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11.もどかしい sideデューク 後編


「……確かに。彼女のことは心配だがデュークばかりに頼りすぎたかもな。すまない」

「いや。今回のことは心理的なものもあるし仕方がないと思っている。だけど、さっきも言ったが一か月は配慮した。これからも配慮しないとは言わないがもう俺でなくてもいいはずだ」


 大分落ち着いたように見えるし、やたらと隣に来たがり話しかけられ、ベリンダからは依存とともに好意が日に日に増しているように感じていた。

 それがどういった種類のものかまでははっきりと判断はつかないが、だからこそもしを考えると早めに線引きをしておきたい。

 頻繁にフェリシアのところに行くのを阻まれている現状に、気を使わないといけない相手につらく当たってしまいそうだ。


 ベリンダの行動が杞憂ならそれでいいし、彼女のことで周囲が誤解しフェリシアとの関係がさらに拗れるのだけは絶対に避けたい。

 エスコートなんてもってのほかだ。これ以上、フェリシアに嫌な思いや悲しい思いなんてさせない。何より、フェリシアにそう思われたくない。


 事故の配慮とでしばらく悩んでいたけれど、これを機会にはっきりさせるべきだろう。

 もう何が大事か絶対に見失わない。


 デュークはフェリシアとの未来しか考えられない。

 その彼女との関わりが現在微妙であるため、関係修復のためには自らが動かなければ何も改善しない。それには身動きできることが第一だ。


「そうだな。ここの生活にも慣れてきたようだし。わかった。何かあれば俺も擁護する」

「助かる」


 それから話が進み、交流の時間は終わった。

 おもてなしをといってもつきっきりではない。一か月経ち、ようやくこの国の生活様式や学園にも慣れたようだし、パーシヴァル殿下自ら連れてきた護衛もいるから、彼を守るのは基本彼らの仕事だ。


 部屋を出るとすぐにデュークは周囲に視線を走らせて、近くにフェリシアがいないか確認する。

 ここ最近、移動するたびにフェリシアを探すのが癖になった。

 今までならフェリシアのほうから会いに来てくれていたから、どこかのタイミングで会えるだろうと探すことなどしたことがなかった。


 自分の下手さに気づくたびに胃が重く、フェリシアを想うと胸が締め付けられる。

 デュークは視線を下げふぅっと息とついた。


 それから再び視線を上げると、フェリシアの姿を見つける。

 美しい金の髪に小作りな顔。そしてデュークが好きなエメラルドの瞳。

 フェリシアを見つけてぱぁっと気持ちが温かくなる。少しでも早く、少しでも長く、彼女と話したい。


「フェリ……」

「デューク様、ここにいたのですか!?」


 話しかけようとすると、どこからかここにいることを聞きつけたのかベリンダがやってきた。

 ベリンダに一瞬気を取られている間にフェリシアがいなくなる。


 ――フェリシアと話したいのに……


 ベリンダが悪いわけではない。何度もそう言い聞かせてきた。

 だけど、何度も続くタイミングは苛立ちを誘い、どうしても焦る思いにそろそろ自分ではなくてもいいだろうと気持ちが強くなる。


 少しでも自衛のために誤解を受けるような距離は困ると、デュークはそれとなく後ろに一歩下がった。

 いろいろ扱いが繊細な相手なので、下がったことを気づかれないように少しだけ頭を下げて話を聞く体勢をとる。


「話し合いがあったので。それよりもどうされました?」

「デューク様とお話したくて」


 自分と話、か。


 ――これは、やっぱりはっきりさせておくほうがいいか。


 憶測だが、パーシヴァル殿下が婚約者の話やエスコートの話をしたのは、彼女のこの熱心さがあるからだろう。

 それもあって、さすがにこのままではよくないとデュークは内唇を噛み締めた。


 依存されつつあり徐々に彼女の瞳の中に宿る熱に、欲しいのはこれじゃないと本能が拒否する。

 ベリンダ・マッケランが怖い思いをしたのは本当であるし、それで身体が反応するのは彼女が望んだことではない。非があるわけではないし、感謝とともに好意的に思ってもらえるのは悪いことではない。

 けれど、デュークが欲しいのは、フェリシアのあの自分だけを映す思いやりがあって好きだと優しく浸透してくるような熱い視線なのだ。


 当たり前にありすぎて当然のように思っていて、もらえなくなって初めてかけがえのないものだと気づくなんて自分はバカだった。

 気づいた今はそれしか欲しくなくて。

 大切なものが、自分が大事にしたいものが決まっているデュークに迷いはない。


「マッケラン嬢。私を探してくださるのは光栄ですが、移動や手が離せない時間も多いですし、せっかくなのでこの学園をご友人たちと満喫してください」

「でも、デューク様と話したくて」


 透き通った青の瞳がじっと見つめてくる。

 やはり、欲しいのはこれじゃないと心が訴える。

 デュークは小さく息をつき、相手は傷ついた女性なのだと、あまり冷たく響かないようにゆっくりと口を開いた。


「以前も言いましたが、私はたまたま安全に助けられる位置にいただけです。私がいなくても護衛やご友人たちがあなたを守っていたでしょう。ですので、もう少し彼らを頼ってもよいのではないでしょうか?」


 その依存からの熱が引き返すことが出来なくなる前に。

 これも以前のデュークなら気づかなかったことだ。

 フェリシアの瞳から以前のような熱が感じられなくなって、自分の熱に気づき、初めて他人のこもる熱に気づけるようになった。


「ですが、デューク様といると心が安らぎ落ち着くのです」

「少なからず力になれているなら幸いですが、ずっとは現実的ではないのでそろそろ周囲に目を向けてみてはどうでしょうか? それに私事で申し訳ないのですが、私には大事にしたい女性がおりますのでこれ以上は婚約者や周囲に誤解を招くことになりかねず、そうなるのはどうしても避けたいのです」


 一か月はパーシヴァル殿下たちのもてなしもあり、事故後ということで自然と一緒の空間にいることも多かった。

 だが、そろそろ個々で楽しむ時間も増やしていってもらう段階なので、今までのように行動を共にしなくてもよくなってきた。

 そんな中でこのように来られるのは本気で困る。


 思いを向けられても応えられないとはっきりしているのなら、自分のスタンスは伝えておくべきだろう。

 何より、もうこれ以上フェリシアと会えないのは自分でもどうなるかわからないくらい、胸も感情もぎゅうっと締まって限界だ。


「婚約者が……。私、知らなくて」

「そうでしたか。実に情けないことに彼女との時間が上手く取れていないので、誤解を招かないためにも彼女との時間を作りたいと思っています」


 本当に知らなかったのかどうかはもうどうでもいい。

 ベリンダのそばにはコーディー・アドコックという男の友人がいる。

 彼はいつも彼女と寄り添うようにそばにいて、事故当日も守ろうと動いていた。彼女はそれに気づいていない。

 彼女のことを思っている者がそんなに近くにいるのなら、むしろ自分よりは長い付き合いの彼に目を向けるべきではないだろうか。


「あっ、すみません。私が」

「いえ。マッケラン嬢の怖い気持ちを少しでも和らげられているのならよかったです。ただ、個人的にはこれ以上寄り添えない。それに、あなたの周囲にはあなたを守ろうした人たちがいます。なので、そろそろ彼らとともに日常に目を向けていくのはどうかと。何より、この国での生活を少しでも楽しんでほしいので」


 追い込みたいわけではないが、この手で守りたいものは決まっている。彼女のこれからの責任は取れない。

 だから、いつもは配慮して和らげるように向けた笑みをデュークは浮かべなかった。


「……本当にすみません。私、怖くて」

「あんな速度の馬車が突っ込んできたのですから怖いですよね。感じている怖さを他人が推し量ることはできませんが、あなたの周囲にはあなたのことを大切に思っている方が多くいる。この国の者として、少しずつでも楽しんでいただけることを願います」


 もっと優しい言葉をかけるべきなのだろうけれど、ストレートにしか話せない。

 何より、婚約者がいて関係を大事にしたいと思っていることを自分から伝えておきたかった。


 牽制しすぎてしまっているのか、言い過ぎてしまったのか、もっと上手い言葉があったのか、やはり女性を相手に言葉を発するのは難しい。

 それでも自分が何を優先したいかははっきりしていて、ここで伝えないという選択はなかった。


 ベリンダは涙を溜めながら、「その、ごめんなさい」と声を震わせ走り去っていった。

 アドコックがこちらを睨んだが、睨むくらいならお前が彼女をサポートしろよとじっと見つめ返した。


 彼はふんと鼻で息をすると、彼女の後を追っていく。

 慣れないことをしてふぅっと息をついていると、テレンスが声を上げた。


「驚いた。……あと、抱えさせて悪かった」

「……いや、なんか、抱えるというか、自分でもどう処理していいのかわからなかったというか。そう言われて、俺も周囲に相談したらよかったと思った」


 か弱い女性を突き放すような行動、しかも隣国の王子に気にかけてくれと言われた女性に対して、この国で起きた事故ということもあって状況的に仕方がないと思っていた。

 今回のことは不満もこうしたいも口にすることは私情のようで、側近という立場で断るのはどう考えても悪手で、個人的にタイミングの問題があり気にかかる行動だったけれど、全体的に問題行動があるわけでもないのにどう伝えていいのかわからなかった。


「怖い思いをした女性に対しての言葉は難しくてあれでよいかはわからないが、俺は彼女とこれ以上深く関わるのは無理だ。それとフェリシアのそばにいたい」

「おぉ……。そっか。ああ、なんか悪かった。何でも協力する」

「何でも? だったら……」


 頼みたいことを告げたら、無茶ぶりすぎると怒られたがどうしても必要なのだと通した。

 まだ何も解決していないけれど肩の力が抜けると同時に、ぐつぐつと胸が煮えて駆けていきたい衝動に支配される。


 中途半端なままでは、処理できていない事情が足を引っ張りそうで行動に移せなかった。何より全力でフェリシアに向き合うべきだと、そうしないともう捕まえられなくなりそうで。

 でも、そんなことを考える前に、もっと行動していればよかった。そこから今みたいに打開策が出ていた可能性だってあったのだ。


 またベリンダが倒れるようになってパーシヴァル殿下が何か言ってきても、これ以上協力はできないとことの顛末とともにクリストファー殿下にも宣言し、ついでにあれこれ要望も伝えた。

 急に図々しくなったと言われたけれど、周囲は協力してくれることになった。それだけでずいぶん動きやすくなったデュークは、できた時間で早速行動を開始した。




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― 新着の感想 ―
おそい!! まあ、取り返しがつかないレベルではないな
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