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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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悔恨 sideデューク 後編


 毎晩見る夢に苛まれ寝不足になるなか、デュークはフェリシアがユリシーズと声を出し笑って話しているのを、離れたところからそっと見守っていた。

 その最中、フェリシアがこちらを向いたのでそっと笑みを浮かべて視線を逸らした。


 ほかの誰といても、自分を気にかけてくれている。そのことに一瞬気分が上昇したが、どうしてもヨネバミア国側の人物と関わるフェリシアを見ると顔に出してしまいそうで、表情を隠すように顔を背けた。

 悪夢はコーディー・アドコックを追い詰めるところ、クリストファー殿下がイレイン王女にネックレスを渡しているところや、フェリシアが亡くなってから一年後の墓の前と日によって違うが、必ずフェリシアが死ぬところから始まる。


 まるで本当に経験したかのように、感じるものすべてが夢で済ますにはあまりにも鮮明で、何度も何度も動かなくなったフェリシアを前にデュークは絶望した。

 あれは夢だ。朝がきてオルブライト家へと迎えに行き、フェリシアの姿を確認しようやく落ち着ける。

 会話をし、触れるほどの距離と絡む視線に、あれは現実ではないと一日かけて言い聞かせる。


 だけど、その晩にまた同じ夢を見る。その繰り返しに気がおかしくなりそうだった。

 笑っている姿を見るだけで、息をしているだけで、生きてそこにいるだけで、尊い。


 自分の至らなさへの後悔があれだけで済んだのは、大事なものを失くさずにいられるのは、気づくことができたおかげだ。

 それも、フェリシアがいつもと違う行動をしてくれたから。


 普段と変わらぬままだったら、デュークが気づけたかどうかもわからない。そんな自分に嫌気が差し、ここ最近どう動くのが正解なのかわからなくなってきた。

 大事にしたいのも守りたいのも変わらない。むしろ、さらに思いは強くなったが、フェリシアに伸ばした手を避けられてから、思うように行動することに躊躇いを覚える。


「最近、多発していた窃盗団の動きが大人しくなったがそれをどう見るべきか……。デューク、どうした?」


 クリストファー殿下に問いかけられ、デュークははっとして目の前に主を見た。

 思考に没頭し、会話が疎かになってしまっていたことに気づき、わずかに眉尻を下げる。

 フェリシアとの関係が順調であるか否かは、デュークの心身に影響するのだとつくづく痛感する。


「すみません。少し考え事をしておりました。その件ですが、ユリシーズの話では展覧会に合わせてやってきた国境のない窃盗団の仕業の可能性もあるようです。それを受け、警備も増やしたため諦めたと考えることもできますが、準備に取り掛かっているだけかもしれません。まだまだ油断はできない状況だと思います」

「ああ。そうだな。王都に潜伏していると考えて引き続き警戒態勢を敷くしかないな」


 窃盗団の話は、ユリシーズに聞いたとフェリシアから伝えられ、後日詳しく本人から話を聞かせてもらった。

 連休明けから、ユリシーズと話すことが増えたフェリシア。話す内容も報告されるし、やましいことがないのだとデュークも頭ではわかっている。


 マッケランのこともあり、ヨネバミア国王女の動向が気にかかっているゆえの行動だとも理解している。

 だが、どうしてそこまで積極的に動くのか釈然とせず、夢のこともありじっとしてほしいという気持ちが前に出てしまう。


 ――もう、危険な目に遭ってほしくないのに……。


 前回の交流で死を望まれるというおぞましい事件にフェリシアは遭遇し、一人不安を抱えさせていたという失態をデュークは犯したばかりだ。

 フェリシアはものすごく怖かったに違いないし、今も完全に忘れたわけではないのに、どうしてそこまで積極的になれるのか。


 ただ、二度と自分も含め誰にもフェリシアを傷つけさせたくない。幸せになってほしいと、デュークは思っているだけだ。

 アクセサリー作りや友人との時間といった好きなことをして笑って、自分といるときも幸せを感じてくれたら、その姿をそばで見られるならそれだけでデュークは幸せだ。


 それだけなのに、フェリシアは自ら関わる必要がないことまで首を突っ込もうとしてしいる。それが理解できなかった。

 こんなにヤキモキしているのに、今もユリシーズと楽しそうに笑っている姿を見せられ、どうしても心穏やかではいられない。


 相手は懸念のあった、ヨネバミア国側の人物だ。

 しかも、ここにきて展覧会の宝石まで狙われている可能性がもたらされ、その展示品の中には夢にも出てきたピンクローザもある。


 ――嫌な符合だ。


 フェリシアを苦しめたベリンダ・マッケランのデュークへの異様な執着の理由の一つに、ピンクローザが目的だったのではないかとフェリシアは言っていた。

 現在王家所有の宝石がどうしてか、夢では確かに自分が持っていた。


 自分勝手な言い分と歪な好意に思惑があり、それがピンクローザだというのならば、彼女の性格とイレイン王女側の話を含めデュークもなくはないとは思った。

 マッケランのことを思い出すだけで、腹立たしく不快になる。

 デュークが眉を寄せていると、腕を組みとんとんと指を動かしていたテレンスが意見を述べる。


「アロリザス地方のダイヤモンドが重点的に狙われているので、価値の高い物ばかりを狙っているのでしょうね。そして売りさばくルートがあると考えると、一筋縄ではいかなそうだ」

「どれだけ巨大な組織だろうと、窃盗犯は必ず捕まえなければ。展示品をも狙っているのだとすればなおさらだ」


 クリストファー殿下の言葉にデュークは頷き、フェリシアの様子をうかがった。

 ユリシーズとの会話は終えたのか、今はジャクリーンと話している。そのことにほっとし、心の狭い自分の反応に嫌気が差した。


 もっと大きくなんでも構えてフェリシアを安心させてあげたいのに、どうしても夢のこともあり、フェリシアにとって何か悪いことでも起こってしまうのではないかとの不安に急き立てられる。

 何度も何度も、フェリシアの死を繰り返し見た。


 マッケランとアドコックの企みを見抜けず、のうのうと過ごす自分。

 自分の至らなさのせい。何度も何度も見る夢に夢だと気づき助けたいと足掻いたが、夢の中の自分にどれだけ叫んでも何も気づこうとせず幾度もフェリシアを失った。

 そのたびに心はすり減り、これ以上ないというくらいデュークは気がおかしくなりそうだった。


 愛おしい人を失う恐れを抱きながら、同じ場面を繰り返す。

 直接手を下していなくても、何度も死に追いやる自分に腹が立ち、情けないという言葉で表すことができないほど自分に失望した。


 心はフェリシアを求め、今度こそ彼女の幸せを願っているのに、求める心が彼女を締め付けてしまいそうだ。

 実際に避けられてしまうほど過度な気持ちを向けてしまっているのだと、触れることの許されなかった手は今でも彷徨(さまよ)う。


 こことは違う。(あれ)は今ではない。

 それはわかっているのに、もし夢のように手の届かないところでフェリシアに何かあったら?

 知らない悪意がフェリシアに向いていたら?


 自分の気持ちのコントロールさえままならないのに、他人の本当の気持ちや思惑などすべてわかるわけがなかった。

 だけど、これだけははっきりしている。


 ――もう二度と失うことなどあってはいけない。フェリシアは俺が守る!


 たとえ、避けられようとも生きているからこそ未来がある。

 避けられるのなら、触れなければいい。

 そうすれば避けられることもなく、見守ることが許される。


 近いのに、ものすごく遠い。

 触れられるのに、触れられない。

 でも、必ずこの命にかけてフェリシアを守るのだ。今度こそ……。


 デュークの中で夢はもうただの夢ではない。戒めとして刻み付けられたリアル。

 視線を下げ触れることを許されなかった手をぐっと握りしめ、ユリシーズと話しているフェリシアをじっと見つめた。



『第二部/第二章 それぞれの思惑』はここまで。

明日からは『第二部/第三章 迫る物語と加速する想い』となります。

引き続き、見守っていただけたら幸いです。

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