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セルビアの過去

「やっぱりってことは、前に何かあったってこと?」


セルビアが父親の言葉を聞いて、これが予測できていたことだと察して聞くと、両親は顔を見合わせた。

そして先に父親が語り出す。


「まだ小さい頃、一人で森にいた時に、たくさんの動物がセルビアについてきてしまったことがあるんだ。記憶にないかもしれないが」

「それだけだったら良かったのだけれど、その後が大変で、しばらく家に沢山の動物が来るようになってしまったのよ。幸い攻撃的な動物はいなかったんだけど、それでもたくさんの動物や鳥が来るのはね……」


過去、セルビアが森に入った際、そのようなことがあったらしいと説明されるが、セルビアにその時の記憶はない。

二人は覚えていないだろうって言うけれど、一人で森に行こうとする年齢だったら覚えていそうなものだ。

もしかしたら三人で出かけて、ちょっと目を離した隙にとかそういう話かもしれない。


「それって、今みたいにってこと?」


とりあえず自分がなぜ一人で森にいたかについては一旦置いて、セルビアは話が進むよう確認する。

すると両親はその時の事を思い出したのかため息をついた。


「あの時は、こうなるなんてわからなかったから、今よりもっとひどかったわ。対策もできなかったし」


母親が怪訝な顔でそう言った。

きっと余程嫌なものだったのだろう。

今回の事がもし、母親にそれを思い出させてしまっているのなら申し訳ないとセルビアは思いながらも、セルビアは疑問を口にした。


「でも、今まではなかったよ?」


セルビアの記憶にある限り、動物が家に集まってきたりすることはなかった。

来るようになったのはグレイが来てから、そういう認識だ。

だからセルビアはグレイを連れてきた事を謝罪したのだ。

しかし父親は首を横に振った。


「それは、前にそういうことがあったから、集落が動物を寄せ付けないよう対策をしていたし、セルビアが集落の外に出なかったからだ」


セルビアを外に出さんしようにし、一方でやってくる動物たちを外に追いやり、彼らが嫌う音を連日出したりしながら、集落から動物たちを遠ざけた。

そうしているうちに彼らは集落を好まない場所と認識したのかやってこなくなった。

しかしそうなるまでの間、集落のほぼ全員が、動物たちの対処に追われることになってしまったのだ。

そしてその対処の後、セルビアを一人で森に出さないようにと、集落の人たちは自分たちの一家に強制したのだ。

だから両親はセルビアを一人で買い物に出すことができなかったのであって、セルビアができないと思っていたわけではないのだと父親がそう説明して頭を下げると、母親もごめんなさいねと言いながら頭を下げた。


「そうだったんだね。とりあえず理由はわかったよ。でも今来てる子たちは普通に入ってきてるよね?」


集落で動物たちが来ないよう対策をしたのなら、彼らは嫌がって入ってこないで、せいぜい来ても入口まで、そこで足を止めるに違いない。

なのに今、動物たちは堂々と入ってきている。

セルビアが不思議そうに言うと、母親がため息をついた。


「それがね。たぶんだけど、それはセルビアが寄せ付けてるんじゃないかって、そういう話なのよ。森に入ったらグレイが寄ってきたように、他の子たちもセルビアがここにいるって知っちゃったから来るようになったんじゃないかって。少なくともここの大人はそう考えているの」


セルビアの中ではグレイが寄せ付けているイメージだったけれど、グレイも含めてセルビアが寄せ付けているというのが彼らの判断らしい。

確かにグレイはなぜセルビアの後をついてきたのか、寄せ付ける体質でなければ、偶然以外セルビアにも説明できない。


「だから動物たちが来ないよう、街で暮らしてほしい、ここから離れてほしいってことなの?」


まずは集落に動物が来る原因となるものを他所にやりたい。

例え違ってもそうなる可能性のある者は一つでも多く排除したい。

寄り合いではそういう話になったのだろうとセルビアがため息をつくと、父親はその時の不快な感情を振り払うかのように首を横に振った。


「そうだ。でもそれが本当にセルビアのせいかどうかはわからない」


よほど悔しかったのだろう。

言葉の中にセルビアに非はないと証明したいという意思が見えた。

セルビアはこうして悔しがってくれる人が父親でよかったと思う。


「だからね、セルビアがいなくなってもこの集落に動物が来るようなら、セルビアが原因じゃないって証明できるし、逆に街にいるセルビアの周りに集まるようなら、やっぱりセルビアが原因じゃないかってことになっちゃう可能性があるわ」


今回、セルビアが宿で暮らすこと、それが無実の証明になるか、事実の証明になるかはわからない。

けれど二人もどこかで、セルビアに原因がある可能性を捨てきれないからこそ、彼らに従ってセルビアを外に出したがらなかったのだ。

口にはしていないけれど、きっと一緒に生活しながら他にも思い当たることもあったのだろう。


「つまり、集落が対策をしてこの状態ってこと?本当なら何かすごく迷惑をかけちゃってるね……」


実感はなくとも自分の存在が集落の迷惑になっている。

さすがにそう聞かされるとセルビアも落ち込む。


「とりあえずこの集落に動物が集まったら対策が難しい。警備の仕事にも支障が出てしまう。動物に対処している間に悪いやつが入り込んでこないとも限らない。だからその根源となるセルビアをこの集落から離れた場所にって、まあ、事実上の追放みたいな形だな」


父親が悔しさをにじませて唇を強く噛む。

それだけでセルビアには充分、寄り合いで父親が戦ってくれたことが伝わってきた。


「落ち着いたら戻ってこられると思うのだけれど、皆の怒りが収まるまではここにいない方が、セルビアも安全だと思うの」


続けて母親がそう言う。

集落の皆は、とりあえずセルビアがいなければと言っている。

セルビアは悪い事をしていないからここにいる権利はあるけれど、従わないことで反感を持ったり、その怒りをセルビアに向けてくる者がいるに違いない。

そうなったら危険なのはセルビアだ。

それこそ暴言では済まず、集団での暴力沙汰になりかねない。


「だからとりあえず、街の宿に移動してもらおうと思う。いきなり一人暮らしみたいになるけど、今まで家事全般は母さんから教わってきただろうからできるだろう?」


とりあえず宿から食事などは提供されるだろうが、長く滞在する以上、洗濯は必要になるだろうし、掃除も自分でした方が宿から見ても好印象だろう。

長くお世話になる可能性が高いのだから、家のお手伝いと同じくらいの事はして、宿の人と良好な関係を築いてほしい。

そんな願いを込めて父親が言うと、セルビアは足元のグレイを撫でた。


「そこは心配してないけど……グレイは一緒でいいんだよね?今まで一人になったことないし、グレイがいれば何かあっても心強いんだけど……。それに今更、グレイを森に捨ててくるなんてできないよ」


足元のふわふわの毛玉だったグレイは、ここ数カ月で大きくなった。

でもセルビアから見ればまだ可愛い子どもだし、何よりもう、グレイは友人の枠を超えて家族の一員のような存在なのだ。

両親と離れるならせめてグレイとは一緒がいいとセルビアが言うと、父親もそれは理解しているとうなずいた。


「一応、動物が一緒に入れる宿を取ってある。グレイは番犬だからな。きっとセルビアのことも守ってくれるだろう」


父親がグレイにも同意を求めると、グレイは父親の顔をじっと見る。

言葉も鳴き声もないけれど、二人はそれで分かり合えたようだった。

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