34.切なる思い
デュークはそこで口を噤んだ。私が思い出した時期、それからの行動について思い返しているようだった。
「本当に記憶が曖昧で、上手く話せないかもしれませんが、私が覚えている範囲の物語の大きな展開はここでの出来事と同じなんです。国際交流期間に展覧会に展示されていたピンクローザが盗まれ、物語ではヒロインであるマッケラン嬢とイレイン殿下が誘拐され、危うくというところでデューク様が助けに入る。物語の最後は、願いが叶う宝石だと愛の告白とともにピンクローザで作られた宝飾品をプレゼントしていました」
「それは……」
「デューク様が話してくれた夢見と、流れは似ていますね」
デュークの顔色は冴えないながらも、真面目な顔で頷いた。
「確かに……。今の状況も含め、偶然とするには出来すぎている」
「はい。私は夢見の話を聞いて、ピンクローザはもしかして本当に願いが叶うのではないかと考えています。なぜなら、物語の最後はヒロインが願いを唱えた時に柔らかな光に包まれており、デューク様のお墓の前の話とそれも類似しています。私は死の運命から逃れるためにも、ピンクローザを手に入れて願いを叶えられたらと」
拉致され慌ただしく状況が変化したが、それを知ったのは先ほどだ。
まだ私もまさかという思いもあるが、絶対ピンクローザは取り戻すべき宝石で無事に取り戻せた。
これで死に役回避となるのかまではわからないが、最悪のケースは免れたのではないか。デュークも私の言葉を疑うことなく、自身の夢見とともにあらゆる可能性を考えてくれている。
張り詰めていたものがほぐれていく安堵から、口が軽くなっていく。
「だから、これまでイレイン殿下やピンクローザを気にしていたんだな。話してくれてありがとう」
突拍子もない話を信じてくれた。デューク自身も夢見という体験が影響しているかもしれないが、話したことに礼まで告げられじわりと目頭が熱くなる。
「聞いていただきありがとうございます。 それこそ信じられない話かもしれませんが、マッケラン嬢が物語のことや前と違いすぎると言っていたので、彼女は転生者で回帰者なのだと私は思っています。コーディー・アドコックも前回と言っていたので、彼も記憶のある回帰者なのだとすると、デューク様が見た夢は回帰前の話なのではないでしょうか。マッケラン嬢が叫んでいた内容と差異もないようなので……」
ベリンダの話は鬼門だ。私にとっても、デュークにとっても。
様子をうかがい見るとデュークは眉間にぐっとしわを寄せたが、それよりも重大なことに気づいたと悲痛な声を上げた。
「なら、俺が見た夢は回帰前の可能性があると? なら、俺は一度フェリシアを……」
「間違えないでください。フェリシアに手をかけたのはデューク様ではありません!」
まだ記憶に新しい出来事のデュークにとって新たに知らされた事情に、デュークはさらにショックを受けたようだ。
夢見のせいで私の死に関して敏感になっているのはわかっているが、それは違うと首を振った。
放っておかれたが、それをよしとしていたのも物語の私なのだ。
すれ違う要因はお互いにあった。罪を犯したのはコーディーとベリンダである。そこは間違えてはいけない。
「だが……」
「今言いたいのは、もしデューク様の夢見が実際に起こったことで回帰していたとしたら、ピンクローザは逸話通り、願いが叶う宝石であるかもしれないということです。だから、私は盗まれないよう、盗まれたとしても少しでも情報を得たくて動いてきました。そしてデューク様の話を聞き、本当に願いが叶うならば、死に役ではないとはっきりと証明し終わらせたい。私は何にも脅かされず、デューク様のそばで生きたい……、信じてもらえますか?」
私はそこで口を引き結んだ。
記憶を思い出してからずっと捉われたような感覚。
自分の人生なのに、逃れたはずなのに、付きまとう死に役から解放されたい。私は私のまま好きな人のそばで、何にも捉われずに生きたい。
いざ口にすると、こみ上げる気持ちがいっぱいになり泣きそうになった。
誰よりも一緒にいたい相手にすべてを吐き出す行為は、思った以上に感情的になってこれまでの出来事やそれに伴う思いが溢れ出す。
堪えていると、ふわりとデュークに抱きしめられた。
「ああ。さっきも約束した。絶対一人で逝かせないしフェリシアを置いてなんて二度と考えない。二人で乗り越えよう。ピンクローザは下賜されるように交渉する。物語でも夢でもそうなら、そう難しくないことなのだろう。だから、一人で抱え込まず俺にもその不安を分けてくれ。一緒に考えていこう」
わかってほしい人にわかってもらえた。
一番ほしかった言葉に、堪えきれず涙が流れる。
「フェリシア……、フェリ、泣かないで」
優しい声で何度も宥められ、涙を唇で受け止められる。
今日は感情的になって気持ちがコントロールできない。いつまでも困らせたくないのに、ひくっと嗚咽とともに涙がこぼれ落ちる。
「今日は泣いてばかりです」
小さな子供ではないのに泣いてばかりで恥ずかしいと小さく唇を尖らせると、その唇も宥めるようにちゅっと音を立てて塞がれた。
吐息が触れるほどの距離でささやかれる。
「我慢しないでいい。その涙もすべて俺が受け止めるから。フェリは俺と一緒にいることだけ考えて。絶対、フェリは俺が守る。どこにも行かせない」
再度、唇に触れる温もりとともにぎゅっと抱きしめられ、私は広い背中に腕を回した。




