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32.まっすぐな想い

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「フェリシアに話しておきたいことがあるのだがいいか?」


 一度口を閉じ口角を上げたデュークが、神妙な顔で告げた。

 さっきまでのゆったりした空気がきゅっと引き締まる。


「なんでしょうか?」


 決意したように口調を改めたデュークに私は背筋を伸ばす。


「思い出したくはないかもしれないがあの二人について伝えておきたいことがある」

「聞かせてください」


 じっと見つめ私の反応を確認しながら切り出される。

 あの二人とは、ベリンダ・マッケランとコーディー・アドコックのことだろう。

 速攻で返事すると、本当は聞かせたくないとばかりにデュークは顔をしかめた。


「デューク様?」

「はあ。フェリシアの耳を汚したくないのだけどな。気にしているだろうし知らないのもフェリシアは嫌じゃないかと思ったから話すが、本当は聞かせたくないことはわかってほしい」

「はい」


 もしかしたら私以上にあの騒動のことを気にしているのではないだろうか。

 話すと決めたから切り出したのに、言葉を重ねるデュークはよほど話すのが嫌なのだろう。


「彼らが贅沢しながら暮らせることがないようマッケラン家とアドコック家の事業に介入し着々と収入源を減らしている最中だ」

「そんなことを?」


 無事生き延びて、何も失うことなく周囲が理解してくれて、ベリンダたちが国から出られないだけでも十分だと思っていた。

 そこで納得するべきだと自分に言い聞かせていた。


 そう。言い聞かせていたのだ。

 どうしようもないしこれ以上何もできないと。何より物語の強制力という未知を考えると関わるのが怖かった。だから、それでいいとした。


「フェリシアを怖がらせておいてあのままあの男の思い通りにさせるには業腹だった。だが、実際手を下したわけでもないし追い込める材料もない。他国のことだから限度は弁えないといけないが、それだけこちらが本気で怒っていると彼らの国にわからせるのにはちょうどいい」


 いつの間にそんなことをしていたのだろうか。

 国にわからせるということは、王家も一枚噛んでいるのだろう。


「コーディー・アドコックに対しての罰はマッケランと離れることだろうが、正直彼女は持て余すようで管理する上で彼は適しているとの判断は変わらなかった。だったら、危機感の薄い一族全体で苦労させるしかない。国から出られない上に資金に余裕がなければ余計なことをする時間もないだろうし、周囲も見限るのも早いだろうと。こんなことしかできなくてすまない」


 そっか。そうなのか。


 どんな状況でもコーディーはベリンダさえいればよさそうだけれど、二度と顔を見ることなく悠々自適に過ごしているのではないとわかるだけ少し溜飲が下がる。

 自分でも割り切っているつもりでいたけれど、私でも気づかなかった憂いをデュークは拾ってくれ動いてくれていたようだ。


「デューク様。ありがとうございます」


 大事な部分を柔らかく包み込んでくれる行動に、ぶわぁっと気持ちが膨れ上がった。

 デュークを好きになってよかった。物語通りにならずに済んで本当によかった。


 なんだか泣きそうだ。

 私はデュークの手に自分の手を重ねた。


 デュークが口角を上げたが、まだその目は真剣で話は終わっていないのだと気づく。

 デュークがこのタイミング、ジンクスの話をした後に話すということはきっと意味がある。

 甘さに誤魔化されたけれどこの個室も恋人との時間のためだけではないのだろう。


 私はふぅっと大きく呼吸をした。

 たくさん配慮され愛情を向けられている今なら何でも受け止められそうだと、笑みを浮かべデュークと視線を合わせた。


「デューク様。どんなことでも話してほしいです」


 まっすぐに向かってくるデュークの想いがすとんと胸に響き、心が凪いでいる。

 些細なことなのか重大なことなのかはわからないけれど、デュークが気にしているという時点でできれば共有しておきたい。

 そんな思いが気持ちを強くする。


「なんでまだ話があるとわかった?」

「ずっとデューク様を見てきましたから」

「そうか。そっか……。俺もフェリシアをずっと見ている」

「はい」


 真面目に言葉にしてくれるが、デュークに対してそういった不安はもうない。

 その気持ちが伝わったのだろう、デュークは頷くと話を切り出した。



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