27.加速する想い
「信じてもらえないとは思うが」
私のその態度を勘違いしたのか、悲しげに眉尻を下げて私を見るデュークに、内容を、デュークの気持ちを疑っているわけではないと告げる。
「いえ。信じます。夢で、私に会いたいと願ってくれたのですよね? そのおかげで私がここにいるのだと考えると、悪いことではないです。その夢が何を示唆していようとも、私は生きています」
「確かにフェリシアは今触れていて温もりもある。だが、夢はあまりにもリアルで……」
肩が震えるデュークの姿に、どれほど苦しんでいたのかと私も苦しくなる。
物語では私は殺されてここにいない人間であり、デュークは未来があり幸せになる人で、私がいなくても時間とともに乗り越えて先に進んでいくものだと思っていた。
だけど実際は私との再会を願うほど、私を必要としてくれた。
回帰しても精神的に追い込んでしまうほどの後悔と思いの丈、今更ながらにその深さを思い知る。
夢の話をする時に暗く陰った濃紺の瞳のその奥を見ていると、底は見えず一緒に溺れてしまいそうなほど胸が圧迫される。
「デューク様……」
もう苦しまないでほしいと、そして改めてベリンダのことを口にして追い込んでしまったことを後悔し泣きたくなった。
あの時、どのような思いで私の言葉を聞いたのだろうか。
十分に後悔していたデュークに、なんて酷いことを言ってしまったのか。
重い息を吐き出すとデュークも同じように息を吐き出し、二人で一緒に沈んでいきそうなほど周囲の空気が重くなった。
「俺がもっとそばにいればそうならなかった。もう二度とフェリシアを死なせない。危ない目に遭わせたくない。そればかりで、フェリシアが言うように、現実と夢を混同した俺はフェリシアを守るといいながら、実際はフェリシアを困らせて何も現状をよくできていない。不甲斐なくて申し訳なくて、でも離れることもできなくて監視するようなことばかり……」
デュークの懺悔は止まらない。
ベリンダのことがあり私に寄り添えきれなかったこと、至らなさへの後悔が、夢を見ることでさらに根深くなってしまったようだ。
「実際は寄り添ってくれました。大事なときに背中を押してくれたこと、そばにいてくれたことそれがすべてですので、そこまで落ち込まないでください」
終わったことを悔いてもどうしようもない。
一緒にどこまでも落ちかけたが、そうならなかったことに目を向けるべきだと、一緒に未来を見据えていきたいと私はデュークの手をぎゅっと握った。
デュークの苦悩を知り、これまでのデュークの行動や視線の意味がわかった。その上、ピンクローザについて新たな情報を得ることができ、鳥肌が立った。
ピンクローザは実際に願いが叶う宝石なのかもしれない。
――こんなことってあるんだ……。
なんとも言い知れない感情がこみ上げ、ピンクローザ、デュークの回帰を考えるとぞわぞわとしたものが止まらない。
イレイン王女に逸話の話を聞いてから、願いを叶える方法を調べてみてもわからないままだった。
記憶のありなしがここでもまた気になるところだけれど、今のこの世界はやり直したいとのデュークの願いに反応してならば、願いを叶えるためには何か条件があるはずなのだ。
とにかく、デュークのおかげでピンクローザは重要なアイテムだと確信を得ることができた。
条件を満たせれば願いを、死に役の回避ができるかもしれないことからも、今の状況のままにはしておけない。
盗まれてしまったのなら、取り戻すしかない。実際に願いが叶うのか、手元になければ確かめようがない。
デュークも事細かく夢で見るわけではなく、主に後悔から私が死んだ場面を繰り返し見ているようで、窃盗犯の顔などはわからないらしい。
取り戻すためには、現時点で一番安全で可能性があるのは茶髪の男を捜しそこからたどるのが一番だが、物語の強制力、これまでの展開を考えると誘拐事件は起こる気がする。
私は興奮を抑えるために、一度大きく深呼吸をした。
イレイン王女と誰かが誘拐されることは決まっているのなら、絶対阻止しなければならない。
巻き込まれても、巻き込まれなくても、この件は見過ごすわけにはいかない。
今後の動きとしては、イレイン王女を保護することとピンクローザを取り戻すことは絶対条件となった。
物語ではわからないけれど、デュークの夢ではレイン王女は誘拐された時に背中に怪我を負ったらしい。そのため国の利害や様々なことが関係し、クリストファー殿下とイレイン王女は婚約したとのことだった。
そして窃盗団壊滅の褒美としてピンクローザを下賜されたらしい。
なぞられる展開と、デュークの夢と現実で違う点。何より、物語のヒロインがいなくても進む展開を理解し、私の抱えるものも話すべきだと強く思う。
今なら、私の話も理解してもらえる。わかり合える。
――死に役への不安も、デュークの後悔ももうこれ以上いらない!
苦しみはもう十分だろうと、話すために姿勢を正そうと手を離そうとした。けれど一瞬離れかけた手は、再び掴まれた。
「フェリシア」
「デューク様、私も話さなければならないことがあります」
徐々にこめられる力にデュークの明確な不安がひしひしと伝わり、私は握られる手を見つめながら強く決意する。
ここでもう一度私を排除しようとする動きがあるのだとしても、もう二度とデュークを諦めない。
――物語の好きにさせないんだから!
ここは私たちの世界。好きなようにするのはこっちなのだと言い聞かせ、今度こそすべてから解放されるのだとデュークを見つめた。
「実は私……」
「あの、イレイン様を見ませんでしたか?」
学年の違うセラフィーナが教室の前の廊下を足早に通り抜けようとし、私たちに気づき声をかけてきた。
ただならぬ様子と、イレイン王女の名前に私たちは話を中断し、セラフィーナへと同時に顔を向けた。
「私たちは見ていませんが……。どうされたのですか?」
何かあったのかと訊ねると、セラフィーナは小さく息をつき教室に入ると縋るような表情で私たちを見た。
「イレイン様の姿が見当たらなくて」
「いつからですか?」
「少し前まで一緒にいたのですが、お手洗いに行き帰ってきた際にいなくなっていて」
そわそわと落ち着きのない様子のセラフィーナは珍しい。
デュークの話を聞いた後、イレイン王女の姿が見られないとなるとどうしても物語の展開、誘拐事件が思考を過る。
だが、あれは街での出来事だ。ここは学園だから窃盗団とは関係ないはずだとすぐに考えを改めたが、それでも姿が見えないのは心配になる。
「それはよくあることですか?」
「たまにあります。そのため、知り合いと出会われて少しだけのつもりでお話しされている可能性もあり、あまり大げさにするわけにもいきませんし、かといって何かあってはと思って」
「わかりました。私も一緒に探します」
勘違いであってほしいとの言葉は切実で、放っておけるものではない。
不安を押し殺すようにきゅっとスカートを掴むセラフィーナの様子に煽られるように、私は彼女のほうへと足を向ける。
「フェリシア」
「デューク様はもしもの時のためにヨネバミア国側の人と連携を」
すかさず止められたが、デューク自身も迷うように眉を寄せていたため、私は現実的に動くべきところだと小さく頷いた。
何かあれば国際問題になるため、ここは動くべきだ。学園内を探すだけ。警備も万全だし部外者が簡単に立ち入ることはできない。
視線で訴えると、まだ話は途中であったけれどわかり合えるところまで来ていたこともあり、私を信じようとデュークは頷く。
「三十分経っても見つからなければ、ここに戻ってきてほしい」
「そうします。続きの話はまた後で」
「わかった」
デュークとは後で話す約束をし、私はセラフィーナとともに教室を後にした。




