25.積もる想い
学園の窓から、木肌を晒す落葉樹が冬の青空を突き刺してそびえ立つのが見える。
花々の色が少なくなった景色はすっかりと冬のものに様変わりし、木々が揺れるたびにこちらまで冷気が伝わってくるようだ。
教室に残っているのが、私たちだけとなったある日の放課後。
物語が進んでいることもあり時間をかけてもよいことがないと、早速私はデュークに話があると切り出した。
デュークを目の前にいざ話し合うとなったら、本当に話し合えるのだろうかと不安と焦燥でいつもよりとくとくと心臓の鼓動が強く主張し、喉がきゅっと締まる。
緊張のため教室の空気を入れ替えようと開けていた窓から、びゅうぅぅっと大きな音を立てて風が吹き、私は身体を震わせながらこちらの様子をうかがうデュークへと声をかけた。
「もう秋は終わりますね。今年の冬は雪が降るのでしょうか?」
「雪か……。どうだろうな。久しく積もっていないが」
雪で遊んだのは十年も前だ。兄たちと一緒に雪合戦した記憶がある。
「近年、積もるほどの雪は降っていないので、久しぶりに雪景色を見てみたい気もします」
「明け方の誰にも踏まれていない景色は綺麗だろうな。今日は一段と寒い。風をひいては大変だから窓を閉めよう」
鞄を私の鞄の横に置いたデュークは窓を閉めると、改めて私の前に立った。
触れそうで触れない距離。今の私たちの関係性を物語るものを目にするたびに、ものすごく寂しくなる。
――また言い合いになって、これ以上距離が開いてしまったら……。
そんな不安に駆られそうになる。だが、本音でぶつかると決めたじゃないかと私は張り付く喉を開けるように大きく息を吸い込み、デュークを真正面から見つめた。
視線が絡むと、デュークの濃紺の瞳がわずかに揺れる。これまでその揺れと同じように揺れていたけれど、今日は逃げないのだと私は口を開いた。
「私たち、ここ最近少しぎこちないと思うのですが……。正確には、剣術大会の時から。いつまでもぎこちないのは寂しいです」
今の気持ちも素直に吐露する。
通常通り一緒に過ごしていても、あれから最低限の接触しかしていない。
馬車で降りる時に差し伸べられるなど、貴族男性としては当然のようにされるが、恋人としての触れ合いがめっきりなくなってしまった。
徹底する距離。触れそうになって慌てて引っ込める様子を見るたびに、冷たい氷を落とされていくようで、それは解けきることなく今も冷たいまま。
剣術大会の時に避けていなければと、思い出すたびに後悔する。
徐々にその溝は大きくなり、我慢しきれなくなったデュークに詰められ、本音を吐露したこともあったがぶつかりきれずずるずるとここまできた。
あの時もデュークの部屋に抱えられ運ばれたが、それ以降は触れられることはなかった。
一緒にいるのに、気持ちはあるとわかっているのに、見えない隔たりを感じるたびに心は冷え、物語の不安とともに耐えられなくなりそうだ。
「……すまない」
デュークの瞳が狼狽に揺れる。
「もともとは私がとった行動が避けるような形になったことを、まずお詫びしたいです。申し訳ありませんでした。あれはデューク様を避けたかったわけでは決してありません」
逃げないでと視線を外さず見続けると、デュークは観念したかのように苦笑した。
「……もちろん、それはわかっている。俺が未熟なせいだ。その行動でフェリシアを追い詰めたかったわけではない。寂しい思いをさせてすまなかった」
私に向けて伸ばされた腕。真摯な声とともに、優しくて強い瞳がひたと私を見据える。
伝えればわかってくれるとは思っていたけれど、これまでのぎこちなさからまた避けられるのではないだろうかという不安もあって、私はおずおずと手を前に出した。
その手をすかさず握られ、求めていた温もりに溜まっていた氷がじわりと解けていく。今なら感じていたこと、触れて言葉にしても伝わり返ってくると信じられる。
相変わらず鼓動はどくどくと大きく主張しているけれど、私はぎゅっと握り返し、ずっと感じていた違和感を口にした。
「……デューク様はどこを見ているのですか?」
「どことは?」
「物理的なことだけでなく心配してくれているのも伝わるのですが、私を見ているようでどこか違うところを見ているような気がして……」
触れられない微妙な距離。逸らされる視線から、どこか申し訳なさそうに遠慮する双眸。それでも異常なほど、私の身の危険を心配して動く姿。
私も私で死に役である不安から受け止めきれず、気持ちだけが空回りしていた。
そのため違和感を覚えつつもうまくそれらを掴みきれなかったが、ここ最近増した過保護さからようやくその違和感を捉えることができた。
「そうか……」
そこでデュークは唇を強く引き結び、顔を隠すように片手で覆った。はぁっと息をつくその様子をじっと見つめる。
繋がれた手は、いっこうに離される様子がない。その温もりに励まされるように、私は声をかけた。




