第8話
できた。
自己満足で紡ぎ上げた小説。誰に何を言われるか分からないほわほわした物語。
胸の奧をドキドキさせながら投稿した。
評価なんて期待してなかったけど、一話を投稿しただけで三桁におよぶポイントが入った。見間違いかと思ってまばたきを繰り返したけどやっぱり俺の作品だった。
二話以降も投稿してすっかり軌道に乗った。
評価なんてと思っていたけど、やっぱり自分の小説が高評価を得られるのはうれしい。感想ももらえて物語を書くスピードが増した。
迎えた金曜日の夜。パソコンと向き合っているとスマートフォンがバイブレーションを鳴らした。
液晶画面に横目を振って目を見張った。キーボードからバッと指を離してスマートフォンを握る。
耳元に当てて電話のアイコンをスライドさせた。
「はい、もしもし。浅原夏樹です」
スマートフォン越しに小さな笑い声が上がった。
「フルネームで応答してくれるんですね。ていねいな応答ありがとうございます。天ノ宮紗菜です。今時間いただいてもいいでしょうか?」
「もちろん。どうしたのこんな時間に」
「そろそろ助けていただいたお礼をと思いまして。今週の土曜日にお出かけしませんか?」
「今週か」
頭の中でプランを描く。
小説が軌道に乗っている。二度あるかどうか分からないチャンスだ。
この機会を逃したくない。少なくとも来週まで毎日投稿できるようにプロットを突き詰めておきたい。
「ごめん、今週の土曜日は予定があるんだ。来週はどうかな?」
「分かりました。時間と場所は追って連絡させてもらいますね。またお話できる日を楽しみにしています」
「俺もだよ。じゃあまた来週」
通話が切れて深く息をはいた。
声は裏返ってなかっただろうか。どう見たって相手は高嶺の花だ。期待なんてしてない。
そんな女性相手にも見栄を張りたくなるのが男のさがか。
「さーて、がんばらないとな」
天ノ宮さんとの交流が次で終わる保証もないんだ。次の次に備えて以降の話を書きためておかないと。




