第12話
校舎見学の日をむかえた。俺は身支度を整えて自宅のマンションを出る。
今日は金曜日。普通の生徒には授業がある。天ノ宮さんに案内してほしかったけど、この際ぜいたくは言っていられない。
電車に揺られて進んだ先に白い校舎があった。雪を外壁にぬりたくったように真っ白だ。
高貴な外観にびびりながら玄関に入った。受付をすませてつり下げ名札を受け取る。
首にたらすなり担当者の教職員に続いて廊下を歩く。
授業中だけあって廊下は静まり返っている。まるで俺たちだけが異世界に迷い込んだみたいだ。
ドアの窓越しに教室内を見て、おしゃれなカフェテリアを見渡しておぉーっと感動の声をもらす。
設備がきれい。本当にいいところだ。絶対転入した方がいいと思えるほどに。
一通り校舎内を歩いた末に理事長室へ案内された。高そうなスーツを身にまとう男性にうながされてソファーに座る。
ダンディな理事長が微笑んだ。
「初めまして、この学校の理事長を務めている天ノ宮明憲です」
「浅原夏樹です。本日は見学の機会をいただけて大変うれしく思っております」
「そうかしこまらなくてもいいよ。君のことは娘から聞いている。ふらちな連中から紗菜を助けてくれたそうだね。父親として礼を言わせてくれ」
意外と好印象。
天ノ宮さんの父って聞いたからどきどきしてたけど、優しそうな人でよかった。
「どうだったかな? 今日一日校舎を見学してみて」
「すごくいい場所ですね。どこを見てもきれいですし、俺にはもったいないくらいです」
教室をのぞいて思ったけど、この学校はイケメンと美少女が多い。現役のアイドルや俳優も在籍しているから気後れしそうだ。
「君は転入の条件を満たしている。この校舎で学ぶ権利はある」
「でも俺、本当の意味で書籍化したことはないんです。社会は実績を求めますよね? 俺は他の生徒と違って何の実績もないんですよ」
手がけた小説は書籍化したけど、書籍化作家として活動した実績は一週間もない。
社会は人に実績を求める。すごい人たちがはびこるこの学校で本当にやっていけるんだろうか。
「そうか。君は不安なんだね、小説家としてやっていけるかどうか」
心の中を言い当てられて息をのんだ。
「すごいですね。俺が思ったことそのまんまです」
「こう見えて何人もの生徒を送り出してきたからね。君のように思い悩む生徒はめずらしくない」
「そういう生徒は今どうしてるんですか?」
「成功した子もいれば、挫折して一般科に移った子もいる。限られた席を取り合う業界だからね。それは仕方ない」
「やっぱり厳しい世界ですよね」
「ああ。みんな職種問わず不安と戦っている。でも、そういう生徒こそこの学校で学ぶべきだと思うんだ。設備はよその学校と比べて整っている。志を同じくする仲間と悩みを共有して、時にライバルとして高め合える。可能性を伸ばすなら、ここよりいい環境はないと自負しているよ」
熱のこもった声が理事長室に響き渡る。
明憲さんは、人を育てるのが本当に好きなんだろうな。
「君はどうする? 挑戦してみたい気持ちがあるなら、我々は全力でサポートするが」
挑戦したい気持ちはある。いい環境に自分を放り込めるまたとないチャンスだ。
元より、校舎を見学した時から俺の答えは決まっている。
「挑戦したいです。この学校への転入を希望します」
「歓迎するよ」
話はまとまった。明憲さんから書類を受け取って簡単に説明を受ける。
俺は一礼して理事長室を後にした。
この話で第1章は完結です。読んでいただきありがとうございました。
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