表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

エピローグ 新たな願い

修正しました


「今回の彼らの国との留学の話はなくなったが、ヨネバミア国から交流の申し出があった」

「ヨネバミアですか?」


 友好国のヨネバミア国とは貿易が盛んで、国家間に大きな問題は抱えていない。

 そのため交流の話はおかしくないが、なぜ今なのか。


「ああ。そこの王女がこのたびのことを聞きつけて、自分たちも若い世代で交流していきたいと言ったようだ」

「そういうことなのですね。そんなに悪いことではないように思いますが」

「普通ならそうだ。だが、王女はベリンダ・マッケランと交流していたらしい」

「……!? どういった経緯とどのような交流をされていたのでしょうか?」


 ベリンダという名前はもはや鬼門だ。

 そのベリンダと交流をしていた王女が、交流会のことを聞きつけ詳細まではわからなくとも不祥事が起きたことは察せられるのにこのタイミングでの申し出。

 何か裏があるのか、単純に交流に興味があったからなのか。


「パーシヴァル殿下の婚約者がその国の女性なので、もしかしたらそこで繋がったのかもしれないが詳しくはわからない。わからないから心配なんだ。フェリシアを不安にさせたくないがいつか知れることだし、その時になってもしフェリシアが何か抱えてしまうなら今から話しておくほうがいいと思って伝えることにした」

 デュークは難しい顔のままそう話した。


「マッケラン嬢と関係する王女様……」


 気にしすぎなのか、警戒すべきなのか、現時点ではわからないが確かに不安ではある。

 うーんと首を傾げ脳内で何度も言葉を繰り返す。


 ――あれっ? ヨネバミア国の王女様?


 ちかちかと脳内が点滅するような違和感を覚え私は目を見開いた。

 それからものすごい勢いで様々なことが繋がり、はっとする。


 心臓がどくどくと早鐘を打ち、変な興奮状態に見舞われた。

 記憶を思い出してからずっと『死に役』にならないことばかり考えていたし、元凶であるベリンダとコーディーは退場した。


 そこで逃れられたと思ったけれど、もしかしてまだ物語は続いているのではないだろうか。

 むしろ、本番はこれからなのかもしれない。


 なぜなら物語はベリンダと犯人であったコーディーが留学してきてから始まった。

 復讐してからもイベントがあってさらに絆を深めていく恋愛物語。

 もしまだ物語が続いているとしたら、私は死なずにベリンダの代わりにヒーローであるデュークと共にいる。


 つまり、復讐部分はなくなったが、ベリンダ関連で乗り越えて絆を深めたとされていた物語の出来事が私にスライドした可能性も出てきたのではないか。

 記憶は曖昧だけれど、その単語が妙に引っかかるのでヨネバミア王国の王女が関わっている可能性はある。


 そもそも私は全体的に前世の記憶がおぼろげなのに、なぜベリンダは前世と前回の記憶があったのか。コーディーに至っては、物語のことは知らなかったが前回の記憶がある。

 それらの違いに理由があるのかないのか、こうなってくると気にはなる。


 なんでも結び付けようと思えば結びつくし、ただの杞憂なのかもしれない。

 結局は考えてもわからないことで、それは『死に役』だと思い出した時と一緒だったけれどあの時感じた虚しさはない分、何があっても乗り越えられる気がした。


「話していただきありがとうございます。王女様のことは気になりますが、今は気にしても仕方がないことなのだと思います。それに前と違って今はこうしてデューク様が先回りしていろいろ気にかけてくださっているので私は大丈夫です。マッケラン嬢たちのこともありがとうございます。すっとしました」


「少しでもフェリシアの気持ちが軽くなったならよかった。彼らは今後監視下から逃れることはないし二度と関わらせない。ほかに何かあってもフェリシアのことは俺が守る」

「はい」


 こくこくと頷くと、デュークは身体を前に乗り出し私の髪をひと房とり指に絡め、じっと私の瞳を覗き込みながらそっと口づけた。


「片時も離れたくない。俺が二人いればいいのに。でも、そしたらどっちがフェリシアのそばにいるか絶対喧嘩するか」

「非現実的ですね」

「それくらいフェリシアのそばにいたい」


 ものすごく真剣に悩み出すデュークは冗談でもなんでもなく言っているようだ。

 真面目な顔をして何を言っているのか。苦渋の選択を強いられたとぐっと眉間にしわを寄せる姿に呆れる。


 呆れるが、ベリンダたちのことといいあらゆることを気にかけてくれているデュークだ。

 本心であるとともに、事件のことや今後の杞憂を少しでも軽くしようと考えていろいろしてくれているのだろう。この大げさなスキンシップも、私の気を紛らわせるためなのかもしれない。


 ――不器用というか、変に真面目で極端というか。


 ずっとまっすぐに見てくれて、表の出し方は変わっても心根は変わらない。

 その変わらなさがとても愛おしい。


 私以上にあの出来事のことを心配してくれている人がいると知れるだけで、さらに気持ちが救われる。

 じわりと滲む涙を拭われ、顔を上げると視線が絡み合う。


「フェリシア」

「デューク様……」


 唇が目尻に落ちる。

 柔らかな感触にぱちりと瞬きをすると、頬や耳や、顔中に何度も軽く口づけられる。

 羽が触れるような優しい触れ合いにくすぐったくて笑うと、彼の形のいい唇が近づいてきた。


「もう二度と危険な目には遭わさないし離さない」


 唇に触れる寸前に深く沁みわたるような低く甘い声でささやかれ、私はずっと一緒にいられますようにとそっと目を伏せた。


 屋敷に帰るとようやく役目から逃れられたのだと、記憶を思い出して書いたやめることリストの紙を処分した。

 それから、今度はやりたいことリストを書いていく。


 これからはたくさんのことを尻込みせずに経験していきたい。

 ジャクリーンたちとの事業も成功させる。


 できることを増やすなどあれこれと思いつくまま書き、ある程度書き切ったところで手を止めた。

 そして、どう書こうか悩み気持ちのまま記す。


 ……――デュークとずっと一緒に過ごしていきたい。


 最後にそう締めくくり、引き出しにしまった。

 あの日叩いたクッションを今日はぎゅっと抱きしめて、私は穏やかな微睡の中に身を委ねた。



第一部完

ここまでお付き合いありがとうございます!


謎解きがまだあり書きたい意欲がわき上がりましたので、第一部完結という形になります。

皆さまのおかげで今作、異世界恋愛日間・週間1位、月間6位と高順位をいただき、ブクマ、評価、いいね、感想と本当にたくさんの励みをいただきました。誤字報告も助かりました。

なろうさんでもこんなにたくさんの方に読んでいただけるなんて想像もしておらず、ただただ驚きと喜びの日々でした。

本当にありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ


第二部に向けて、『変わったものと変わらないも』以降の三話、少し修正いたしました。

書籍情報、第二部ともう少しお待ちいただけたら幸いです。

2025.9.14追記

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ