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好きだった女子に小説を盗まれたけど、もっと可愛い女の子と仲良くなれたからまあよしとする  作者: 磯野カジキマグロ
2章

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第20話


 カフェテリアの入り口に天ノ宮さんが立っていた。


 つやのある黒髪は相変わらずきれいだ。整った顔立ちに浮かぶ笑みが入り口付近の男女をきつける。


 すらっとした脚が前に出て、すぐ違和感に気づいた。


 ケープコートだ。一見マントにも見えるそれが制服をおおっている。


 天ノ宮さんの周囲にいる女子は、誰一人としてケープコートを身に着けていない。


「小坂さん、この学校って校内でもケープコートを着けていいのか?」

「まさか。あれはシュプリームケープだよ」

「何それ?」

「あれ、知らない? 優秀な生徒に与えられる特権みたいなやつだよ」

「ああ、そういえばそんなこと書いてあったな」


 外国の一部の伝統校では、優秀な生徒がマントを羽織るという。おそらくはそれを参考にしたのだろう。


 クリエイター科の学費支払いは特殊だ。一般科生徒より学費が抑えられている代わりに、一年間に稼いだ額の一定割合を追加で支払う。


 その支払いが一定額を超えると特典がもらえる。学年の上位五名にはバッヂが配布される。


 さらに全学年を含めた上位五人には、さらなる特権と特別なアウターウェアが与えられる。


 そのアウターウェアこそシュプリームマント、およびシュプリームケープだ。


 アウターウェアの呼称から取って、その五人はぞく高貴なる五芒星(シュプリームファイブ)と呼ばれる、らしい。


「つまり天ノ宮さんは、校内で五本指に入るほど稼いでるってことか」

「そうだよ。ぼくたちの間じゃアイドルみたいなものだね」


 あの清楚な同級生がそんなにすごい人だったとは。俺は知らない間にとんでもない人とお近づきになっていたらしい。


 きらきらした瞳と目が合った。テーブルの隙間をぬうように歩み寄ってくる。


 数十の視線と取り巻きもついてきた。


「こんにちは浅原さん。この学校はどうですか?」

「雰囲気いいよ。校舎はきれいだし、みんなやる気があるし」

「それはよかったです。私はこの学校が大好きなので、浅原さんにも好きになってもらえたらと思っています」


 にこっとした笑みが視界内を華やがせる。


 カリスマというやつなんだろうか。私服で会った時とは別人のように貴品であふれている。


 いこいの場だったカフェテリアが今は王室のように映る。気を抜くと見惚みとれてしまいそうだ。


 幸か不幸か、今は嫉妬の視線が痛い。おかげでだらしない顔をしなくてすんだ。


「では、私はこれで」


 天ノ宮さんが身をひるがえす。


 距離が空くなり小坂さんが距離を詰めてきた。


「なに⁉ 何なの⁉ 天ノ宮さんとはどういう関係⁉」


 勢いにおされて思わず背筋を反らした。


「ナンパから助けて、お礼に高めのケーキをおごってもらった関係かな」

「なにその関係⁉ ケーキおいしかった?」

「おいしかったけど、小坂さんって独特な感性してるんだな」


 普通この状況で問い詰めるなら天ノ宮さんについてだろう。あの人を見た上でドーナツの味を優先する生徒がどれだけいることか。


 Vチューバーってみんなこうなんだろうか。配信で何しゃべってるのか気になってきた。


 氷上彗だっけ。やっぱり後で検索してみよ。

 

「それはそうと離れてくれ。女子に慣れてないから気恥ずかしいんだ」

「へ? 女子?」


 小坂さんが目をぱちくりさせた。信じられないものを見たように息をのんで、目を見開く。


「ぼくは男だよ!」


 カフェテリア内に大きな声が響き渡る。

 

 天ノ宮さんのすごさにはびっくりしたけど、このカミングアウトが今日一番の驚きだった。

読んでいただきありがとうございます。


続きが気になる、次話が読みたいと思ってくださった方は、評価・ブクマ・感想など応援よろしくお願いします!

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