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21.断ち切るために


 話の内容に反して、パーティーは生徒たちの笑い声とともに和やかに過ぎていく。


「大丈夫?」

「はい。デューク様は裏で動いてくださっていたのですね」

「隣国のことをフェリシアが気にしているようだが誤魔化されていたし、心配だったから彼のことも含め調べさせてもらった。なぜフェリシアが気にしていたのかまではわからなかったが、憂いがあるのなら取り除くように動くのは当然だ」


 私の動きも把握されているようだ。

 思慮深く力強い声は、どこまでも包み込み外敵から守ってくれるような絶対的な安心感をもたらす。


 それらに包まれるような感覚。

 胸の一番奥にずっと居座っていた息苦しく重たい感情がずいぶん軽くなり、今なら怯まず戦えると思えた。


「ありがとうございます」


 ベリンダの行動はデュークを狙ってのことだと思うけれど、私を排除してデュークをと考えているにしては今のデュークがこの先ベリンダに靡くとは思えない。

 物語のデュークと違うのだと、今のデュークなら絶対的な信頼を寄せることができる。


「彼と話をした際、少なからず言葉は届き事情も理解したつもりでいたが、本当のところどう考えているかはさっきの話を聞くまではわからなかった」

「そうなんですか?」

「ああ。だが、これでマッケランの異常性は明らかになった。フェリシア。なぜ、マッケランとその周辺を気にしているのか言いにくいなら言わなくてもいい。だけど、このままではフェリシアがつらいだけだ。今日は特に彼女とその周囲を警戒していただろう? どうすればすべての憂いを晴らせる? 俺にその憂いを晴らさせて」


 真摯な言葉が胸を打つ。

 前世が、物語がと言っても、私自身の記憶が曖昧でもともと信じてもらいにくい内容だ。だけど、理由を言わなくても不安な気持ちを受け止めてくれるとデュークが言ってくれている。

 心に寄り添うような言葉に私は口を開いた。


「このパーティーで、もしくは隣国の方々がいる滞在中に私は命に関わる危険性を感じていて、できるならば私は彼女と金輪際関わりたくないです」

「なら、早めに国に帰るよう仕向け、彼女がこの国に二度と足を踏み入れられないようにしよう」

「どうやってですか?」

「それには決定的な証拠を掴む必要がある」


 証拠。それは私に害意があると周囲に知らしめる必要があるということだ。


「でしたら、私が動くのがいいですね?」


 そう告げると、デュークが目を見開き首を振った。


「危険な目には遭わせたくない」


 デュークは私の憂いを払うため、その原因は何かと考えて知らないところでいろいろ動いてくれていた。

 だけど、今もなおそれが掴めていないから、デュークは私を守るのに徹している。私が話さなくても不安を感じ取って払おうとしくれていた。


 それだけ動いてもらったのだから、今度は自分で動く番だろう。

 私は一人ではない。頼れるデュークがいるのなら、危険だとしても立ち向かいたい。

 ベリンダのために窮屈な思いをしなければならないのはものすごく嫌だし、少しでも早く憂いを取り除きデュークと向き合いたかった。


「でも、私もこのまま相手が仕掛けてくるのを待つだけは嫌です」

「だが……」


 ここ最近お守りとして持ち歩いている武器にもなるアクセサリーを隠すように縫い付けていた太ももあたりのドレスを掴むと、私は首を振った。


「先ほどの話を聞いたでしょう? どうしてかまではわかりませんが、絶対、彼女か彼女の周囲が私に何か仕掛けようとしてくるはずです。そして、その兆候をデューク様は掴んでいるから先ほどの言葉なのでしょう? それを確実にするために私に手伝わせてください」

「俺はフェリシアを傷つけたくないんだ」


 悔しそうに唇を噛み締める姿に、その計画に私を組み込むほうが確実なのだとますます確信を得る。


「お願いします。もうこれ以上彼女に振り回されるのも、デューク様が彼女と話すのも嫌です」


 我が儘な気持ちをぶつける。

 心配してくれているのは伝わっているけれど、物語を知っている以上やはり二人が並ぶ姿は嫌なのだ。


 守りたいと言ってくれているのに、自ら危険に飛び込もうとしている。

 けれど、そう言ってくれるデュークがいるから、彼が絶対守ってくれると思える今なら何があっても諦めず戦える。


「このまま当たり障りなく遠ざけてやり過ごすという手もある」

「デューク様が我が儘になってもいいって、何でも受け止めてくれると言ってくれました。でしたら、私の気持ちを受け止めた上で守ってください」


 心配してくれている人に、ずいぶん勝手だと思う。

 でも、もう自分の気持ちに正直になって好きにするのだ。『死に役』も『盛り上げ役』にもならない。


 そして、デュークとの未来も今までよりももっと前向きに考えていきたい。

 それにはベリンダは本当に異物で、何よりも生死を脅かす存在は怖い。すぐにでも永遠に関わらないようにしたい。


「わかった。やるなら徹底する。二度とこの地を踏ませない。だが、相手がどう出るかわからない以上、少しも危険はないとは言い切れない。それでも?」

「はい。デューク様が守ってくださるでしょう?」

「……っ、くそっ。絶対守るが、本当は嫌なんだ」


 そう言ってくれるから、私も大胆になれる。


「はい。中途半端なことをしてさらにパワーアップして目の前に現れる可能性を考えると、ここでしっかり対処しておきたいです」

「……っ、ふぅ。わかった」

「デューク様を信じます」


 何が絡んで仕掛けてくるのかわからない怖さにずっと怯えるのは理不尽だ。

 なぜ、私の人生なのに他人に干渉され動きを鈍くされ、窮屈な思いをしなければならないのか。


 今日に何かを起こすつもりなら、勝負をかけてすっきりしてしまいたい。

 何も起こらなくてもまた一か月以上顔を見て怯えながら過ごすのも、そしてまた留学してくる可能性を考えるのも嫌だ。


 だったら、大事に思ってくれていると大勢の前で宣言し、動いてくれていた今のデュークを信じて動きたい。

 未来があると信じたい。

 前世を、物語を断ち切るために進むのだと怖さを押し殺し、明るい未来のために行動するのだとデュークの話を聞いた。




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― 新着の感想 ―
お客さんが女性であるなら、その世話係や護衛は女性が順当ですし、男性を付けるとしても、最低限、妻帯者や婚約者持ちは弾かれると思うのです。 ベリンダ側が、「女性は嫌」「デュークが良い」と誘導したなど、無い…
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