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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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売買内容の決定

小屋に戻ると牧場主の奥さんが再びお茶を出してくれた。

そんなに時間は経っていないが、立ちっぱなし、歩きっぱなしになったので座ると皆に少し疲労の色が見えた。

見学だけでこれなのだから、さらにヒツジの出し入れやら、掃除やら、そういった仕事をするとなると、相応の体力が必要となりそうだ。

一番疲れを見せたのはセルビアの母親で、話をしなかったのはついていくのが精一杯だったかららしい。

座ってお茶をもらうとようやく一息つけたと思わずこぼしていた。


「この家の中もご覧になりますか?まだ私たちが住んでいるものだから、物がたくさんありますけど……」


牧場主の奥さんがこのまま買い取るならここに住むことになるだろうし、ここだけ見ても家のことはわからないだろうし、買い取った後に不備が見つかって、聞いていないと言われても困る。

だから汚いところもあるけれど、すべて見せますと申し出たのだが、セルビアの複雑な表情を見て母親が代わりに答えた。


「そうできればありがたいですが、生活空間を覗くのはあまり気乗りしませんので、生活に必要な水回りとか、あれば客室のようなところだけを見せてもらえれば充分です。即決する話ではないと聞いていますから、本決まりの前に確認しても遅くはないでしょう」


とりあえず見せられる場所と生活に必要な場所を確認できればあとはどうにでもなる。

一番大事なのは台所や洗面所、風呂などの水回りで、ただの部屋に関しては物を退ければ一面が壁と窓だろうし、それらが壊れていたら直してから譲ってもらうか、修理代をもらうか交渉すればいいだけだ。

すぐに家具を持ち込むわけではないし、サイズを測る必要もない。

まだ購入すらしていないので、この辺りは部屋に合わせて選べばいい。

そもそも同じ家の中にある部屋なんて一つ見せてもらえば似たようなものだろう。

母親がそう判断して言うと、奥さんは立ち上がってうなずいた。


「そう言ってもらえるとこちらとしても助かります。じゃあ、キッチンと、二階の私室以外の、今は使っていない子供たちの部屋だったところをご案内しましょう。ベッドぐらいしかありませんので、客室としても使えますが、来客などめったにないので、子供たちが里帰りした時に利用してるだけになっているところです。他に気になるところがあれば適宜お答えします。それでいかがでしょう」


そもそも家の構造がわからないのだから、どこを見せてほしいとも言えないだろう。

だから案内しながら、気になるところを見つけたら適宜質問してもらい、それで補完していけばいいのではと提案される。

もちろん、その提案を受けるかどうかはセルビアの判断になる。


「どうするセルビア」


父親に言われてセルビアが無言になると、母親が言った。


「セルビア、見せていただきなさい。これから生活するかもしれないところだもの。不便なことがないか見ておいた方がいいわ。自分が使うことを考えて、ね」

「うん……」


ここに黙って座っていても仕方がない。

セルビアが小さく返事をして立ち上がると、なぜか母親も立ち上がる。

セルビアが母親の方を見ると同時に、母親は奥さんに尋ねた。


「私もご一緒していいかしら?」

「そうですね。水回りのことは普段使っている人の方が分かるでしょう」


セルビアも家事ができないわけではないが、家では母親の手伝い程度しかしていなかったし、テントではほとんどの食事をマダムが作ってくれていたので台所に入る機会は確かに少なかった。

それにサーカスの生活では風呂も基本的には宿のものを借りて利用することが多かったので、自分が見ても不備には気付きにくいかもしれない。

母親がいれば心強いし、自分とは違う目線でしっかりと確認してくれるだろう。


「じゃあセルビア、一緒に見せてもらいましょう」

「うん」


セルビアがとりあえず同意すると、奥さんはこちらですと言って先に歩き出す。

その後に母親が、最後にセルビアと、移動することを感知して横にそれとなくくっついたグレイたちが続くこととなった。



結果、夫婦の夫がそこに残り、妻が二人を案内することになった。

女性たちが出て行くと、父親は二人に任せて問題ないだろうと座ったまま、団長と羊飼いも自分がついて行ったらかえって話しにくいだろうとそのままだ。

もちろん、グレイはハリィとラビィを乗せてセルビアの横にくっついていったのでここにはいない。

ならば住まいのことは女性に任せ、自分たちはできる話を詰めておこうと、それぞれの条件などをすり合わせることとなった。



「こういうのはどうだ。ここで譲るはずだったヒツジはこのまま、その代わりあの家に残された動物を買い取ってそれをセルビアちゃんにあげる。財布は痛むが元々渡す予定だった自分が手塩に育てたヒツジは手元に残せる。新しいのを育て直すよりいいだろう。それにセルビアちゃんだってあそこに残ったヒツジに加えてここから引き取ったら面倒を見るのも大変だ。何よりここに残されているのは手放す予定の動物だから、値段は安くしてもらえるだろう。どうだ?それなら引き渡しのことを考えなくて済むだろうし、ここのヒツジの処分に手をかけなくてもよくなる」


羊飼いが団長にそう話を切り出すと、団長は少し考えてからうなずいた。


「その提案は悪くないな。セルビアちゃんの腕次第では損しなくてすみそうだ」


彼らも言えば動物をすべて譲ってくれそうな感じだ。

セルビアには動物を手懐ける才能があるので、ここにいるすべての動物を受け取っても扱いきれるだろう。

それならば羊飼いの言う通り、すべての動物を羊飼いが購入しセルビアに贈る形の方が楽なのも間違いない。

セルビアの立場で損はないと団長が言い、セルビアの父親に確認すると、それで問題ないという。


「動物の価格交渉はそっちでやってくれ。ああ、だけどご主人にはセルビアちゃんたちに色々指導してもらわないといけないが……」


動物の扱いには長けていても牧場経営の経験はない。

サーカスにいる動物とは種類も違うし、規模も違う。

なので売り買い以前に、セルビアは世話の仕方を覚える必要がある。

本当なら羊飼いにさせたいところだが、あいにく彼は遠方住まいだし、ここに残って指導というわけにはいかない。

自分のところのヒツジたちの世話があるから、用事を済ませて早く帰らないと焦っているくらいだし、さすがにそこまでは頼めない。

そして彼より適任なのが、目の前にいる牧場主だ。

ただ、売買の相手である彼らにそこまで面倒を見る義務はない。

だからこれはお願いになる。

団長が羊飼いの代わりに切り出すと、牧場主は嫌な顔一つせずうなずいた。


「ああ、それはそのつもりだったさ。せっかく渡した動物を粗末に扱われたら悲しいことこの上ない。新しく人が来るにしても、彼らにそれは関係ないからな」


ここを離れるのは自分たちの都合で動物たちのせいではない。

これでも長年一緒に生活してきた動物たちだから家族同然に愛情もある。

買い手が面倒見切れず売られてしまうことも覚悟していたが、新しい買い手が面倒を見てくれるつもりでいるなら、仕事を教えるつもりでいた。

むしろ動物たちを残してくれるなら願ったり叶ったりだと笑う。


「それを聞いて安心しました。じゃあ、話が決まったら動物の支払いは私が、家と土地の支払いはそちらということでよいですかね」


羊飼いが確認すると牧場主とセルビアの父親はうなずいた。


「そう言えば、動物を厳選するというのは、どうなるのでしょう?」


これだけいるとセルビアだけで面倒を見きれるかどうかわからない。

難しい場合は、面倒みられる動物だけを残すという話になったが、それはどうするのかとセルビアの父親が尋ねると、羊飼いが答えた。


「それは研修の後にでも決めればいいだろう。選に漏れた動物に関しては売るなり食うなり自由にすればいい。そのあたりの伝手も、牧場主に相談すればいい。研修中にその見極めができるだろうから、一旦すべて残しておくんじゃないかと思ったのだが……」


それは今決めなくてもいい話ではないかと羊飼いが言うと、牧場主もそれに同意する。


「そうですね。卸先など、私たちが隠居するなら、引継ぎの中にそういった伝手を教えるというもいれておく必要がありますし、お嬢さんがどのくらいできるかによって決めればいいでしょう。増やせるなら増やしてもいいんですからね」


二人の中ではその前提で話が進んでいたし、団長も理解していたが、動物を扱う経験のない職の人間が、その意味を会話から察するのは難しかったらしい。

確認された三人が丁寧に父親に説明すると、納得した父親が頭を下げた。


「それは、ぜひお願いします」


牧場主はそのあたりもすべて引き継いでくれるらしい。

いちから買い取ったのだから経営しろと言われても途方に暮れるばかりだが、ここまでケアをしてくれるのなら破格だ。

大人との交渉があるのなら自分が立ち合わなければ、相手にされない可能性もあるから、そこには同席させてほしいと父親が申し出ると、それならなお安心だと牧場主は快くそれを受け入れた。

こうして本人不在の状態で、売買の内容は確定し、あとは本人の決断を待つばかりという状況になるのだった。

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