第14話
俺は玄関に宇曽田さんを迎え入れた。
田中さんと関わっていた人だ。少なからず苦手意識はある。
でも宇曽田さんは盗作した田中さんに怒っていた。多少は信用できる人のはずだ。
とりあえずリビングに通した。ソファーに座ってもらってお茶を用意する。
お菓子はなんかあったっけ? クッキーでいいか。
「浅原さんは一人暮らしをしているんですか?」
「はい。高校進学の際に一人暮らしを始めたんです」
お茶請けと茶碗でおぼんの上をかざった。リビングに戻ってセンターテーブルの上に置く。
「どうぞ」
「ありがとうございます。気をつかわせてすみません」
ソファーに座って宇曽田さんと向かい合った。
「それで、俺に何か用でしょうか?」
「はい。事の成り行きを説明しようと思いまして。浅原さんには聞く権利があると思いますから」
ってことは、田中さんが盗作した作品についての説明か。
あれはもう田中さんと出版社の問題だ。わざわざ俺に言わなくてもいいのに。
もしやあれか。盗作に気づかず本を出したことへの罪悪感があるのか。
聞くだけならタダだし、まあいいや。
「そうですね。では事の顛末を聞かせてください」
「分かりました。と言っても、まだ本当の意味で片付いてはいないんです。なので決まったことだけ説明させていただきます。まず、田中さんとの契約は切らせてもらいました」
ちょっと驚いた。
てっきり連載を続けるために、俺を説得しに来たとばかり思っていた。
俺から許可を引き出せれば盗作で訴えられるリスクはなくなる。本を自主回収しなくてもすむ。出版社からすればそれが一番のはずだ。
「契約を切ったってことは、本は絶版ですか?」
「いえ。その辺りは検討している段階です」
「検討? 原作者との契約は切ったんですよね?」
「それはちょっと違いますよ。田中さんは原作者ではありませんから」
真の意味ではそうだけど、ちょっと言ってる意味が分からない。
小首をかしげていると、宇曽田さんが背筋を伸ばした。
「浅原さん、ここから先はビジネスの話をさせていただきます。田中元先生の代わりに続きを書いてみませんか?」
言葉の意味を理解するのに数秒かかった。




