第39話
大半のチームメンバーが教室を後に擦る中、夏林先輩と教室に残って小説のブラッシュアップを試みた。
お試しで書きつづったこともあってとにかくダメ出しされた。
あれが駄目これ駄目君のため。何かのアニソンを思い出しそうなやり取りをはさんで本文が完成した。
教室の隅でソシャゲしていた山岸さんはともかく、夏林先輩とは小説を介してぶつかり合ったおかげで距離が縮まったように感じられた。
とはいえ別の問題も発生した。
俺のお試し小説を採用したはいいものの、ブラッシュアップを重ねた結果山岸さんのプロットから少しずれた。
夏林先輩の説得で他の班リーダーは納得したけど、もう一人声優を用意しなきゃいけなくなった。
声優にもスケジュールがある。簡単にオーディションなんて開けないし予算の関係もある。小説の展開を元のプロットに戻すしかないと思われた。
でも俺はあきらめきれなくて一人心当たりがあると伝えた。
勝算はあった。今は期末試験前だから予定をぎゅうぎゅう詰めにはしないはず。話を聞いた限りじゃスケジュールは空いていそうだった。
一度WEB会議ツールを切って、スマートフォンでコールをかけた。
コールはすぐにつながった。
「こんにちは天ノ宮さん」
「こんにちは。浅原さんからお電話をもらえるとは思ってませんでした」
「突然の電話で迷惑じゃなかった?」
「大丈夫ですよ。それでどうしたんですか?」
意図せず息を呑む。
スマートフォン越しに話す相手は人気声優だ。
加えてシュプリームファイブの一人でもある。同人ゲームの声当てなんかを頼んでいいんだろうか。
臆しかけて、首をぶんぶんと左右に往復させる。
礼節がどうのなんて言っていられない。同人ゲームでも、俺にとっては本当の意味で初めての実績になる仕事なんだ。
少しでもクオリティが上がるならやるしかない!
「天ノ宮さん。明日明後日にでも、俺たちの同人ゲームに声を当ててくれないか?」
「いいですよ」
「後悔はさせ……」
ない。
そう告げる前に脳がバグった。
頭の中が疑問符で埋めつくされて思考がぐるぐる空回る。
「浅原さん?」
「あ、いや、同人ゲームに声を当ててほしいって頼もうと思ったんだけど」
「ええ、いいですよ」
「え、うそ、本当に?」
「はい。明日明後日ならスケジュールは空いてますから問題ありません」
「でも天ノ宮さんって人気声優なんだろ? 予算は限られてるから大した報酬は出せないぞ。明憲さんの事務所がなんて言うか」
「事務所は放任主義なので大丈夫です。お金に困ってはいませんし、報酬も出せる分で構いません」
「いや、でも」
周りが知ったらどんな反応をするんだろう。
人気声優は引く手数多だ。誰だってその知名度と実力にあやかりたい。
そんな人が安値で仕事を引き受けたなんて知ったら俺も私も! ってなるに決まってる。
「不思議な反応ですね。私に依頼したのは浅原さんなのに」
「すんなり引き受けてもらえるとは思ってなかったからね」
「んーじゃあ一つ条件を出します。いつか私が困ったら助けてください」
「それはまたあいまいだな。そんなことでいいなら」
「ありがとうございます。では日時の連絡を待っていますね」
「ああ。一時間以内にチャットで折り返すよ」
「了解です。ではまた後日」
別れの言葉を交わして通話を切った。
早速会議アプリを起動して、天ノ宮さんに提示された二つの条件を伝える。
すぐ了承をもらって場所と日時を決めて、それらの情報を電子的な文字で紡いで送信した。
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