第4話:村の子の発作と消えた夜
朝の光が診療所を満たす頃、瑠璃は今日も小さな机で薬瓶を整理していた。
コポルが肩で眠そうに丸くなり、微かに鼻を鳴らす。
「さて……今日は少し遠方からの患者ですね」
——村の少年、ルーカス。発作を繰り返すということで、母親に抱かれて診療所にやってきた。
「瑠璃様……どうか、助けてください」
母親の声に、瑠璃は深くうなずく。
「落ち着いてください。まずは症状を見せてもらいましょう」
ルーカスは呼吸が乱れ、手足を震わせている。
「発作はいつ起きますか?」
母親は答える。「夜になると急に……まるで、何かに追われているように苦しむんです」
瑠璃は微かに眉をひそめる。
——夜に発作が起きる。しかも、前回の患者の夢や手紙と同じく「夜」が関わっている。
まずは体調の安定を優先し、呼吸を整える薬草シロップを調合。
同時に、軽くハーブ蒸気で環境を整える。
「深呼吸して、香りを意識してください。体と心が少しずつ落ち着くはずです」
ルーカスの体が徐々に静まり、母親も安堵の表情を見せる。
だが瑠璃は注意深く、少年の指先や髪に残る微細な香りを嗅ぎ取る——。
「……これは、月夜の夜に採取された特定の草の匂い……」
過去の患者や庭の香りと一致する。偶然ではない。
その夜、瑠璃は庭で小瓶を手に取り、調合を再確認する。
「同じ香り……同じ症状……繋がっている……」
ふと、庭の角に影が忍び寄る。
——先日、公爵に届いた月夜の手紙と同じシンボルが見える。
「……組織は、もう動き始めている」
瑠璃は小さく息をつき、コポルを肩に乗せる。
翌朝、母親が再び訪れた。
「瑠璃様、昨夜は本当に発作が起きませんでした! ルーカスもぐっすり眠れました」
瑠璃は微笑む。「小さな症状も見逃さず、原因を突き止めることが大切です」
その言葉の裏には、組織の存在を突き止める強い決意が隠されていた。
診療所の静かな室内に、月光が差し込み、瑠璃の決意を映す。
——この世界の“夜”には、まだ多くの謎が眠っている。
そして、私はそのすべてを解き明かす——。
小さな診療所は今日も、奇跡と秘密を紡ぎ始めた。