない。
そういう”選ばれる側”じゃないことぐらい、自分が一番よく知っている。
スマホをポケットにしまい、ため息を吐く。
いつもと変わらない日常。それだけで十分だ。
その瞬間だった。
地面が激しく揺れた。
低く、鈍い音。
ガラスが震え、遠くで悲鳴が上がる。
「……は?」
顔を上げた先、交差点の中央で、何かが”歪んで”いた。
空気が捻じれ、光が曲がっている。形は人間の姿をしていた。
逃げなきゃ…
頭では分かっているのに、足が動かない。まるで根を張っているようだ。
周囲では、人が転び、叫び、誰かが泣いている。パニック状態だ。
最悪だ。
俺はただ、巻き込まれたくなかっただけなのに……
――分かってたんだ。
こういう時に限って、俺は安全圏にはいられない。
逃げ道はない。
理解した瞬間、何故か不思議と心が静かになった。
「……どうせ俺だし」
諦めた。
俺は生きるのを諦めた。
瞬間、視界が暗転した。
そして俺は、
何が起きたのかを、覚えていない。




