第5話
「あン?」
二人組が不機嫌そうに振り返る。
やばい、もう次の図が浮かぶ。どうせ強い言葉で圧かけてくるよこの人たち。
「キミさぁ、オレたちに何か用?」
ほら来た。
こっちの用件は分かってるくせに。威圧すれば勝手に引き下がると確信してんだろうなぁ。
ごまかしたい。でも女の子が見てる。
こうなったら引くに引けない。
「……何だよ、何見てんだよ」
無言で相手の瞳を見つめる。両手の指をぎゅっと丸めて奥歯をかみしめる。
何か言ったところでもっと強い言葉を返される。
だったら何も言わない方がいい。時刻は帰宅ラッシュ。周りには大勢人がいるんだ。大それは行動は取れないはず。
「チッ、しらけちまった。行こうぜ」
二人組が背中を向けた。そのまま遠ざかって人混みに消える。
「はぁ~~」
安堵のため息と一緒に体の力が抜けた。
怖かった。
すっげー怖かった!
何だあの威圧感! 人間じゃなくて野獣じゃないかあんなの!
なぐられなくて本当に良かった。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
少女がふっと微笑む。
やっぱりかわいい子だ。田中さんとは比較にならない。
「どういたしまして」
反射的に告げて黙り込む。
こういう時どうすればいいんだろ。何か気のきいたことを言った方がいいのかな。
「私は天ノ宮紗菜です。あなたのお名前を教えてもらえませんか?」
「浅原夏樹です」
見据えられてつい口走ってしまった。
「浅原さんですね。何かお礼をしたいところなんですが、この後予定がありまして」
「気にしないでくれ。俺も予定があるから」
「では後日あらためてお礼をさせてください。ラインは使っていますか?」
「ああ、そのアプリならインストールしてるよ」
ろくに使ってないけど。
何なら、小説に没頭して男子の名前すら登録してないけど。
「よかった! それなら連絡先を交換させてください。
勢いにおされて連絡先を交換した。
人生初。女の子の連絡先を入手してしまった。
それも飛び切りかわいい子の。