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31.変ったものと変わらないもの

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 薄雲が広がり空は白っぽく見え、その柔らかな色合いにほっと一息をつく午後。

 私はウォルフォード公爵邸に来ていた。


 まず交流会での騒動が落ち着いて思ったのは、周囲の色が増え、雑音が聞こえるようになったことだ。

 今までの私は守られた世界にいてあまりに視野が狭かったから、様々な音を聞くことは必要なことだと今ではわかる。


 そこに良い音も悪い音もあるけれど、雑音すべてが悪いわけではないと今ではわかる。それを聞いたうえでどう感じてどう処理するか。

 色や音はそれぞれが生きているからこそ作られるもの。それらをデュークとともに感じ取ることができている。


 諦めよう、やめようと思ってからの今に、私の心はこれまでにないくらい余裕があった。

 デュークと話していても、肩の力が抜けて自然体でいられる。

 今まで無理をしていたわけではないけれど、焦りが消え憧れだけでなく地に足をつけてデュークと向き合えているのがわかり、未来()が楽しみになった。


 目の前には私の好きなお菓子が並べられている。

 私が口に入れるたびに反応を観察してくるデュークに、私はもう忘れてもいいんじゃないかと話しかけた。


「もう大丈夫ですよ」


 デュークは私が前世の物語を思い出して様子がおかしかったことに対して、すぐに動かなかったことを後悔していた。

 そのため、今日は特に私の様子を気にしてしまうのだろう。


「だが、フェリシアは抱え込むこともある。離れている間にまたと思うと……」

「これからは相談します」


 伝えることの大事さを知った。

 もし今後悩むことがあったとしても一人で抱え込まず、相談してよりよい結果になるように動きたい。どんな突拍子のないことでもデュークならわかってくれると思える。

 好きと信頼が混ざり合いより強固な気持ちでデュークを見ると、デュークは難しい顔をして眉根を寄せた。


「…………」

「デューク様こそ思うことがあれば口に出してください」


 一度感情を表に出してから、私のことに関しては躊躇なく赤裸々に気持ちを語るようになったデュークだが今はとても口が重いようだ。

 促してみると、小さく息をつきようやく口を開いた。


「……俺は、フェリシアと別れたくない。フェリシアが生き生きとして楽しそうなのはとても嬉しいのに、知らない間に何かあったらとたまにものすごく不安になる」


 私が婚約破棄まで考えていたのを含めこれまでのことを後悔していると言っていたので、なぜか急に不安が押し寄せたようだ。

 本来なら伝えないつもりだったのだろうけれど、私だってデュークが不安ならそれを取り除きたいのでデュークこそそういう時は隠さず話してほしい。


「私もデューク様が心配なのです。もう別れるなんて言わないので、そろそろ通常通りのデューク様に戻っていただけませんか? この前のことは特殊でしたし、それはたまたま私に降りかかっただけで、いつ誰がなんてそんなの誰にもわからないことですから」


 確かに、すべての憂いがなくなったとは言えない。

 けれど、わからない不安のために乗り越えて得たものを、今を、それらで台無しにしたくない。


 今まで自分の好きの気持ちを互いに成長しながらも向き合える関係になれれば、これからの困難も乗り越えていけるはずだ。

 それには、互いに信じ合うのも大事だ。それを今回のことで学んだ。


「そうだな。少しずつこれまで以上に大切に過ごしていこう」


 これまで会っていただけだったけれど、互いに向き合えている今はまた違うはずだ。何より、好きな人といる時間はそういう目的がなくてもやはり嬉しくて私は笑みを浮かべた。


「はい。いつも私の好きなものをそろえていただきありがとうございます」


 思いは伝わっていると私は言葉を口にした。

 私たちに欠けていたのは会話なので、なるべく気持ちを私も伝えるようにしいていた。


「フェリシアが喜んでくれるだけで嬉しい」


 目を細めてじっと見つめられる。

 相変わらず口数は少ないし、私をじっと見て目元を緩めるところは変わらない。そこに双眸に熱がこもり、届けられる言葉も加わればデュークの気持ちを疑うことはない。


 こちらを凝視しているデュークの目の下がほんのりと赤く、態度から空気からまっすぐに届く気持ちに、私は表情を和らげた。

 それからデュークとも仲のいい次兄カーティスが数日後に帰ってくる話や、デュークの弟が子供の頃に池にはまりそうになって焦った話から来年には学園に通い出すことと話に花を咲かせた。


 のどかな風が吹き、その気持ちよさに目を瞑る。

 会話も静けさもデュークとともに感じることができているだけで、私の心は満たされた。目を開けると、青い空に白く雲がゆっくりと流れていく。



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