14.思惑
「フェリシアが本気で困っていますので、殿方たちはそこまでです」
ジャクリーンの一声に、デュークやユリシーズだけでなく男性陣の動きがぴたりと止まる。静かになったタイミングで、再びジャクリーンが口を開いた。
「好意があるのでしたら、そもそも相手を困らせるようなことはやめるべきですわ」
二人は顔を見合わせ、静かに視線を戻し神妙な顔つきになった。
「それは、……すまない」
「僕もごめんね」
デュークが改めて私を見て謝ると、ユリシーズも私に謝ってくれたので、私は大丈夫だと笑みを浮かべて首を振る。
ここまで渋い顔をしていたジャクリーンは頷くと、ようやく表情を和らげた。
「よろしいですわ。あと、ケーキについてですが、確かにフェリシアは生クリームが好きです。でも、好きだから毎日食べたいわけでもないですし、好きな物を食べたい気持ちと、ほかの物も挑戦したい気持ちは常にあるのですよ。なので、そちらのケーキは半分半分がいいと思います。そして、フェリシアと半分こする相手は私ですから」
文句は受け付けませんわよと、にこっと笑うジャクリーンに、デュークは静かに瞼を伏せ、ユリシーズは苦笑した。
あっという間にまとめたジャクリーンにさすがだと感心していると、そこでふむっと考えるように顎に手をやったクリストファー殿下が、大真面目な顔で自身の皿をジャクリーンのほうへと差し出した。
「半分……。それをしていいなら私としよう」
「話がややこしくなるので、殿下は黙っていてくださいませ」
すかさずジャクリーンが告げると、やけに凛とした声でクリストファー殿下が反論する。
「だが、それこそ彼らのことは彼らの問題だろう? 彼らの攻防は節度を守った上での話であったし、ジャクリーンが出るほどでもないと思うのだが」
「確かにそうですね。でも、私は友人としてフェリシアを助けたかっただけですわ。ケーキと先ほどの話を交ぜられたら困ります。あと、普通にこんなに大勢の注目を浴びるなかで、気持ちを発するのはいろいろ気を遣いますでしょう。だから、ケーキに話を持っていったのかもしれませんが」
ちらりと眼差しをジャクリーンが向けると、ユリシーズがははっと笑った。
「お見通しのようですね。さすがは未来の王妃様だ」
ジャクリーンはぱちりと瞬きし、くすりと笑うと続けた。
「フェリシアが困っていたから口を挟みましたが、ユリシーズ様の言葉もわからなくもありませんでしたし、先ほどのような話は当事者が考えるべきことですから」
ここまで友人に仲裁してもらって、当の私が何も言わないのはと口を開く。
「すみません。私がすぐに対応できなかったからですね。お二人とも、私のことを考えて言ってくださっているのはわかっています。あと、婚約は将来の約束。私はこの先も一緒にデューク様と過ごしたいと思っています」
デュークにも、そして念のためユリシーズにも、自分の言葉で伝えておくべきだろう。
すると、ユリシーズががぁーんと効果音が聞こえるくらい、がくりと大げさに頭を抱えた。
「うわぁ。振られたみたいになった」
「いつものことですけどね」
会話を聞いていたイレイン王女がそこで呆れたようにそう告げると、ユリシーズは顔を上げた。はぁっと溜め込んでいた息を吐き出し、へらりと笑う。
「そう。いつものことだから気にしないで。ただ、僕はフェリスちゃんの味方だから。もし困ったことがあればいつでも相談してね」
「ふふっ。ありがとうございます」
ついでにウインクもされ、その軽さに思わず笑ってしまった。
礼を告げるとデュークは渋い顔をしていたが、何も言わなかった。ただ、私の存在を確かめるようにするりと手に触れ、離れていった。
そこで鈴が転がるような声を発したイレイン王女が、にっこりと子供のように破顔した。
王女と同じクラスになったザカリーが、ちょっと我が儘だけど素直だし憎めない王女様と話していたので、こういう無邪気なところを見ると少し警戒心が緩む。
「今、思いついたのですが、剣術大会的なもので交流会としてできないでしょうか? 我が国では毎年必ず行っており、これまではわたくしは王族の立場で観戦してまいりました。最終は各学年の代表が戦ってかなり盛り上がりますし、ユリシーズはそこの常連です。ウォルフォード様もお強いと聞いておりますので、いい戦いになるのではないでしょうか」
「それはいい案ですね。二人に限らず、己の長所をアピールする場があるのはいい。国も違うので肌と肌でぶつかる的なのは男のロマンを感じますし、男女問わず観戦者も盛り上がると思います」
ジャクリーンが上品な笑みを浮かべると、クリストファー殿下が頷いた。
盛り上がる二人の会話に周囲が賛同し、具体的に話し合いが進んでいく。
最中に再び触れられたデュークの手は、今度はすぐに離れることはなかった。その視線はイレイン王女のほうに向いていて、私も同じよう王女を見る。
にこにこと話していたイレイン王女は、私たちの視線に気づくと悠然と微笑んだ。
「学年別に勝者を決め、最終は全学年の勝者を決める。二人が剣士だからこそ始まった話だが、面白いことになりそうだ。剣術大会をして交流を深めるとしよう」
最後にクリストファー殿下が締めくくり、あっという間に開催されることが決定した。




