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なぜか、ふわふわもふもふが、みんな私に使役する  作者: まくのゆうき


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敷地見学

牧場主を先頭に歩き出した一団だが、柵を越えなければこちらの敷地内だから自由にどうぞと言われたものの、無難に彼の後ろに続いて道なき草の上を歩いていくことになった。

柵に囲まれた広い牧草地と、策の外には草の生えていない土の見えている土地、そして、転々といくつか小さな小屋のようなものが見える。

点在しているどれかは倉庫でどれかは動物の小屋だろうが、さすがに一番大きいものは説明されなくても羊小屋だとわかる。

そして土地がとても広い。

見渡しの良いところに立って一周回って見える平地は、およそ同一の持ち主のものだというのだから驚きだ。



「動物達にはいいかもしれないけど、私には広すぎる気がするよ」


歩きながらセルビアがぼやくと、ハリィとラビィを乗せたまま走り回っていたグレイがちょうど戻ってきてセルビアを見上げて鳴く。


「くぅーん?」


セルビアがグレイの鳴き声に足を止めると、羊飼いがセルビアの疑問に答えた。


「いや、牧場としては標準的な広さだぞ?」


確かに彼の牧場も、住居用テントを張っても広い草原が見えたし、ヒツジたちも柵の中を歩いていたけど、それでも広いと思ったのだ。

実際テントからは、草原の奥にある森と、彼の住んでいる家と、羊小屋くらいしか見ていない。

でも考えたらここから遠くに見えるような境界の柵も見ていないから、セルビアが敷地のすべてと認識していたところは、ほんの一部に過ぎなかったのかもしれない。

彼のことはともかく、セルビアがこの広い土地の所有者になるというのは少々気が引ける。


「そうなんですか?」


セルビアがおずおずとそう言うと、羊飼いは当然のようにうなずいた。


「ああ。さっき自分で言った通りだ。動物達にはいい。逆に、このくらいの広さがないと動物がまいっちまうし、そもそも飼うのがヒツジなら、数にもよるが、まあ、あの柵の中に生えてる草くらいじゃすぐに餌不足だな」


柵の中にいたヒツジはのどかに食事をしているように見えたが、それは草が生えているからだ。

長い時間、ずっと同じところで草を食べていたら、すぐに食べつくしてしまうだろう。


「確かに、毎日食べるんだし、草はすぐに育たないですもんね」

「そういうこった」


この広い草原の青々とした草も彼らのご飯になるのだなと、まだ遠くに見えるヒツジたちを見ながらセルビアは彼らについて再び歩き出した。



案内されるまま草原を歩いていくと、徐々にもこもことした白い塊が見えてくる。

さっきまで遠くに見えていたヒツジの柵に近づいたからだ。

そんなに数は多くないが、白い塊は柵の中でのんびり草を食んでいて、こちらが近付いても気にする様子はない。

グレイも一緒についてきているが、まだ距離があるから問題ないということだろう。


「あそこにいるのはうちのヒツジたちです」


柵の内側にいるからそうだろうと思ったが、やはり彼らのヒツジだったらしい。

穏やかなのは持ち主の老夫婦に似たからだろう。


「あのヒツジたちも販売対象ですよね?」


羊飼いがそう尋ねると老人の方が答えた。


「そうです」

「だそうだ。必要ならそのまま飼うことになるが、必要なければ別のところに売ることになるが、どうする?」


羊飼いがセルビアにヒツジが必要かと尋ねるが、セルビアに聞かれてもどうしていいかわからない。

そのため当のセルビアは団長と両親を見上げて困惑している。

それを見た団長が大きくため息をついて羊飼いに一言申してから、セルビアの方を向いた。


「いきなり聞かれても困るだろう。いいかいセルビアちゃん、もしここを購入するとなると、この広大な土地を管理することになる。当然お金はどこかで稼ぐ必要が出てくるだろう。ヒツジを飼っていれば羊毛を刈り取って売ることもできるし、困った時にヒツジそのものを売りに出すこともできる。ただし、わかっていると思うがヒツジは動物だ。面倒を見る必要がある。もちろん、ヒツジではない別の動物を飼う場合も同じだ。だからセルビアちゃんがここで暮らしながら面倒を見られる動物だけを引き取るようにしたい。その中にこのヒツジたちは必要かと、そういう話をしているんだよ」


団長がセルビアに説明する内容を聞いた父親が、小さく手を上げる。


「あの、私からもよろしいでしょうか?」

「何でしょう?」


父親の発言を許可したのは持ち主の老人だった。

団長がセルビアと話しているので代わりに聞いてくれるらしい。

牧場の所有者である彼なら自分の質問に答えるのは簡単なはずだ。

そう考えた父親は彼に疑問を投げかけた。


「先ほどの感じですとこの牧場にはヒツジ以外にも動物がいるように聞こえました。それらすべての中から、セルビアが手に負える分だけ動物を引き取ることになるのなら、先にその動物全てを提示していただきたいのです。その上で動物をどうするかという話は相談できればと思うのですが……」


最初に聞いた話では牧場ではなく畑にしてもいいという話だった。

その割合を決めるにしても、一旦すべてを把握して決めたい。

父親がそう言うと、紹介者の羊飼いが申し訳なさげにしながら父親に声をかけた。


「そりゃあ、お嬢さんの父親の言う通りだな。すまん、目についたもんを一つずつ片付けようと思って焦ってしまった。そういや、あそこの小屋にも何かいるのか?」


羊飼いが一つの小屋を指してそう言うと、老人はうなずいた。


「あそこは鶏小屋でしたが、すでにほとんどを手放しました。私たちが食べる卵を採る分だけは残してますが、処分は可能です」


いるのはニワトリだから邪魔ならこちらで処分しますとのことだ。

ただ餌や利や掃除は必要だが、それだけで卵が得られるのは大きい。

ここで飼っていれば、食料を求めて街まで行く回数を減らすことができると彼らは言う。


「だそうだ」


羊飼いがそう締めると、老人は言った。


「とりあえず鶏小屋も見ていきますか?設備は残してありますんで、増やして使おうと思えば使えますよ」

「そうだな。お嬢さんだとヒツジより鶏の方が扱いやすいかもしれない」


ヒツジは一頭が大きい。

グレイがいるとはいえ、少女一人に任せるには荷が重いように思える。

一方、ニワトリは小さい。

失敗すれば逃がしてしまうこともあるかもしれないが、それで何かの害になることもないし、損害も大きくなくて済む。

必要があれば新しいニワトリを手に入れてきてもいいし、もし繁殖に成功できたならヒヨコから育ててもそう時間はかからない。

サーカスの動物と接してきたとはいえ、牧畜初心者のセルビアにはそちらの方が向いているかもしれない。

老人の言葉に納得した大人たちは、そんな話を済ませると小屋に向かって歩き出した。

もちろん、団長とセルビアもその後に続くことになった。

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