第9話
「どうしよう」
プロットがわかない。次何を書けばいいのか分からない。
何度か書き上げてみたけど、編集の宇曽田さんに見せてもボツにされる。
それどころか、ふざけてるんですか! と強めの口調で言われてしまった。
ふざけるわけないじゃない!
美少女作家の道がひらけているのよ⁉ 印税だってなだれ込むのにふざけるわけないでしょ!
どうしよう。何から手をつければいいのかまったく分からない。
私の友だちに小説について語れるやつはいない。いっそ宇曽田さんに書き方を聞いてみる?
だめだ。
だってあの一巻は私が書いたことになってる。小説の書き方を教えてなんて言ったら、じゃああの一巻はどうやって書いたんですか? って話になる。盗作がばれたら出版停止待ったなしだ。
誰か、私の役に立つやつはいないの?
どいつもこいつも役立たず! 視界内で談笑する人に苛立ちすら覚える。
スマートフォンの液晶画面をタップする。
開いたのはSNS。あこがれている女子高生作家【四季咲ララ】のアカウント。
ツイートに返信してもはまったく反応してくれないけど、それがまたかっこいい!
私もこうなれると思ったのに。こんなところで終わるの?
いやなるんだ! 私はチャンスをつかんだんだから!
四季咲ララのツイートをさかのぼる内にカフェの写真が映った。
いくら考えてもプロットは浮かばないし、美味しい物を食べてリフレッシュするのもありか。
場所を検索。
結構近い。周囲を見渡すとちょうど看板が見えた。
「あのカフェじゃん」
きっとこれは運命だ。おしゃれな入り口へと駆け出す。
「浅原さん。今日は来てくれてありがとうございます」
天ノ宮さんが微笑む。
かわいい。
花が咲いたような華やかさ。私服も白と水色で清楚な雰囲気ましましだ。パーカーで来た自分が恥ずかしい。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
「まずは何か頼みますか」
「そうだな」
きれいな手がメニューブックを開く。
「高くない?」
「ここは一級品をそろえてますからね。大丈夫です、今日は私が全部おごりますから」
女子におごられるのも複雑だけど、ここで断るのは失礼か。
俺はあまり紅茶を飲まない。天ノ宮さんのおすすめを聞いてそれを注文した。
天ノ宮さんと言葉を交わす内に、ティーセットを持った店員がやってきた。
確かアールグレイだったか。気持ちが引きしまるようないい香りだ。
チョコケーキも到着した。フォークの側面で切り出してパクっと一口。
濃い!
チョコもミルクも、何もかもが濃い! スーパーで買う物とは大違いだ。
本当に同じケーキなんだろうか。
そして紅茶も美味い! 匂いだけのお茶だと思っていたけど、匂いをかぐだけで味がする。アールグレイってこんなにさわやかだったのか。
「美味しそうに食べますね」
顔を上げると天ノ宮さんがにこにこしていた。手元の皿にのっかっているケーキは先端しか欠けていない。
俺一人パクパクしていたことに気づいて恥ずかしくなった。
「その、天ノ宮さんのも美味しそうだな」
「はい。このタルトも美味しいですよ」
余裕のある笑み。心の中を見透かされてるみたいだ。
くやしい。でもかわいい。
やっぱりかわいいは正義なんだなぁ。
「食べてみますか?」
「え」
フォークがタルトの一部を切り取った。フルーツにかざられたひとかけらが手皿とともに迫る。
「はい、あーん」
え、いいの?
こんな彼女が彼氏にやりそうなことを、こんな所で、彼氏でもない俺にしちゃっていいの?
いっか!
こんな特殊な体験、小説のネタにするっきゃない!
フォークに刺さってるタルトをパクっとした。
「ん、おいしい」
ケーキと紅茶が美味いところはタルトも美味い。
あまったるい味覚をアールグレイのさわやかさでリセットして、また口にスイーツを放り込む。天ノ宮さんとの会話をはさんでまた食べる。
おいしい。楽しい。
一時期人間不信になりかけたけど、いい人っているものなんだなぁ。
「浅原!」
聞き覚えのある声を耳にしてバッと振り向く。
まさかと思ったけど予感的中。テラスに憎き盗作魔がいた。
読んでいただきありがとうございます。
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