両親との再会
翌日、興行がいつも通り開始された。
セルビアはニコルと一緒に売店に立つ。
当然ながらテントは前に来た時と同じ空き地を使っているので、配置も同じだ。
街にいるからかそんなことまで懐かしく感じられる。
セルビアがそんなことを考えながら仕事をしていると、売店に両親が現れた。
どうやらきちんと観覧用の行列に並んで、入場料を払って中に入り、お客さんの入れ替えとなる、空いている時間を見計らって売店にいるセルビアのところにやってきたようだ。
「セルビア!」
先に声をかけて小走りに売店の購入口に寄ってきたのは母親だ。
その後ろを父親がにこやかについてくる。
「お母さん、お父さん!」
ニコルに行っておいでよと促されて、セルビアは売店のスペースから外に出て両親のもとに駆け寄った。
元気そうな両親を見てセルビアも安堵する。
「ちょっと見ない間に大きくなったんじゃない?」
「そうかな?」
これまで離れて暮らすことはなかったけれど、やはり一年以上離れて暮らせば成長が見える。
本人にはわからなくても、別れた時の面影を知る両親にはその差が歴然だった。
そしてもっと明確に大きくなったのはその横に立つグレイだ。
足元にくっついている様子は変わらないが、その大きさが明らかに違う。
「セルビアよりもグレイの大きさにびっくりだな」
父親が笑いながらセルビアとグレイを見下ろすと、セルビアは苦笑いした。
「最後に別れた時はまだ子犬くらいだったもんね。しかも急に大きくなったんだよ……」
「そうだったのか」
「がぅがぅ!」
グレイがセルビアの言う通りだと後押しするように返事をするのを聞いた父親が、笑いながらグレイに手を伸ばして頭を撫でた。
「鳴き声も勇ましくなったんじゃないか?」
グレイはその問いに答えず、気持ちよさそうに父親に撫でられている。
セルビアはそんな父親と、自分をじっと見ている母親に視線を送ると、言いにくそうに口を開いた。
「あのね、グレイ、犬じゃなくてオオカミだったみたい……」
セルビアがそう言うと、両親は顔を見合わせたが、すぐにセルビアを見た。
そして最初に口を開いたのは母親だ。
「あら、そうなの?でもグレイはセルビアの味方なんでしょう?」
「うん」
グレイはいつもセルビアを守ってくれる。
最初は番犬としてと言っていたが、グレイはそれ以上の活躍をしている。
クマの件を考えたら命の恩人でもある。
セルビアがしっかり返事をすると、母親は微笑みながらグレイを見た。
「じゃあ、犬より逞しい子が守ってくれててよかったと思うわ。グレイ、ありがとうね」
そう言って母親もグレイの背中を軽くさする。
「お母さん、本当?」
「ええ」
「よかった」
セルビアが安堵していると、母親が首を傾げた。
「どうして?」
「犬じゃなくてオオカミだって言ったら、一緒にいちゃダメって言われるかなって……」
セルビアがグレイと離されるかもしれないと思っていたと正直に気持ちを伝えると、父親がグレイから手を放してセルビアと向き合った。
「そんなこと言わないさ。だってグレイはグレイだろう?」
「うん」
「私たちが一緒にいられない分、セルビアと一緒にいてくれた、セルビアの大切なお友達じゃない。犬でもオオカミでもグレイはグレイだわ」
「うん」
セルビアは両親に返事をすると、今度は自分が体をかがめてグレイに抱き着いた。
「グレイ、お父さんもお母さんもグレイはグレイだって。サーカスの皆と同じでよかったよ」
「がぅがぅ!」
グレイは一鳴きしてから、セルビアの頬に顔を摺り寄せる。
そうして両親との再会を喜んでいると、公演終わりの団長が売店にやってきた。
そして三人の再会を微笑ましく眺めている。
三人が喜びあっているところを邪魔しないよう黙っていた団長だったが、母親がその視線に気が付いて慌てて体を起こして頭を下げた。
「すみません、団長さん、つい」
セルビアとの再会を喜ぶあまり、仕事の邪魔をしている時が付いた母親が慌ててそう言うと、団長は邪魔するつもりはなかったという。
「いえ。久々の再会ですから、私がいるのが無粋なのですが」
別に仕事に戻るよう催促しに来たわけではない。
むしろセルビアに休憩を出してゆっくり話す時間を設けようと思っていた。
ニコル一人で少しの時間問題ないかと確認するため、先にニコルに声をかけようとしたのだが、売店に向かっているところを母親の方に見つかってしまったのだ。
団長がばつが悪そうに言うと、両親は二人並んで頭を下げる。
「そんなことは、本当にお世話になりっぱなしで」
「こちらこそ。セルビアちゃんはうちの戦力としてサーカスを助けてくれていますよ」
「そう言っていただけると」
父親が団長とそんな会話をしていると、ニコルが言った。
「団長、せっかくの再会なのに、お二人を帰しちゃうんですか?」
ゆっくりしていけばいいし、自分なら一人で大丈夫だと団長が求めた答えをニコルが言葉にしたが、それを聞いたセルビアの母親が、ニコルのところに向かった。
「ニコルさんだったかしら?お気遣いありがとう。今日はセルビアが街に戻っているって聞いていたから、早く顔が見たくできてしまったけれど、今日は顔を見たくて来ただけで、お仕事の邪魔をするつもりはなかったの。忙しいところごめんなさいね。それと、いつもセルビアと仲良くしてくれてありがとう」
「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます」
ニコルはセルビアの母親に友人として認められたことを喜んで、嬉しそうにそう答えた。
ニコルの返事を聞いた母親は団長の方を向いて言う。
「団長さん、では休演日に改めて」
「ゆっくり時間を作ってあげられなくて申し訳ありません」
「いいえ、元気な姿を見られただけで充分です」
母親が切り出し、団長、父親が続けて話をしてまとめると、母親が父親に言った。
「私たちも次のお客様が来る前に出なければだめね。いきましょう」
その言葉に父親はうなずく。
「今日はありがとう」
セルビアが改めて二人に声をかけると、母親は振り返って言った。
「元気そうでよかったわ。お仕事頑張ってね」
「うん!」
公演の合間に、セルビアと両親は再会を果たしたのだった。




