第20話
カフェテリアの入り口に天ノ宮さんが立っていた。
艶のある黒髪は相変わらずきれいだ。整った顔立ちに浮かぶ笑みが入り口付近の男女を惹きつける。
すらっとした脚が前に出て、すぐ違和感に気づいた。
ケープコートだ。一見マントにも見えるそれが制服をおおっている。
天ノ宮さんの周囲にいる女子は、誰一人としてケープコートを身に着けていない。
「小坂さん、この学校って校内でもケープコートを着けていいのか?」
「まさか。あれはシュプリームケープだよ」
「何それ?」
「あれ、知らない? 優秀な生徒に与えられる特権みたいなやつだよ」
「ああ、そういえばそんなこと書いてあったな」
外国の一部の伝統校では、優秀な生徒がマントを羽織るという。おそらくはそれを参考にしたのだろう。
クリエイター科の学費支払いは特殊だ。一般科生徒より学費が抑えられている代わりに、一年間に稼いだ額の一定割合を追加で支払う。
その支払いが一定額を超えると特典がもらえる。学年の上位五名にはバッヂが配布される。
さらに全学年を含めた上位五人には、さらなる特権と特別なアウターウェアが与えられる。
そのアウターウェアこそシュプリームマント、およびシュプリームケープだ。
アウターウェアの呼称から取って、その五人は俗に高貴なる五芒星と呼ばれる、らしい。
「つまり天ノ宮さんは、校内で五本指に入るほど稼いでるってことか」
「そうだよ。ぼくたちの間じゃアイドルみたいなものだね」
あの清楚な同級生がそんなにすごい人だったとは。俺は知らない間にとんでもない人とお近づきになっていたらしい。
きらきらした瞳と目が合った。テーブルの隙間をぬうように歩み寄ってくる。
数十の視線と取り巻きもついてきた。
「こんにちは浅原さん。この学校はどうですか?」
「雰囲気いいよ。校舎はきれいだし、みんなやる気があるし」
「それはよかったです。私はこの学校が大好きなので、浅原さんにも好きになってもらえたらと思っています」
にこっとした笑みが視界内を華やがせる。
カリスマというやつなんだろうか。私服で会った時とは別人のように貴品であふれている。
いこいの場だったカフェテリアが今は王室のように映る。気を抜くと見惚れてしまいそうだ。
幸か不幸か、今は嫉妬の視線が痛い。おかげでだらしない顔をしなくてすんだ。
「では、私はこれで」
天ノ宮さんが身をひるがえす。
距離が空くなり小坂さんが距離を詰めてきた。
「なに⁉ 何なの⁉ 天ノ宮さんとはどういう関係⁉」
勢いにおされて思わず背筋を反らした。
「ナンパから助けて、お礼に高めのケーキをおごってもらった関係かな」
「なにその関係⁉ ケーキおいしかった?」
「おいしかったけど、小坂さんって独特な感性してるんだな」
普通この状況で問い詰めるなら天ノ宮さんについてだろう。あの人を見た上でドーナツの味を優先する生徒がどれだけいることか。
Vチューバーってみんなこうなんだろうか。配信で何しゃべってるのか気になってきた。
氷上彗だっけ。やっぱり後で検索してみよ。
「それはそうと離れてくれ。女子に慣れてないから気恥ずかしいんだ」
「へ? 女子?」
小坂さんが目をぱちくりさせた。信じられないものを見たように息をのんで、目を見開く。
「ぼくは男だよ!」
カフェテリア内に大きな声が響き渡る。
天ノ宮さんのすごさにはびっくりしたけど、このカミングアウトが今日一番の驚きだった。
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