第13話
自宅に戻るなり書類の入力欄を書きなぐった。
迷いはなかった。元の学校には仲のいい友人も恋人もいない。
むしろ田中さんが逆恨みしていたら登校は危険だ。クラス内チャットであることないこと広められているかもしれない。
翌週の月曜日はわざと遅刻した。休み時間前を見計らって昇降口に踏み入り、チャイムを耳にして教務室に向かう。
担任教師に転入することを告げた。
開口一番に打ち明けて驚かれたけど、俺が本気だと知ると必要書類の発行を依頼してくれた。
翌週になって、在学証明書や成績証明書などの書類が到着した。間違いがないか確認して、書類一式を郵送で提出した。
転入まで好きなだけ小説を書ける!
ハッスルできたのはほんの数日。お返しとして課題が送られてきた。
課題の量は有限だ。終わらせれば残りの時間を小説にそそげる。
その一心でペンを握った。白いページに文字を連ねて、ページをめくって、また別の問題文に目を通した。
翌日も書いて、めくって、また書いた。
小説に逃げて、ペンを持って、さらに書いた。
「終わったあああああああああああああっ!」
チェアから勢いよく立ち上がった。
これで義務から解放された! 一日中小説を書いても怒られない!
俺は、自由だ。
キリッとしていると電子的な音が鳴り響いた。
玄関前のインターホンが鳴らされた音だ。
「誰だろ」
今日は平日。土日でも俺を訪問する人はいない。
リビングに足を運んでインターホンのモニターを確認する。
思わず目を見張った。
出るべきか、居留守を決め込むか。
数秒迷ったすえに玄関へ向かった。カギを開けてドアを開け放つ。
「こんにちは。浅原さん」
玄関前に立っているのはスーツ姿の女性。
カフェで田中さんに鋭い視線を向けた編集者がにこっと微笑む。




